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パスポート不要の時代は来るのか?世界で加速するペーパーレスの動き

2025.12.25

生体認証技術の発達でパスポートが不要になる未来がくるのではと予測されている。シンガポールや日本における生体認証の活用例を元に「パスポート不要」が実現する可能性をまとめた。

生体認証技術が進歩している現在、「海外旅行にもパスポートが不要になる日がくる?」と疑問を持つ人も多いだろう。事実、空港では顔認証技術の導入により、搭乗手続きが簡素化されている。現状ではパスポートを持たずに日本を出入国することはできないが、可能性はあるのだろうか。

本記事では、パスポート不要(提示省略)の現状とシンガポールや各国の取り組み、将来的な可能性について解説する。

※本記事の内容は2025年12月時点の公式発表・報道に基づきます。制度やサービスは各国・各社の方針により変更する可能性があるため、最新の情報は公式サイトでご確認ください。

日本で海外旅行が「パスポート不要」になる予定はない

結論から言うと、現時点で日本から海外へ渡航する際に「パスポート不要」となる予定はない。日本国外への渡航には有効なパスポート(旅券)の携行が義務付けられており、パスポートを持たずに海外へ行くこと自体は不可能だ。

■航空会社でのパスポート情報提示も必要

また、多くの航空会社では、国際線の航空券を予約する際(またはチェックイン時)に、パスポート情報の入力・提示が求められる。オンライン予約時または空港カウンターでの確認が一般的で、パスポート番号、発行国、有効期限などの情報を正確に入力する必要がある。

■「パスポート不要」実現のハードル

パスポート不要化が実現しない最大の理由は、生体認証データベースの国際的な共有体制が未整備となっているためだ。

各国および民間企業が独自に管理している生体情報を、国境を越えて共有するには、各国政府間での二国間・多国間協定と法整備が必要になる。

セキュリティとプライバシー保護の両立も大きな課題だ。生体情報は個人を特定する極めて重要なデータであり、その国際的な共有には慎重な議論が求められる。技術面よりも制度面・国際協調面でのハードルが高いのが現状と言えるだろう。

シンガポールで実現した「パスポート提示不要」の入国審査

例外的に「パスポート提示不要」を実現している国もある。シンガポールでは、2024年8月からチャンギ国際空港で、顔と虹彩(瞳の色)による認証技術を使い、入出国審査の一部でパスポートの提示が不要となった。

■シンガポールのパスポート提示不要の仕組み

シンガポールのシステムでは、渡航前または初回入国時に顔・虹彩・指紋データを電子入国カード「SG Arrival Card」と共に事前登録する。登録を済ませた利用者は、空港の自動化ゲートで生体情報をデータベースと照合することで、物理的なパスポートの提示なしで通過できる仕組みだ。

つまり、事前登録の際にパスポートのデータ自体は必要となるため、完全に不要とはならない。また、日本など海外からの渡航者(非居住者)は、出国時はパスポートの提示が不要となるが、入国時にはパスポート提示が必要だ(自動化ゲートは利用可能)。

■パスポートはあくまで「提示省略」であり「廃止」ではない

シンガポールの場合、パスポートが提示不要となるのは事前に生体情報を登録した利用者のみ。パスポートデータはシステム上で照合されており、完全に不要とはなっていない点に注意したい。

緊急時や追加確認が必要な場合には、物理的なパスポートが必要になるため、パスポート自体の携帯は依然として義務付けられている。

日本の空港でも進む顔認証技術によるパスポート提示不要の流れ

日本においても顔認証技術を利用した搭乗手続きの簡素化(パスポートや航空券の提示不要)が進んでいる。JALやANAの取り組みを見てみよう。

■JAL・ANAの「Face Express」サービスとは

JALとANAは「Face Express」という顔認証搭乗サービスの運用を開始しており、主要空港の国際線で利用できる。

これは、事前に専用アプリで顔情報を登録することで、保安検査場から搭乗ゲートまでパスポートと搭乗券の提示不要で通過できるシステムだ。

ただし、Face Expressが適用されるのは空港内の搭乗手続き(保安検査・搭乗ゲート)のみであり、出入国審査は対象外。あくまで「空港内での利便性向上」を目的としたサービスであり、出入国審査では別途パスポートの提示・ICチップのスキャンが必要となる。

※参考

JAL | 顔認証による搭乗手続きについて

Face Express(顔認証)による搭乗手続きについて|ANA

■出入国審査での顔認証ゲート

日本の出入国審査では、出入国在留管理庁が全国の主要空港に自動化ゲートを設置している。空港の登録カウンターで事前に利用者登録と指紋登録(5分程度)をすれば、パスポートの顔写真ページ(または利用者登録証)と指紋を照合することで審査官による対面チェックを省略できる仕組みだ。待ち時間が大幅に短縮され、スピーディーに出国・入(帰)国の手続を行うことができる。

ただし、自動化ゲートの利用時にも生体認証と同時にパスポートの提示は必要だ。パスポート不要で出入国手続きができるわけではない点に注意したい。

※参考:自動化ゲートの運用について(お知らせ) | 出入国在留管理庁

パスポート不要の未来はくる?国際的なデジタル化の動き

ペーパーレスが世界的な潮流となっている現在、紙のパスポートを廃止する動きは世界各国で進んでいる。世界の現状と今後の流れを見ていこう。

■欧州で実証実験が進む「デジタル渡航資格証(DTC)」

フィンランド、カナダ、オランダ、アラブ首長国連邦など多くの国の空港で、紙のパスポートを利用しない渡航の実証実験が進められている。

中でも国連の専門機関の一つであるICAO(国際民間航空機関)が推進する「デジタル渡航資格証(DTC)」は、専用アプリを通じてICチップ付きパスポートの情報をスマートフォンに読み込ませ、顔や指紋などの生体情報を登録するデジタル版パスポートの構想だ。

■技術的には可能でも制度整備が追いつかない現状

このような生体認証技術を利用した本人確認はすでに実用レベルに到達しており、技術面においてはパスポート不要の出入国管理は可能と言われている。

ただし、国境を越えた生体情報・個人情報の取り扱いやサイバーセキュリティ対策は、以前として課題だ。技術の進歩は速くても、それを運用する法制度や国際協調の枠組み作りに課題が残っている段階と言えるだろう。

■「紙のパスポート」が不要になる時期は不透明

ICAOが進めるDTCのように、生体認証技術とパスポートの紐づけが進めば、将来的には生体認証のみで国境を越えられる可能性もゼロではない。

しかし、具体的な導入事例はシンガポールや海外の実証実験に限られており、とりわけ日本においては、当面、現行のパスポート制度が継続される見込みだ。

海外旅行を計画している場合は、パスポートの有効期限と十分な残存期間があるかを確認しよう。パスポートの申請から受領までには通常1〜2週間程度かかるため、余裕を持って準備したい。

※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。

文/長尾尚子

Author
ライター歴18年。2018年に独立し、フリーランスに。複数のWebメディアで記事を執筆中。育児・教育をはじめ、住宅ローン、保険、金融、エンタメなど幅広い分野の取材・執筆を手がける。【資格】消費生活アドバイザー、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。子ども3人を育児中のママでもある。

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