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人口減少に打ち勝つための切り札となるか?地方自治体がWeb3に挑む理由

2025.12.05

なぜ今、地方がWeb3に注目するのか

人口減少、過疎化、財政難――日本の地方都市が直面する課題は深刻です。しかし今、その突破口として注目を集めているのが、ブロックチェーン技術を基盤とする「Web3」の活用です。

特にNFT(非代替性トークン)やDAO(自律分散型組織)といった新技術は、地域のファンづくりや資金調達の新たな手法として期待されています。総務省や経産省も支援制度を整備し始め、自治体による本格的な挑戦が次々と始まっています。

■3つの大きな潮流

1. ふるさと納税のデジタル化
返礼品競争が激化する中、NFTという「在庫を持たないデジタル特産品」が登場しました。新潟県山古志の「Nishikigoi NFT」は、寄付額を伸ばした成功例です。体験や限定コンテンツと組み合わせた新しい商品設計が評価されています。

2. 観光リピーターの創出
観光スタンプラリーやご当地キャラクターをNFT化し、訪問者のウォレットに”思い出”として残す試みが各地で始まっています。NFT保有者限定の特典を用意することで、「また行きたい」という動機を高めることを目的としています。

3. 国の本格的な後押し
「デジタル田園都市国家構想交付金」など、政府の支援制度にNFT・ブロックチェーン関連の実証事業枠が明記されました。これまで二の足を踏んでいた自治体も参入しやすくなり、裾野が急速に広がっています。

Web3 匿名性の特徴

地方創生におけるWeb3活用で注目される特徴の一つが「匿名性」です。従来の地域づくりでは、発言者の立場や肩書きが意見の採用に影響することも少なくありませんでした。しかし、DAOをはじめとするWeb3コミュニティでは、ウォレットアドレスによる参加が可能なため、年齢、職業、居住地といった属性に縛られない対等な議論が実現します。

心理的安全性が生む活発な議論
匿名での参加は、特に地方の小さなコミュニティにおいて大きな意味を持ちます。「地元の有力者に意見しづらい」「若手の声が届きにくい」といった従来の課題を解消し、誰もが率直にアイデアを出し合える環境が整うのです。

アイデアの質で評価される文化
匿名性のもう一つの利点は、発言者の属性ではなく「アイデアそのものの質」で評価される文化が育つことです。これにより、これまで埋もれていた斬新な提案が日の目を見る機会が増え、地域に新しい風を吹き込みます。

多様な参加者を呼び込む入口
また、匿名性は「ちょっと覗いてみたい」という気軽な参加のハードルを下げる効果もあります。本名を明かさずに参加できることで、まずはコミュニティの雰囲気を確かめ、徐々に関わりを深めていく――そんな段階的なエンゲージメントが可能になります。

このように、Web3の匿名性は、地方創生において「開かれた議論」「多様性の確保」「心理的安全性」という3つの価値を同時に実現する重要な要素となっているのです。

全国に広がる先進事例 橋本市 Web3で拓く新しい地域おこし

■トシタナカ氏が描く未来図

(画像:トシタナカ氏)

和歌山県橋本市では2025年5月、地域おこし協力隊制度とDAOを組み合わせた画期的なプロジェクトが始動しました。

この制度を利用してUターンしたトシタナカ氏は、音響・映像ディレクターとしての経験に加え、AI・VTuber・NFT制作にも精通する多彩なクリエイター。「好きなことでつながり、経済も心も豊かにする」をモットーに、生まれ故郷である橋本市の活性化に挑んでいます。

地域おこし協力隊としての彼のミッションは、株式会社あるやうむが提供する「地域おこし協力隊DAO」を活用し、Web3技術とAIを活用した新しいまちづくりを実現することです。この取り組みは、関係人口の創出やネガティブな地域課題の解決を目指すものです。

■DAOに期待するもの

「非中央集権組織であるところ、クリエイターがAIを活用し、DAOによって自由に発言すること、スマートコントラクトによる透明性、ガバナンスに希望を持てました。将来的には、DAOのなかで経済が回るようにしたいんです」

トシタナカ氏の言葉からは、誰もがスマホなどを活用して橋本市の魅力を発信したり、作品をつくったりできる。そんな「みんながクリエイターになれる街」への強い思いが伝わってきます。

■「橋本推忍!DAO」が目指すもの

プロジェクトは、まず橋本市の「推し」を探すところから始まったそうです。この期間だけで3~4ヶ月をかけ、地域の魅力を丁寧に掘り起こしていったと言います。

そして、コミュニティに入るためのフックとして浮かんだのが「検定」というアイデア。これが「橋本市検定(通称 はしけん)」です。

「はしけん」―ゲーム感覚で学ぶご当地クイズ

橋本市の歴史・自然・特産品などを楽しく学べるご当地クイズ「橋本市検定(はしけん)」は、従来の堅苦しい検定試験とは一線を画すユニークな取り組みです。

インスタグラムで毎日クイズを出題し、それに答えていくことで誰もが「橋本マニア」になれる仕組み。みんなでワイワイ楽しく検定として設計されており、合格者には今後NFT修了証が付与される仕組みも計画中とのことです。

ゲーム性を持たせることで繰り返し挑戦したくなる工夫が随所に施されており、スマホがあれば誰でも参加可能。地元住民はもちろん、橋本ファンや旅行者も気軽に挑戦できる内容となっています。

マスコットキャラクター「はしけん」は愛らしい白い犬。この親しみやすいキャラクターが、検定の顔として活躍しています。

■「橋本推忍!DAO」―開かれたコミュニティ

「橋本推忍!DAO」は2025年10月28日、LINEオープンチャットで正式に開設されました。

匿名での参加が可能で、地位や仕事に関係なく、DAOのなかで個人の意見やクイズなどを自由に出し合える場所。また、橋本市の公民館で開催されているAI教室の生徒さんにも参加してもらい、幅広い世代が交流しています。

AIやNFTを通じて楽しく橋本市を盛り上げる活動が、地元の人も遠方のファンも一緒になって進行中です。

■任期中の目標、そしてその先へ

「今後、ふるさと納税の返礼品でNFTアートなどを目指したい。それを橋本推忍!DAOなどを含めてみんなで創りたい。これが任期中の目標です。またAIアートや音楽などのイベント――仮称『AIアートフェス』みたいなものもやりたいですね」

そして3年後には、DAOの仲間たちがリアルに集まれる場所――コワーキングスペースのような拠点も作りたいと、トシタナカ氏は目を輝かせます。

そのほかにも、デジタル市民で先行するエストニアの動きや、サブカルチャーの祭典であるコスプレサミットなどの事例も参考にしながら、橋本市独自のWeb3まちづくりを模索し続けています。

■全国に広がる地域おこし協力隊DAO

橋本市の取り組みは、北海道札幌市のスタートアップ「あるやうむ」が展開する「地域おこし協力隊DAO」プログラムの一環です。現在、全国15の自治体で同様のプロジェクトが進行中。

「リアル×デジタルの地域づくり」という新しい働き方は、単に地方に移住するだけでなく、DAOという開かれた協働の場で地域と共に学び、悩み、考える仲間を増やす取り組みとして注目されています。

これからの地方創生×Web3

2025年現在、地方都市におけるWeb3活用の波は着実に広がりつつあります。電子住民票NFTで全国からファンを募り、DAOによって集まった知見を地域経営に反映する――これまでになかったアプローチが各地で現実のものとなっています。

もちろん、課題もあります。NFT購入者を継続的な協働者に育てること、デジタルに不慣れな層にも恩恵を届けること。これらは今後の重要な検討事項です。

しかし、地域内外の人々を巻き込むオープンイノベーションの風土が芽生え始めた意義は大きく、「新たな自治体運営の形態」として期待が高まっています。

国のデジタル政策も追い風となり、各地の成功事例は今後さらに横展開されていくでしょう。Web3は地方に眠る資源や魅力を世界へ発信し、人・物・金の流れを変える切り札になるかもしれません。

あなたの地域でも、きっと新しい挑戦が始まっているはずです。地方創生×Web3の潮流は、これからも私たちに新しい驚きと可能性をもたらしてくれることでしょう。

文/りんたろう
地方創生×テクノロジーをテーマに取材・執筆を行うライター。人口減少や過疎化といった地域課題に、Web3・DAO・NFTなどの新技術がどう応えうるかを探り続けている。自治体の先進事例から現場で奮闘するキーパーソンまで、足を運んで声を聴くスタイルを大切にする。専門用語に頼らず「読めばわかる」記事づくりを心がけ、技術と地域をつなぐ橋渡し役を目指している。

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