「私たちは、犬のことを知っているようで、実は犬がなにを感じ、なんのためにその行動をとっているのか、深く理解しないまま接しているケースがほとんどです。というのも、犬についての科学的な研究が本格化したのは2000年以降になってから。つまり、この20年ほどの間で動物行動学や、認知科学の見地から得られたデータによって、犬の研究は飛躍的に進んだのです」――と、「人と犬の関係学」の分野で日本初の博士号を取得したドッグトレーナーの鹿野正顕さんはいいます。この連載では、科学に基づいた愛犬との信頼関係の結び方、効果的なトレーニングについて鹿野さんに語ってもらいます。
※本稿は、鹿野正顕『なぜ犬は全力で私を愛してくれるのか』(小学館)の一部を再編集したものです。
イラスト/しまだなな
愛犬のトレーニング効果を左右するのは「睡眠」だったとハンガリーの実験でわかった
しつけトレーニングで学習したことを記憶として定着させるには、脳内の神経細胞であるニューロンを成長させ、新しい回路をつなぐことが必要です。そのためには、睡眠で脳を休ませながら、神経細胞を成長させる時間を与えるとよいとされています。
ハンガリーの2017年発表の実験では、15頭の犬を対象に、学習した後に3時間の睡眠をとったグループと、学習せずに3時間の睡眠をとったグループの脳波を計測しました。すると、学習したグループの脳波が学習していないグループとは異なる脳波パターンを示しました。さらに、睡眠前より学習成績が向上したことから、記憶の定着に睡眠が大きく関係していることが明らかになったのです。
犬も一夜漬けで詰め込んだものはすぐに忘れてしまう
飼い主は、早く覚えてほしいという気持ちが強く、毎日長時間のトレーニングを続けてしまうことがよく見られます。
しかし、それは学習したことを定着させるという目的においては逆効果。前述したようにトレーニングの間に遊びを挟むことも有効ですが、学習後に睡眠をとって休ませることも重要です。
人間もそうですが、一夜漬けで詰め込んだものは、すぐに忘れてしまい、毎日少しずつ反復したものほど覚えがよいことがあります。それは犬も同様で、トレーニング後に脳内の神経細胞を成長させる時間を与え、起きてからまた短時間でもよいので同じことを反復すると、記憶が定着しやすくなるのです。
最後に、トレーニングの話でぜひお伝えしたいことをひとつ。犬用の個室である「クレート」を、移動時だけではなく、つねにハウスとして利用するトレーニングを心がけてほしいのです。
環境省の見解としては、災害時にはペットを同行避難させることが推奨されています。理由は、ペットの安全はもちろん、逃げ出して人間に危害を加える可能性もあるためです。東日本大震災のとき、福島県ではやむなく置き去りにされた飼い犬たちが野犬化し、問題となったこともありました。
そして、避難所に愛犬を連れていくときも、飼い主がきちんと管理することが基本的なルールとなっています。
自宅に帰れるようであれば自宅で管理できますが、避難所で暮らす必要がある場合には同伴避難をすることになります。ただし、どこの避難所で同伴避難ができるかは、そのときになってみないとわからないのが現状です。
体育館のような場所で集団避難をする状況では、ダンボールでしきりをつくるような状態になり、犬だけ自由にするわけにはいきません。そうした状況の場合、当然クレートなどで管理することが必須となります。このような状況が不慣れな犬の場合、不安から吠え続けるなど、集団生活に差し支えが出てきてしまうのです。
そのため、普段からクレートで寝起きをするようにしておけば、避難所内でも落ち着いて過ごすことができます。これができていないと、たとえば真冬に車中泊をしたり、避難先の小学校の鉄棒につないだりして飼わざるを得ない状況に。
外飼いで対応した場合も、1頭が吠えるとみんなが吠える騒音問題とか、排泄による悪臭の問題であるとか、いろいろな問題が浮上します。福島県のケースでは、こういう状況のときも飼い主たちが協力してルールを決めたりして対応していたようです。
私の最新著書『なぜ犬は全力で私を愛してくれるのか』には、トイレ、散歩、ドッグラン、ムダ吠えなどの基本的なトレーニングに加えて、ハウストレーニングの方法についても触れています。
著者/鹿野 正顕(かの・まさあき)
ドッグトレーナー、スタディ・ドッグ・スクール代表
1977年、千葉県生まれ。スタディ・ドッグ・スクール代表。学術博士(人と犬の関係学)。獣医大学の名門・麻布大学にて「人と犬の関係学」の分野で日本初の博士号を取得する。
卒業後、人と動物のよりよい共生を目指す専門家、ドッグトレーナーの育成を目指し、株式会社Animal Life Solutionsを設立。犬の飼い主教育を目的とした、しつけ方教室「スタディ・ドッグ・スクール」の企画・運営を行いながら、みずからもドッグトレーナーとして指導に携わっている。2009年、犬の行動改善やトレーニングに関して、信頼性の高い知識とスキルを持つと評価されるドッグトレーナーの国際資格CPDT-KAを取得。日本ペットドッグトレーナーズ協会理事長。「犬の行動学のスペシャリスト」としてメディアでも活躍中。最新著書は『なぜ犬は全力で私を愛してくれるのか 飼い主の「なぜ?」に科学ですべて答える本』(小学館)。








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