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〝あの頃風〟の映像をつくるフィルムエストTVに聞く「汚し」の哲学

2025.12.30

数々のヒット商品を紹介しつづけてきた『DIME』は、2026年春に40周年を迎える。そこで2025年11月14日に発売したDIME1月号では「【完全保存版】僕たちを夢中にさせたヒット商品クロニクル」と銘打ち、創刊となった1986年前後を基軸に、時代を彩ったエポックメイキングなモノ&サービスを振り返る特集を展開した。

本記事ではトレンディでナウい、でもどこか違和感を覚える〝あの頃風〟映像で話題のYouTubeチャンネル「フィルムエストTV」を取材。制作者はバブルを知らない30歳。平成前夜の空気感を再現するための「汚し」の哲学とは?

にしいさん

フィルムエストTV主宰 にしいさん
1994年12月生まれ。テレビ朝日映像に勤務。YouTubeチャンネル「フィルムエストTV」で、昭和後期~平成初期風のアナクロ系映像コンテンツを制作している。

にしいさん

〝汚し〟はコミュニケーションのためのツール

 もしテレワークが1980年代にあったら……。そんな空想の世界を、バブル期のテレビを思わせる質感で再現した動画で一躍人気となったのが、YouTubeチャンネル「フィルムエストTV」だ。懐かしさと新しさが奇妙に同居する〝あの頃風〟映像は、細部まで練られた「汚し」の表現によって生み出されていると、フィルムエストTV主宰のにしいさんは語る。

『汚し』は、単に映像を古く見せるための加工じゃないんです。視聴者が思わずツッコミを入れたくなるような違和感を設計する、ということだと考えています」

 例えば撮影中にデリバリーサービスの自転車が通り過ぎるといった、現代的な異物が映り込んでも、あえて残すことがある。

「それも一種のボケなんです。コメントで『映っちゃってる!』ってツッコまれるのも含めて作品。YouTubeって見る側が参加できる『ホットなメディア』だから、多少の違和感を残したほうが面白いし、多くの人に見てもらえます」

 ただし、そのバランス感覚には細心の注意を払っている。

「例えば『友近サスペンス劇場』では、当時の舞台をできる限りリアルに再現しました。友近さんがあの時代にいること自体が違和感なので、周りの世界は徹底的に本物に近づける必要があったんです」

【友近サスペンス劇場Ⅰ】
友近さん&モグライダー芝さんと〝あの頃〟っぽいサスペンスドラマを撮ってみた

友近サスペンス劇場Ⅰ

友近さんと、お笑いコンビ・モグライダーの芝大輔さんが出演する、道後温泉を舞台にした本格ミステリードラマ。現在、第2作を制作中。

「取り残されたもの」へのツッコミが活動の原点

 にしいさんは94年生まれ。当時を知らない30歳ながらレトロ映像に惹かれた原点は「取り残されたものに対する違和感」だった。

「子供のころから、廃道に放置された道路標識がなぜか好きで。誰もいないのに、今も立ちつづけて誰かに向かって情報を出しつづけている──そこにツッコミたくなるんですよね」

 その感覚が映像へと向かったきっかけが、中学生の時に観たテレビ番組だった。

「過去の放送を振り返る特集だったんですが、知らない人が人気者だったり、今ならウケないことで大爆笑していたり。そこに『なんで?』と思うのが楽しかった」

 その違和感を読み解くうちに、映像のフォントやカメラワークといった、技術的な側面へと興味が広がっていった。

当時の業界で当たり前に使われていた技法が、今見ると味わいになっている。僕はその〝ズレ〟に新鮮さやアートを見出したのかもしれません」

 時代の制約の中で、最大限の工夫を凝らしていた当時の制作者たち。フィルムエストTVは、その表現や技術を現代の価値観や手法で再構築している。

ただ再現するだけじゃなくて、そこに大きなウソを一つ入れる。その不完全さが、懐かしさをより引き立ててくれると思っています」

 違和感に対するツッコミの姿勢こそ、にしいさんが理想とする〝あの頃風〟表現の核心なのだ。

テロップ

動画の中に挿入されるテロップはすべてにしいさん自身でレタリング。ペンや筆を使い分けながら、一文字ずつ丁寧に描いている。「当時の新聞の縮刷版や、テロップの資料を参考にしながら作っています」(にしいさん)

本邦初公開!〝あの頃風〟映像の作り方

当時のテレビ番組さながらのテロップや、VHS映像をブラウン管で再生したような独特の質感はどう作られているのか。にしいさんがその制作手順を大公開!

〝あの頃風〟映像の作り方
〝あの頃風〟映像の作り方

〝あの頃風〟映像の作り方【1】
撮影映像の画質を調節 テロップ追加

撮影したままの映像だと画質が良すぎるため、まず意図的に粗さを加える。「全体的にぼかしを加えて、〝滲み感〟を出すためにあえて明度を上げて白飛びさせています。加工の方法は撮影の時間帯や被写体によって変えています。そうしないと新しすぎたり、逆に古すぎたりしてしまうんですよね」(にしいさん)

〝あの頃風〟映像の作り方【2】
テロップの画質調整 全体的な色みを調整

テロップは映像と分けて汚し加工を行なうそうだ。「一括で加工してもうまくいかないんですよ。それぞれ設定を変えています」(にしいさん)。その後全体の色味を調整する。「彩度やコントラストを微調整しながら、当時の映像の質感に近づけています」(にしいさん)

〝あの頃風〟映像の作り方【3】
黒帯を追加 ゴースト(ブレ)加工を追加

画面のアスペクト比を4:3にするために、画面の両端に黒帯を足す。さらにゴースト効果と呼ばれる、映像がブレて見える効果を追加してリアリティを持たせている。「その後最終的な色みの調整を行ない完成になるのですが、それでも古く見えない場合、VHSテープのノイズ加工を加えます」(にしいさん)

取材・文/桑元康平=すいのこ 撮影/藤岡雅樹 編集/千葉康永

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