日本から野球がなくなる!?未来の野球界のため特殊技能を捧げる
日本プロ野球の審判として19年間グラウンドに立ち、2021年に48歳で引退した橋本さん。退くには早すぎる決断に思えるがなぜ引退を決めたのか?そして、その後の人生設計をどう考えていたのか?
「プロ野球審判員は一年契約にも関わらず60歳という定年があります。この「定年」を私は体のいいクビだと捉えていました」
「私は40代半ば辺りから、もう必要ないと宣告される前に、つまり必要とされているうちに自ら辞めたいと思っていました。また今の時代、60歳で隠居して悠々自適という訳にはいかず、その後必ず何かの仕事をしないといけないのは明白。新しいことを始めるには60歳では遅すぎで、頭も身体も動くうちに次に行きたいとも常々考えていたことが引退の大きな理由です」
審判は影の立役者でありながら、時に選手以上に厳しい言葉を浴びせられる職業でもある。たびたび誤審問題が取り沙汰され、今夏の甲子園でも物議をかもす判定があった。
そんな中、徳島県軟式野球連盟は子どもの野球離れを防ぎ、減少傾向の審判員を誹謗中傷から守ることなどを目的に、「協議(リクエスト)」制度を2025年度から試合に導入している。
これは、プレー中のジャッジに対して、明らかに誤審(セーフ、アウトのみ)であることが他の審判員や観客から見ても疑問がある場合に限り、当該チームの監督が申し出ることができる制度。ビデオ判定ではなく審判員4人が話し合い、球審が結果をベンチに伝えるという。
勝負の行方を左右する大事な判定だけに間違いは許されないが、審判も人間ゆえ完璧はあり得ない。最新技術やAIが進化を遂げる中、審判の役割を橋本さんはどう思っているのか。
「人間の審判がAIに取って変わられることは十分にあり得ると思います。ただ、人間のデータを元にしている以上、AIもミスはします。そもそも「機械で人間性の再現に挑戦」しているので。結局のところAIの出した判定にも納得しない人が出てくるのでは?と思ってしまいます」
「また、AI審判には判定の一貫性はありますが、見てるファンの納得度の一貫性があるかどうかが疑問ですね。何をしても納得しない人を納得させようとするから色々無理が生じる。しかしいつかはAI審判が登場するかもしれません。それで野球ファンが増えるなら僕はそれでもいいと思っています」
たしかに、野球ファンが増え、日本プロ野球界が盛り上がるのであればそれに越したことはない。かつてのようにスーパースターが存在し、隆盛を極めた時代が復活するのであれば。
笹川スポーツ財団の調査によると、2000年から2024年の野球人口は減少傾向にあるという。また、ファン人口もここ数年は横ばいのまま。
日本人がMLBのトップで活躍することが当たり前の昨今、日本プロ野球界が盛り上がるために必要なことはなんなのか?
「何よりも野球人口の増加だと思います。正直、30年後50年後に日本から野球がなくなっている可能性もゼロではないと思っています」
「2022年サッカーW杯での日本代表の活躍、日本人として大変嬉しく誇らしいことでしたが野球人としては「小中学生がみんなサッカー部に入ってしまう」という危機感がありました。それはサッカーを始め、他の競技が野球の敵という意味ではありません」
「僕が思うのは、例えばプロ野球以外のカテゴリー、高校野球やリトルリーグで選手がエラーをしても三振をしてもファンが離れることはないでしょう。ただ、ミスジャッジで野球がつまらなくなれば間違いなくファンは離れます。野球をつまらないと思っている親がいれば、その子どもたちは野球を始めないでしょう」
「まずは、アマチュアの野球人気、野球人口を増やすこと、その一端としてアマチュア審判員のレベルを上げることが今後の野球界のためにやらなければならないことだと感じています」
長年、プロ野球界で活躍し、時代と共に変わりゆく姿を肌で感じてきたからこその言葉。しかしそこには期待と希望も滲んでいる。
最後に橋本さんの夢を聞いた。
「NPBで培った技術や知識は当時、当たり前だと思っていました。ただNPBを離れたら、これは特殊技能でありものすごく希少な経験をしていた事に気づきました」
「この知識と経験をアマチュア審判員に伝えて、アマチュア球界の底上げをすること、野球界だけではなく様々な世界で審判という仕事の楽しさを発信すること、プロ野球審判を目指した者、経験した者が他の世界でも活躍できる道すじを作ることが私の今後の夢です」
取材協力
橋本信治さんX @shinji_hashi40
九州アジアリーグ公式HP
文/太田ポーシャ
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