「妊娠中のつわりで思うように食事が摂れないときでも、冷たくさっぱりしたジェラートは食べられた」そんな実体験から生まれた、女性を応援するジェラートがある。
手掛けたのは山形県天童市のジェラート専門店「COZAB GELATO(コザブジェラート)」。
日本で初めて妊産婦さんに特化したアイスクリーム
今年5月から販売されている「VITA GELATO マタニティ」は、山形大学医学部教授監修のもと開発された妊産婦さんのためのジェラートだ。
味覚や食欲に影響が出るつわり中でも美味しく食べられる3種のフレーバーと、妊娠中や産後に特に必要な7つの栄養素を補うことができる逸品。
妊産婦さんに特化したアイスクリーム類としては日本で初めての商品となる。
今回、ご主人と「コザブジェラート」を営む、オーナーの石田真澄さんに話を聞いた。高い栄養価がありながら美味しいジェラートはどのようにして開発されたのか?
そして、山形は意外とジェラート王国(?)その秘密にも迫る。
――「VITA GELATO マタニティ」開発のきっかけを教えてください
「2018年から「コザブジェラート」を運営しているのですが、お客様の中には「娘がつわりで何も食べられなくて」というお母さまや、「自分へのご褒美なんです!」とおっしゃる妊婦さんがお見えになることが度々ありました。そうしたお声をきっかけに妊娠期の方に向けた商品づくりを意識するようになりました」
「私は山形大学医学部看護学科を卒業後、看護師を経て新薬開発の仕事に10年以上携わり、一方、夫はイタリアで料理やジェラート作りを学びました。医療職としてのバックグラウンド、自身の妊娠中の経験、そして店舗でのリアルなお客様との対話——これらが重なり合って生まれたのが「VITA GELATOマタニティ」です」
一般的に妊娠中は食の好みが変化することが多いと言われ、さらには意外な香りが苦手になる方も少なくないという。
「特につわりの時期はにおいに敏感になり、それまで好んでいた食べ物が受けつけられなくなることも珍しくありません。たとえば、コーヒーの香りや炊きたてご飯のにおいが苦手になる方も多いです」
「また、つわりは妊婦さんの約9割が経験するといわれ、ほとんどの方が何かしらの症状を感じます。その中で比較的食べやすいとされているのがアイスクリーム類やゼリー、酸味のある果物など、“冷たくてさっぱりしたもの”。特にアイスクリーム類は「つわり中でも食べられたもの」「妊娠中に食べたくなるもの」として、さまざまな調査でも常に上位に挙げられています」
そんな方々に寄り添うために生まれた「VITA GELATOマタニティ」。開発で最も苦労したのは、「栄養価」と「美味しさ」の両立だった。
「すべては妊娠期の方が抱える2つの課題を解決するためのジェラートなんです。ひとつは『妊娠中に必要な栄養がきちんと摂れているか不安であること』、もうひとつは『つわりで美味しく食べられるものが限られてしまうこと』です」
「栄養設計では、山形大学医学部の教授2名に監修をお願いし、厚生労働省の『日本人の食事摂取基準』や最新の研究データをもとに設計しました。食欲が落ちるつわり中でも「食事+ジェラート」で1日の栄養充足率100%を達成できるよう設計しています」
「そしてもう一つ大切にしたのが、「美味しさ」。妊婦さんを対象とした試食会を開催して意見を聞きながら、原材料の選定や風味のバランスまで丁寧に調整し、心にも身体にもやさしい味わいを目指しました」
「妊娠中はどうしても「赤ちゃんのために」と自分を後回しにしてしまいがちですが、だからこそこのジェラートで「赤ちゃんのためだけでなく自分のためにも」ひとときのやすらぎと満足を感じてもらえたら——そんな想いを込めています」
正直、医学的根拠に基づいた栄養設計と美味しいものは相容れないように思われるが、ご夫婦の努力とこだわりにより、見事なコラボが実現した。
「ジェラートに含ませている栄養素の中には、風味に独特のクセを持つものがあります。特に「鉄」と「DHA」です。鉄にはいわゆる“鉄臭さ”があり、DHAは青魚に多く含まれる成分のため“魚っぽいにおい”が出やすい。そのため、原材料の選定にこだわりました」
「鉄は特殊なコーティング加工が施され、風味が穏やかなものを採用。DHAは魚ではなく海藻由来のものを使うことで、においを大きく軽減できました。それでもわずかに残るクセはジェラートの配合とレシピの工夫でカバーし、“栄養を補えるかつ、純粋に美味しい”と感じてもらえる仕上がりを目指して何度も試作を重ねました」
筆者も実際に味わったのだが、単純に美味しい。
フルーツの旨味をダイレクトに感じられる濃厚さとほどよい酸味は、ありきたりな健康食とは一線を画す満足感がある。
美味しさと栄養満点を兼ね備えたスイーツだけに、それは発売後すぐに反響を呼び、当初の想定を上回る注文が殺到。北海道から沖縄まで全国各地から、「つわりのときにすごく助けられた」「ギフトとして贈ったらとても喜ばれた」という声が届けられたという。
中にはこんな方も。
「60代くらいの方が「抗がん剤治療をしている姉にいいんじゃないかと思って」とご来店くださいました。言われてみれば、抗がん剤治療中の方も吐き気や食欲不振といった症状がつわりと似ており、「食べられるものが限られてしまう」という点では共通しています」
「VITA GELATOマタニティはあくまで妊産婦さん向けに設計した商品ですが、妊娠期だけでなく、病気や治療と向き合う方などさまざまな方の「食べるよろこび」に寄り添える可能性を感じました。今後はそうした方々にも届けられる商品展開を考えていきたいと思っています」
嗜好品以上の価値と食べるよろこびを世界に届ける
石田さんがオーナーを務める山形県天童市のジェラート専門店「コザブジェラート」。もともとは松尾芭蕉にゆかりのある観光名所・山寺のふもとで2018年に開業した。
ジェラートを手掛けるご主人の大さんと共に専門店を始めたそうだが、そもそも山形でなぜジェラートだったのか?
「私は山形出身のUターン、夫は埼玉出身のIターンなのですが、山形で何を生業としていくかを二人で考えたとき、夫がイタリアで料理を学び、現地のジェラート文化に魅了されていた経験を活かそうと思いました」
「ジェラートは素材そのものの良さを活かし、季節や土地の恵みをありのまま表現できる商材です。山形の豊かな果物や農産物とイタリアで培った技術を掛け合わせれば、ここでしか作れない味を届けられるのではないか——そう考え、「コザブジェラート」を立ち上げました」
そんな石田さんのお店がきっかけとなったのか、ここ数年山形県内には続々とジェラートのお店が誕生している。意外と山形県民はジェラートが好きなのかもしれない。
「私たちが創業した当時、道の駅や産直施設に併設されたジェラートコーナーはありましたが、「ジェラート専門店」として独立している店舗は県内にありませんでした。それがジェラートを商材として選んだ理由のひとつでもあります」
「最近、ジェラート専門店が増えているのは、もしかすると「コザブジェラートの姿を見て“後に続きたい”と思ってくださった」ことも少なからず影響しているのかもしれません(おこがましいですが)」
「ただ、山形県は「お菓子屋(専業菓子店)」の店舗数が非常に多く、かつては人口10万人あたりのお菓子屋店舗数で全国トップになったこともあるので、もともと甘いものを好む文化があるのかもしれません」
2023年、イタリア・フィレンツェの老舗ジェラートショップ「Badiani(バディアーニ)」が日本初上陸し、今年11月には羽田空港第1ターミナル地下1階に関東初の店舗をオープンした。
1932年創業の「イタリアの本気」がついに襲来。しかも近年は、イタリアの人気ジェラート店が相次いで日本に進出しているという。
日本屈指のジェラート専門店として人気の「コザブジェラート」にも今後の期待が高まる。東北の地から、どんな美味しい未来を見せてくれるのか?
「私たちは『ジェラートに“嗜好品”以上の価値を。』というテーマを掲げ、ジェラートを通して山形の魅力を伝えることを理念に地元の農家さんや生産者の方々と共に土地の素材の良さを全国へ発信してきました」
「一方、「VITA GELATO」は、「ジェラートで人々の人生に寄り添う」を理念に、妊娠期をはじめとしたさまざまなライフステージに寄り添いながら“食べるよろこび”を届けることを目指しています」
「今後は、この2つの理念をさらに深め、“社会に貢献できる新しい価値”を見据えながらジェラートの可能性を広げていきたいと思っています」
取材協力
COZAB GELATO
VITA GELATO特設サイト
COZAB GELATO公式インスタグラム
文/太田ポーシャ
【2025ヒット商品総決算】マニアの心を掴んだミルクアイス、Z世代女子の今年のスイーツNo.1、最新グルメ18選
2025年、物価上昇の時代に生活者の消費マインドはどう変化し、人は何を欲したのか。 ジャンル別の様々なトレンドデータ分析とともに、売れた、バズった、話題になった…







DIME MAGAZINE


















