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貯蓄依存型から〝共感で動く経済〟へ!コミュニティ通貨「eumo」がめざす新しい豊かさ

2025.11.25

2025年11月7日総務省発表の「家計調査9月分」(総務省)によると、2人以上世帯の消費支出は平均30万3214円、前年同月比1.8%増加した。とはいえ、全体が節約傾向にあることは、同調査において食料費の支出が4カ月連続で減り続けていることからわかる。これはお金の不安が社会全体で高まっていることの表れではないだろうか。これからお金と人の関係はどうなっていくのだろうか。2019年に独自のコミュニティ通貨を発行するプラットフォーム『eumo』を立ち上げた武井浩三さんに、お金とウェルビーイングの関係を伺った。

武井浩三(たけいこうぞう)さん
非営利株式会社eumo 代表取締役/社会活動家/社会システムデザイナー
高校卒業後ミュージシャンを志し、渡米しCitrus College芸術学部音楽学科を卒業。帰国後に起業するも倒産・事業売却を経験。2007年に不動産IT企業「ダイヤモンドメディア株式会社」を創業。2017年には「ホワイト企業大賞」を受賞。ティール組織、ホラクラシー経営等、自律分散型経営の日本における第一人者としてメディアへの寄稿・講演・組織支援などを行う。2018年にはこれらの経営を「自然(じねん)経営」と称して一般社団法人自然経営研究会を設立。現在、新井和宏氏が立ち上げたコミュニティ通貨のプラットフォームを運営する非営利株式会社eumoのボードメンバーとして新しい金融経済に関わりながら、SDGs関連や組織開発、フェアトレード、保育・教育、地方創生等に関わり、多数の企業にてボードメンバーを務める。

誰かが借金をすることで生み出されるお金

――資産運用や貯蓄が推奨され、社会全体で「お金がないと幸せではない」という空気が流れているようにも感じます。また、ここ数年、「貧困連鎖」「親ガチャ」などの言葉が一般化し、お金が生み出す格差も構造的な問題になっています。

「まず、お金について考えてみましょう。今の日本で使われているお金の大半が、誰かが借金して生み出されたお金だといったら、あなたは驚きますよね」

――どういうことでしょうか?

「例えば、あなたが銀行で1万円借金をすると、残高が1万円増え、“新しいお金”が生まれます。この新しくお金を生み出す仕組みを“信用創造”といい、借金で生まれるお金を“債務貨幣”と言います」

――日本は1960年代の高度経済成長以降、個人は住宅購入のためにローンを組み、法人は設備投資などのために借り入れし、成長を続けてきました。今の物質的豊かさが実現したのは、誰かの借金により生まれた債務貨幣の力があることは、高校の公民の授業で習ったような記憶が。

「それが行きすぎていると肌で感じたのは、私が不動産テック企業ダイヤモンドメディア株式会社の経営をしていた時です。日本は新築住居の供給が、人口動態に対して必要以上に多い。これは信用創造が作る債務貨幣頼みの経済だからではないかと感じたのです」

――誰かが数千万円の住宅ローンを組めば、信用創造による債務貨幣が生まれます。お金を借りれば利息を支払わなくてはなりません。今、4000万円を35年返済・固定金利1.9%でシミュレーションしたら、総返済額は約5481万円、利息総額は約1481万円でした。

「信用創造は社会全体の通貨量を増やすことによって、経済活動を成長させるという側面もあります。その一方で、インフレが起こり個人の購買力が低下したり、過剰債務ほか、環境や人権の毀損など多くのリスクも生まれます。

社会全体で考えると、経済システムのベースが“借金を返すために借金をする”状態になり、維持するために経済を成長させ続けることが必須条件になる。成長が停滞し、銀行が融資をやめたり、金利を上げたりして、借金ができなくなったら、バブル崩壊につながります。私はこの債務貨幣システムが限界に達したと予見しています」

――また、信用創造による貨幣が増えるほど、銀行だけが得をするようにも感じてしまいます。

「そういう側面はあると思います。銀行が保有するお金が増えれば担保が増えます。すると、銀行は広く貸し出すことができる。信用創造によって生み出された債務貨幣は、信用力のある企業や富裕層に優先的に供給されるケースが多い。そして彼らは資産運用などを通じてさらに富を生み出していくでしょう。これが経済格差を拡大させる原因にもなるのです。

とはいえこれは銀行だけの問題ではなく、企業や国ほか世界全体が関わっています。もちろん、そこに私たちも含まれているのです。国債の仕組みや日本国が支払っている利息のメリットを享受しているのは誰か、広い目線でお金の流れを知っておくと見方も変わると思います」

――目先の生活についてお伺いします。今、個人の購買力が下がり、格差の広がりを肌で感じている人も多いです。危機感から、貯金そのものを目的とする「貯金依存」の人も増えています。現在のような状況を打開した前例はあるのでしょうか?

「代表的事例は、経済史にも残る『ヴェルグルの奇跡』です。これは、世界大恐慌の1932年から1933年にかけて、オーストリア・ヴェルグルの町長が、価値が時間と共に減っていくお金を地域通貨として流通させて、経済復興した事例です。

当時、ヴェルグルの市民は不安から貯金に専念し、経済的循環が滞っていた。これがさらに不景気を起こしていたのです。しかし、“時間の経過とともに価値が減る”という地域通貨が使われることで、雇用も促進され、大きな経済効果を生みました。

この地域通貨には、貯蓄することで得られる利子はありません。ただそれ以上に経済成長と経済的な競争の起爆剤になる。時間と共に価値が減るため、お金を持っている人が強くなるという、支配力特権が生まれず、不平等の解消にもつながっていきました。

この地域通貨が流通している間、ヴェルグルの街では人々が消費するために十分なお金が供給され、失業率も大幅に下がりました。積極的に流通する性質に特化したお金は、経済的悪状況・不平等を取り除く効果もあったのです」

使用期限3か月のお金は共感で動く

――今、武井さんが運営している『eumo』で流通しているコミュニティ通貨は、ヴェルグルの奇跡で流通した通貨と似ています。

「はい。eumoで発行しているのは、使用期限が3か月の通貨です。アプリに登録したユーザーは、円と通貨を交換し、加盟店の商品の購入やサービスの利用に使っています。期限切れなってしまった通貨は、コミュニティに還元され、ルールに従って再分配されます。お金を所有するのではなく、全体に分配される仕組みになっているのです。

これが、一般的な電子決済(ペイペイなど)との違いです。eumoと他の電子決済の根本的な違いは、“損か得か”ではなく、“共感”でお金が動くことです。代表の思想、商品の背景など“いいな”と共感したものに、お金を使う。

eumoのような期間限定通貨のいいところは、貯蓄よりも“使う”ことが優先されます。その結果、お金が循環して格差が少なくなる。誰かが富を独占するのではなく、多くの人が豊かになるのです」

――加盟しているのは、古くからの製法で美味しい豆腐を作っている「とうふ カンパーニュ 暮らしの品 mui」(長野県伊那市)、人手不足から休業した施設を再生した「夏油温泉観光ホテル」(岩手県北上市)、東京のものづくり産業を支援する「すみだ向島EXPO」(東京都墨田区)ほか1000店以上。いずれも地域や文化に密着した、応援したくなるサービスや製品を作っているところばかりで、作り手や提供側の思想や人柄もわかります。

「他にも『茶匠 矢部園』(宮城県塩竈市)のお茶屋さんは、茶文化を継承させ、農家とともに成長するために、正当な対価を支払い農家さんから茶葉を購入しています。これを外資系ホテルや百貨店からも評価されるお茶として商品化しています」

――その話を聞いても、使用期限がない“お金”で買うなら「今月は貯金したいから次にしよう」と思ってしまいます。でも、期間限定通貨なら「すぐ買おう」と思える。

「このように、eumoは共感でお金が循環する仕組を作っています。応援や共感といった、お金に換算できない価値を重視し、コミュニティ内で応援し合う。この共感がベースにあれば、お金に振り回されずに、お互いのウェルビーイングが実現するつながりが広がっていると感じています。

今、eumo経済圏は1万5000人程度のユーザーがおり、大きな共感が生まれ、お金(eumo)が動いています。このお金は「損得」から離れ、自分の気持ちを優先できるので、心も自由になります。何かを購入するときに考える、コスパやタイパと離れた基準で選ぶので、生活全般が豊かになると感じる人も多いです」

――また、損得から離れた人間関係にも繋がっていく。

「そうなんです。僕はそれが本当の社会関係資本だと思っています。損得がないから一緒にいて楽しく、相手が困っていれば助けたいと思うもの。この関係を阻害するのは多くの場合お金なんですよ。

今後、お金の価値が見直されるようになり、必ずこれから社会関係資本が重視されるようになる。まずeumoを使い、損得で考える資本主義社会から少し抜けてみると、感覚が変わると思うのです。

また、ウェルビーイングな状態でいるには、多様なコミュニティに属することが必要だと思います。多くのアイデンティティに触れ、自分でも持つことが、いい人生につながっていく。社会関係資本があれば、お金のピンチにも対応できるようになると思うのです。

例えば、子供の学費や病気の治療費が足りないとなったら、クラウドファンディングでお金を集める仕組みを作るなど、いろんなやり方がわかってくる。お金にとらわれることもなくなるので、ぜひeumoを使うという体験をしてみてください」

武井さんが「お金」についてここまで考えるきっかけは、若くして企業し、倒産を経験したこと。また、社会が抱える問題を解決したいという強い思いがありました。これからはお金ではなく「人とのつながりが価値となる」という武井さん。その一歩は、誰かに共感し、応援するところから始まります。eumoを使うことは、そのきっかけになるはずです。

取材・文/前川亜紀  撮影/杉原賢紀(小学館)

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