■連載/阿部純子のトレンド探検隊
「声の保護と多言語化協会(VIDA)」のキックオフ会見が都内で開かれた。VIDAは音声AIプラットフォーム「ElevenLabs(イレブンラボ)」と共に、声優・俳優の無断生成AI問題の対策に取り組むために結成された協会で、同時にイレブンラボの多言語化技術を活用した、声優・俳優の声の海外展開のビジネスにも着手する。
アメリカ大統領選でのディープフェイク対策に貢献した「イレブンラボ」が協力
日本のアニメ産業は、海外での人気を背景に3兆円規模に市場が成長を続けており、特に海外ファンは字幕版を好む傾向が強く、日本の声優は国際的にも高い人気と貢献度を誇る。
その一方で、声優を含む音響制作費は長年横ばいであり、業界の成長が声優の待遇改善に繋がっていないという実態がある。
さらに近年、生成AIによる「声の海賊版」やディープフェイクが深刻な問題となっている。声優は法律上「実演家」とされ、自身の声が無断でAIに学習・利用されることへの対策が難しい状況にある。
同協会の代表理事を務める久保雅一氏(area358代表取締役)は、小学館でコミック編集、アニメ・実写のプロデュースを手掛けてきた経験から、アニメ業界に恩返しがしたいと同協会の立ち上げに携わった。
「声の保護と多言語化協会は、声優・アーティストのみなさんの声を守り、声の新たな可能性を広げるために立ち上がった団体です。この協会を作るきっかけとなったのが、驚くべき声のAI技術を持ったイレブンラボさんとの出会いでした。
日本国内のAI技術はまだ発展途上でありますが、ディープフェイクの対策に優れた多言語機能を持つイレブンラボさんとの協業に未来が見えたような気がいたしました」(久保氏)
2022年設立のイレブンラボ社は、高度なAI音声生成技術を専門とする、ニューヨークを拠点とした企業。AIの音声の世界シェアは70%以上を誇るが、過去に自社技術がフェイクニュースに悪用された経験から、声の保護技術開発に注力している。
アメリカ大統領選で発生したバイデン、トランプ両氏のディープフェイク対策で高い評価を得て、今夏にはアメリカ大統領夫人・メラニア氏のオーディオブックも手掛けた。
「世界中インターネット上で飛び交っている生成AI音声の7割ほどは弊社が生成したものです。あまり表に出てくる社名ではないですが、みなさんがよくご存じの英語学習教材の発音音声なども手掛けていますので、おそらくどこかで必ずお聞きになっているのではないかと思います。
我々が選ばれている理由は、本人のキャラクターを生かした人間らしい発声できるというところです。本人の声を活かした吹き替えは約30の言語に対応しておりまして、英語もアメリカ英語、イギリス英語、オーストラリア英語など地域によっての違いも表現できます。
そして重要なこととして、声の権利者に対しては非常に尊重しています。我々のプラットフォームで声を登録して公開すると、それが使われた時に、登録者、権利を持っている方に収益が分配されるというような仕組みを最初から実装しています」(イレブンラボ ジャパン合同会社 ゼネラルマネージャー 田村元氏)
イレブンラボの技術として、「デジタル透かし」は、生成された音声に識別情報を埋め込み、正規の音声か否かを判別可能にする。「来歴記録」は、誰が、いつ、何を使って音声を生成したかの履歴を国際規格に準拠して記録するもので、デジタルコンテンツの出所と真正性を保証するためのオープンな技術標準を策定する業界団体「C2PA」に対応している。
また、プラットフォーム上で声が正規に利用された場合、権利者である声優に収益が分配される「収益分配モデル」を実装。イレブンラボはこれらを技術やビジネスモデルを使い、声の権利保護と多言語化で全面的に協力する。
AIによる多言語化の実証実験
ゲストには声優のかないみか氏が AIによる吹き替えの実証実験に参加。かないさんが話すセリフをイレブンラボの田村氏がスマホで撮影し、自身の声が多言語に変換されるプロセスを実演した。
自身が話したセリフが、自身の声で英語、フランス語、スペイン語に変換されたのを聞いて、かない氏も驚いた様子。
「私たちは外国の映画やアニメーションの時に、原語の声を聞きながら、日本語のセリフに変えますが、今回は逆バージョンを聞いた感じで、私が英語をしゃべれたらこんな感じなのかなと(笑)。自分の声にどのくらい似ているのか、まだ客観視できないんですが、これからさらにクオリティがどんどん上がればいいなと思います。
私たちの声が無断で使われてしまうことを危惧していたので、このようなAI技術を活用してだければ、私たち声優の権利も守っていただきながら海外の人にも喜んでもらえるので、うまく融合していただけたらうれしいですね」(かない氏)
声優自身の声を活かした多言語吹き替えにより、字幕が読めない子どもなど、より幅広い層へ日本のアニメを届けられる、南米、中東、アフリカなど、これまで展開が難しかった地域への進出や、過去の名作アニメや実写作品の海外展開も容易になるといった、新たなビジネスチャンスが期待される。
声優プロダクション「81プロデュース」代表取締役社長の南沢道義氏は、声優業界の代表としてこう話す。
「声の保護と多言語化が業界の未来を握る重要な課題であると考えています。AIを“ピンチ”として見るだけでなく、勇気を持って一歩踏み出す“チャンス”だと捉えるべきでしょう」
人気声優の水島裕氏、梶裕貴氏、山寺宏一氏もビデオメッセージを寄せた。水島氏は、AIの技術的進歩を認めつつ、声優の仕事は文字を音にすることではなく、感情を込めてキャラクターに付加価値を与える「アテレコ文化」であると強調し、この文化を守る必要性を訴えた。
梶氏は、AI技術が日本の声優文化を世界に広める可能性に期待する一方、役者として「自分の芝居と言えるのか」という複雑な心境を吐露。無断生成や悪用を防ぐため、声優自身が公式に権利を保持することの重要性を訴えた。
山寺氏は、生成AIの進歩に期待と危惧を表明。「ノーモア無断生成AI」の活動に賛同し、声の無断使用に反対の意を明確にした。一方で、許諾を得た上での多言語化には面白さを感じると述べ、AIに負けない演技を目指す決意を語った。
海賊版対策を業界との連携について、「日本音声AI学習データ認証サービス機構(AILAS)」代表理事の倉田宜典氏はこう話す。
「AILASは日本の音声AIを開発するメーカーが集まる日本で唯一の団体です。自主的なルールを策定し、それを守る製品に認証マークを発行しています。正規の製品には電子透かしを必ず入れること、そして不正利用が疑われる音声が見つかった際に各メーカーが連携して調査する体制を構築することで海賊版対策に協力し、安全なAI利用環境を推進していきたいと思っています」
【AJの読み】AIによる声の偽造からAIを使って権利を守りビジネスチャンスに変える
当連載でも紹介したNTT西日本の音声AI事業「VOICENCE」や、伊藤忠商事と日本俳優連合による音声データベース「J-VOX-PRO(仮称)」など、声優・俳優の業界と企業がタッグを組んで声の権利を守る動きが活発化している。裏を返せば、それだけ海賊版やディープフェイクが世界で横行しているということだろう。
「声の保護と多言語化協会(VIDA)」の立ち上げもその一環。実演者の声の権利を守り、AIによる声の偽造を、AIを使って防止して、さらに実演者の声の多言語化により海外へのビジネスチャンスにつなげるというもの。
イレブンラボのAI技術を活用すれば、洋画のセリフも日本語に変換することができる、つまり、演じている海外の俳優の日本語が聞けるということになる。「あの役者が日本語で話すとどうなるのだろう」と期待しながらも、洋画の吹き替えもまた日本の声優のレベルの高さから原語版とは違う魅力があるのも事実。この思いは人気声優の梶裕貴氏にもあるようだ。
「今回の取り組みは、言葉の壁を越えて、日本の声優、文化、そして魅力を届ける機会になるのではないかと期待しています。同時に一人の役者としては、果たして自分の芝居と言えるのだろうかという複雑な思いもあることは事実です」(梶氏)
取材・文/阿部純子







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