厚生労働省によれば、2024年の平均寿命は女性が87.13歳、男性が81.09歳となり、前年と比べ女性は0.01歳下回り、男性は同じ。世界のデータと比べ女性は40年連続で1位となった。
長寿命な日本だが、生活習慣病リスクや健康寿命延伸は誰もが他人事ではない。寿命を延ばす食事や生活の研究が進む中、近年は後天的な「遺伝子」の研究からも対策が模索されている。
10万人の研究データによって明らかになった、健康で長生きできる食事の摂り方とは?
健康長寿を目指すなら、この食事がベスト 高齢になっても健康を維持するためには、中年期にどのような食生活を送れば良いのだろうか。10万5,000人を超える男女を最…
今回は、医師のもと、“遺伝子的な”観点からの長寿食とは何かを解説してもらった。
後天的な遺伝子制御の状態「エピジェネティクス」とは
アンチエイジングに詳しい医師の日比野佐和子氏によれば、最近では、「エピジェネティクス(後天的な遺伝子制御の状態)」の視点から、生活習慣などを見直す研究が進んでいるという。
エピゲノム解析(遺伝子の解析)の技術も身近になり、遺伝子の働きから体内年齢を推定することも手軽にできる。
日本ではレリクサ社などが、ヘルスケア意識の高いコンシューマー向けに生物学的年齢(体内年齢)の検査サービスも提供している。
「遺伝子は『生まれつき決まって変わらないもの』というイメージが強いですが、実際には日々の生活習慣や環境が遺伝子の働きに大きな影響を与え、後天的な変化を引き起こすことがわかっています。エピジェネティクスが悪い方向に傾いた場合、若いうちであれば食事や運動によって比較的リセットしやすいものの、不規則な生活や強いストレスを長年続けていると、その変化が固定化しやすくなり、簡単には元に戻らなくなることもあります」
【取材協力】
日比野 佐和子氏
医療法人社団康梓会 SAWAKO CLINIC x YS 統括院長
大阪大学大学院医学系研究科未来医療学寄附講座 特任准教授
内科医、皮膚科医、眼科医、日本再生医療学会認定医、日本再生医療学会代議員、日本抗加齢医学会専門医。同志社大学アンチエイジングリサーチセンター講師、森ノ宮医療大学保健医療学部准教授、(財)ルイ・パストゥール医学研究センター基礎研究部アンチエイジング医科学研究室室長などを歴任。エイジマネジメント医療における第一人者として、最新の抗加齢医療、再生医療では専門的な知識と実績で、国内外のVIPの治療を担当。最先端の遺伝子検査を含む予防医療、ゲノム栄養学、分子栄養学指導などと、プラセンタ療法や幹細胞上清を用いたエクソソーム療法、各種美容皮膚科治療、美容内科治療、がん治療(免疫療法)、ホルモン補充療法、点滴療法など多岐にわたる診療を行う。レリクサ社のエピゲノム解析も監修。日本の再生医療のパイオニアでもある。
エピジェネティクスの視点から健康に長生きする方法について、日比野氏は次のように述べる。
「近年の研究では、特定の栄養素や生活習慣の改善を通じてエピジェネティクスを書き換えることが可能であることがわかってきました。
これまでの解析からは、1.魚介類中心の食生活、2.定期的な有酸素運動、3.良質な睡眠環境が、より若々しい“エピジェネティック年齢”(DNAの状態をもとに推定される生物学的年齢)と相関していることが示されています」
遺伝子的に寿命を延ばすための食事とは?
エピジェネティックな観点から、食事で意識すべきポイントは、次の3つだ。
1.老化を進める炎症と酸化ストレスを抑える抗酸化食材
「エピジェネティクス研究では、慢性的な炎症や酸化ストレスがDNAメチル化の異常や老化関連遺伝子の活性化を促すことが報告されています。DNAメチル化のパターンは、エピジェネティック時計とも呼ばれ、エピジェネティック年齢を測定する代表的な指標となっています。DNAメチル化が進むほど生物学的老化が加速すると考えられています。
そこで毎日の食事では抗酸化・抗炎症作用のある食材を取り入れることが重要です。
緑黄色野菜やベリー類、トマト、緑茶、青魚などを毎食1~2品加えることで、抗酸化酵素発現を促し、炎症関連遺伝子の働きを抑える効果が期待できます。
おすすめ食材は、緑黄色野菜、ベリー類、トマト、緑茶、青魚、亜麻仁(アマニ)です」
2.魚介類を中心とした食生活でタウリンを摂取
「魚介類に多く含まれるタウリンやEPA/DHAは、強力な抗酸化作用を持ち、細胞内の浸透圧を調整して自律神経の安定にも寄与します。
特にタウリンは、近年エピジェネティクスに影響を与える可能性がある栄養素として注目されており、寿命延長効果を示す研究も報告されています。中年マウスにタウリンを投与した実験では、骨密度低下の抑制、筋力や代謝機能の改善、さらに認知機能の維持効果が確認されました。
これらの結果は、タウリンが健康寿命の延伸に寄与し得る有望な栄養素であることを示唆しています。魚、イカ、タコ、ホタテなど、日常の食卓に取り入れやすい食材からタウリンを摂取することは、エピジェネティックな健康維持にも役立つと考えられます」
3.過剰エネルギーと血糖値スパイクを避ける低GI食
「過剰なカロリー摂取や血糖値スパイク(食後の急激な血糖上昇とその後の急降下)は、酸化ストレスや慢性炎症を引き起こし、老化関連遺伝子の活性化やエピジェネティック異常につながります。
そのため、低GIの炭水化物や食物繊維を意識して選び、腹八分目を心がけることが重要です。
おすすめは、玄米、全粒穀物、豆類などです。これらは血糖の上昇を穏やかにし、インスリン感受性の改善や代謝の安定に役立ちます」
4.メチル供与体とヒストン修飾をサポートする栄養素を補う
「エピジェネティクスの制御には、DNAメチル化やヒストン修飾といった分子レベルの調節機構が深く関わっています。これらの仕組みを健全に維持するためには、食事から特定の栄養素を補うことが有効です」
●メチル供与体(DNAメチル化に関与):葉酸、ビタミンB12、コリン、ベタイン(例:ほうれん草、卵黄、豆類、全粒穀物に豊富)
●ヒストン修飾関連(遺伝子のON/OFFに関与):ポリフェノール(レスベラトロール)、ケルセチン、クルクミン(ターメリック)、硫黄化合物(ブロッコリースプラウトなど)
「これらの栄養素を日常的に摂取することは、遺伝子の働きを最適化し、老化スピードを緩やかにする“分子栄養学的アプローチ”となります」
「魚介類中心の食生活」を手軽に実践するには、 缶詰・冷凍・パウチを常備するほか、コンビニではサラダフィッシュやサバ味噌煮パウチ、ツナ缶+サラダを選ぶと良いそうだ。定食屋では焼き魚定食や刺身定食を優先し、揚げ物よりも焼き・蒸し料理を選ぶのがポイント。居酒屋では刺身、炙りしめ鯖、ホッケ、イカの塩辛などがおすすめだそうだ。
今から長寿のための食事を意識して、少しでも寿命を伸ばしたいものだ。
取材・文/石原亜香利







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