近年、ビジネス界において「お昼寝(パワーナップ)」を推奨する動きが広がっている。短時間の休息が、集中力の回復やストレス軽減、生産性の向上につながることが科学的にも証明されているからである。
働く人のパフォーマンスを上げ、企業の競争力を変える短時間のリフレッシュ=「攻めの休養」が常識となりつつある中、その時間をさらに充実したものにするための空間作りにも注目が集まっている。
今回は、三菱地所が運営するシェア休養室「とまり木」の家具や植栽など、リニューアル時の装飾を担当したインテリアデコレーターでもあり、公衆衛生学修士でもある尾田恵さんに、心身をリフレッシュし、健康をサポートする環境についてお話を伺った。
※三菱地所が運営するシェア休養室「とまり木」についてはこちらの記事から
〝攻めの休養〟を提案する三菱地所のシェア休養室「とまり木」の挑戦
人的資本経営や健康経営への注目が高まる中、従業員の体調管理はいまだ個人任せという企業は少なくない。そんな現状に一石を投じるのが、三菱地所が仕掛ける“休養革命”だ…
シェア休養室「とまり木」のリニューアルにおいて装飾を担当した尾田恵さんは、インテリアデコレーターであり、公衆衛生学の修士号を持つ専門家。「インテリア健康学」を提唱し、ウェルビーイングを重視した空間づくりのプロフェッショナルでもある。
そんな尾田さんが考える、究極のリフレッシュスペースとはどのようなものなのだろうか?
これからの働き方を左右する重要な15分。最大限に充実させる環境の大切さ
「この「とまり木」で休憩する15分は、一日の中ではごく短時間ではあるのですが、これからの時代には非常に重要な意味を持つ15分になってくると思います。ですから、ここに一歩足を踏み入れた瞬間に、皆さんのスイッチが切り替わるように環境を整えることも重要なんです」。
働く人の健康をテーマに産業保健の分野で研究を続ける博士課程の尾田さん。
インテリアデコレーターとしての美的センスと、ウェルビーイングに基づく専門知識を併せ持つ彼女が装飾した空間「とまり木」には、中央に高さ3メートルの大木がそびえ、象徴的な存在感を放っている。
緑視率を高める
「とまり木の空間の一番のポイントは、視覚と触覚へのアプローチです。まず視覚としてはグリーンです。入った瞬間も、寝た時にも、どんな所からも立体的に緑が見えるように設計しています。そのためには人の立位を越える高さが必要だったので、結果、3メートルという大木を配置することにしました。
緑が視界の中に入るとストレス軽減、リラックス効果があると言うことはさまざまな研究で言われていますし、公衆衛生の観点からもとても重要視されているポイントです。視界の中に緑が見える率を緑視率と言いますが、この空間ではその緑視率を高めることを意識しました」。
中央のグリーンはベッドで休んでいる人からも眺められる設計。緑を視界に入れるだけで緊張や不安が和らぐ以外にも、心拍数や血圧の安定、ストレスホルモンの低下なども報告されている。
そのほか緑視率が高い環境では、作業効率や集中力が高まりやすいことも分かっているので、働くスペースにグリーンを配置することは、パフォーマンスの向上に加え、リフレッシュ効果を高めるため試してみる価値は大いにありそうだ。
一番敏感な触覚にアプローチ
利用者がマッサージチェアを使いながらリラックスしたり、会話を楽しんだりするテーブル&椅子にも、インテリアとしての美しさと居心地の良さに加え、公衆衛生学の知識が盛り込まれている。
「もう一つのポイントは“触覚”です。人の体の中でも特に敏感なセンサーの一つである指先に、なるべく有機的なものが触れるようにすることが効果的です。
例えば、このリメイクした椅子にはブークレというふわふわとしたソフトな生地を貼っています。そして机は、樹齢100年の楠の木から切り出した一枚板で作られています。
こういった心地よい手触りや自然の温もりを感じる素材に触れることで、一瞬にしてオフィスとは別世界へと気持ちを切り替えていただけるんです」。
パフォーマンスを高める手段として近年注目を集めている「仕事の合間の休憩」。限られた時間だからこそ、その過ごし方次第で心身のリセット効果は大きく変わる。短い休息を、より質の高いリカバリーの時間へと変えていくためには、環境の在り方が重要だと尾田さんは言う。
「休養やリフレッシュという観点から考えれば、きちっとした根拠をもとに計画し、「人工的なものから少し離れる」、「自然に帰るような空間をつくる」ことがポイントです。緑視率を上げ、より自然に近い環境にいることで緊張緩和を促し、ストレスを軽減。また、素材の温もりに接することで心理的な安心感を得られます。
そのため、短時間でも脳をリセットでき、結果的にパフォーマンスの向上へと繋がっていくんです」。
「休む」ことがひとつの投資とされる今、求められているのは“どう休むか”。
緑や光、手触りといった五感にやさしい要素を身近に置くだけで、心のスイッチは自然と切り替わり、休息の時間がより深く、意味のあるものへと変わっていく――そう教えてくれたのが尾田さんだ。
これからの時代、「休むための環境づくり」こそが、パフォーマンスの差を生む鍵になるのかもしれない。
だからこそ、「とまり木」で実践されている工夫を参考に、日常の中にも少しずつ取り入れてみる価値がありそうだ。
シェア休養室とまり木 https://www.mjpm.co.jp/madoguchi/tomarigi/
取材・文/高田あさこ、撮影/杉原賢紀(小学館)







DIME MAGAZINE















