「Suicaのペンギン」が、ちょっとした騒動をもたらしている。
JR東日本のSuicaリニューアルに伴い、このキャッシュレス決済サービスに様々な新機能が追加されるようになる。後述するが、来年からPayPayやd払いなどと同様のコード決済がモバイルSuicaで可能になるのだ。それを否定的に捉える人は殆どいないはずだが、問題はSuicaのデザインまでもが変更されてしまうという点だ。Suicaのマスコットキャラクターのペンギンも、それと同時に「卒業」してしまう。
JR東日本のこの決定は、大きな反発を呼んでしまった。「ペンギンを引退させないで!」という声が発生し、何と署名活動まで行われているのだ。
モバイルSuicaがコード決済に対応予定
2024年6月、JR東日本は中長期ビジネス成長戦略『Beyond the Border』を公表した。

これは「Suicaを軸とした駅周辺地域のDX化・再開発事業」と表現しても過言ではない。Suicaをキャッシュレス決済手段と捉えるのみならず、それが収集するデータをユーザーの生活向上に役立てようというものだ。
「Suicaの進化」とは、Suicaが「移動のデバイス」から飛躍的に利便性を高めた「生活のデバイス」になることです。今後のステップとしては、2027年度までにえきねっとやモバイルSuicaなどの各種ID統合でシームレスなご利用を可能とするとともに、クラウド化による新しい鉄道チケットシステム開始で、例えば、駅ビルで一定額のお買い物をされたお客さまに帰りの運賃割引のご提供を可能にします。さらに、Suicaアプリ(仮称)を2028年度にリリースすることでお客さまのご利用シーンにあわせたサービスを一括してご利用できるようにします。
(中長期ビジネス成長戦略「Beyond the Border」の策定-JR東日本)
この時のプレスリリースには「Suicaアプリ(仮称)を2028年度にリリースすることで」とあるが、JR東日本の行動はそれよりもだいぶ早かった。2026年秋までにモバイルSuicaアプリにコード決済機能が追加されるという発表を、この11月に行ったのだ。
これにより、たとえば店舗側が提示するQRコードをモバイルSuicaのアプリで読み取って決済するという使い方もできるようになると思われる(このあたりは仕様の詳細が発表されるのを待つ必要があるが)。キャッシュレス決済手段としてのSuicaが、より身近なものになっていく可能性があるのだ。
この大改修に反発する人は、まず存在しないだろう。
Suicaのペンギンは「近所に住む親戚」
ところが、このリニューアルに伴う「キャラクター降板」が議論の的になっている。
絵本作家の坂崎千春氏が手がけた「Suicaのペンギン」から新しいキャラクターに交代するという発表が、同時に行われた。ペンギンは長年愛されてきたキャラクターで、それをわざわざ交代する理由は何か? SNSでは様々な噂が飛び交っている。

JR新宿駅新南口前にある『Suicaのペンギン広場』には、ペンギンのブロンズ像が設置されている。この像は来年以降どうなってしまうのか、それ以前にこの広場の名称は変更されてしまうのか? Xでは、このあたりを旧ソビエト連邦崩壊の場面と重ねて「レーニン像のように引き倒されてしまう」と心配するユーザーも。
オンライン署名サイト『Change.org』では、Suicaのペンギンの引退撤回を求める署名が立ち上がっている。
長年にわたり、JR東日本のSuica公式キャラクターであるペンギンは、私たちの日常に彩りと親しみを提供してきました。この魅力的なキャラクターは、ただの交通系ICカードを超えて、地域社会と人々との絆を築いてきた象徴です。ペンギンの突然の卒業は、多くの利用者にとって大きなショックであり、悲しみをもたらしています。
鉄道利用者や地域の声に耳を傾け、ペンギンの卒業中止を検討していただきたいと考えています。ペンギンは単なるキャラクターではなく、多くの人々に愛され、支えられ続けてきた存在です。その卒業は、長年のファンや利用者にとって大きな損失となります。
JR東日本には、ペンギンのキャラクター卒業中止を真剣に再考し、これからも変わらずペンギンを活躍させる方法を模索するための貴重な機会があります。このペンギンは、次世代にわたっても愛され続けるべき存在であり、多くの人々に夢や希望を与え続けていくことができると信じています。
(JR東日本にお願い。Suica公式キャラクターのペンギンの卒業撤回を願う署名。-Change.org)
要するに、それだけSuicaのペンギンは愛されているのだ。まるで、近所に住む親戚か幼馴染のように——。
Suicaのペンギンは権利保有者が複数いて、JR東日本が様々なキャラグッズの販売やその他IP展開をしていくには現状ではやや不利なのではという声がある。そうした噂の裏付けを取ることは非常に難しいが、一つ言えるのは「JR東日本は今までのSuicaをやめて、まったく新しいSuicaに注力し始めている」ということだ。
ややこしい表現になってしまったが、Suicaそのもののセンターサーバー化やそのデータを活用した都市開発計画を新しいSuicaが担うとしたら、それはもはやただのキャッシュレス決済銘柄ではない。旧Suicaと新Suica、共通するのは名称のみである。中身は全くの別物と言ってもいいだろう。
そうした「概念の転換」を巷に強く啓蒙しようとJR東日本が考えているのなら、キャラクターの交代はむしろ自然ではないか。
Suicaの武器は「質の高いデータ」
Suicaが収集できるのは「ユーザーの移動に関するデータ」だ。そして、これはタッチ決済対応クレカにはできないことだと言われている。
クレカの場合はもっと単純な決済に関するデータしか集められないが、Suicaを始めとする交通系ICカードは「定期券を使っている人」「その定期券を利用しつつ、時折区画外へ足を運ぶ人」「ユーザーの行動ルーティン」なども(誤解を恐れない表現をすれば)全て把握することができる。「データの質」で言えば、Suicaはクレカを完全に凌駕しているのだ。
いずれにせよ、我々は今までのSuicaとは全く異なる新しいSuicaの登場を目前に控えていることは間違いない。
が、そうはいっても「長年愛されたキャラクターを引退させる必要はないのでは?」という声が今は圧倒的のようだ。Suicaのペンギンを愛する世論が、JR東日本の方針を動かす可能性はあるのだろうか。
【参照】
中長期ビジネス成長戦略「Beyond the Border」の策定-JR東日本
Suica Renaissance第2弾-JR東日本
JR東日本にお願い。Suica公式キャラクターのペンギンの卒業撤回を願う署名。-Change.org
文/澤田真一
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