温泉がますます恋しくなる季節が到来。湯けむりを満喫する旅のプランを立てている人も多いのではないだろうか。
旅立つ前にぜひ知っておきたいのが、温泉・入浴の健康効果と目からウロコの正しい温泉の入り方。温泉療法研究の第一人者であり、星野リゾートの温泉旅館「界」の温泉の監修を務める早坂信哉先生に教えていただいた。
地域医療をきっかけに、入浴に関する調査研究を開始
――早坂先生が温泉や入浴の研究を始めたきっかけを教えてください。
早坂先生 今から30年ほど前、宮城県の医療機関で内科医を務めていた際、多くのお年寄りを診察しているなかで、彼らにとって訪問入浴サービスがとても重宝しているのを日々実感するようになりました。入浴に健康効果があることはみなさんもなんとなくご存じかとは思いますが、いざ調べてみると、当時は例えば安全な入浴法などを医学的に研究している人はほとんどいなかったんです。これはちゃんと研究したほうがいいなと感じて、1998年に入浴に関する調査研究をスタートしました。
――ズバリ、温泉・入浴はなぜ健康によいのでしょうか。
早坂先生 まず、入浴には以下の7大健康作用があります。
(1) 温熱作用
・血流がよくなるので栄養や酸素が行き渡り、老廃物が血液中に排出。デトックス効果が高まり疲れが取れる
・いったん上がった体温が入浴後に急に下がり、質の高い睡眠につながる
・身体が温まると神経の過敏性が抑えられて痛みが取れ、また身体の柔軟性がアップすることで、身体活動の低下による症状を改善
・副交感神経が優位になり、緊張やストレスをリリースできる
(2) 浮力作用
・お湯に肩までつかると体重が約10分の1になり、凝り固まった筋肉が休まる
(3) 水圧作用
・座りっぱなしで下肢にたまった血液やリンパ液を心臓へ押し戻す
・むくみの改善につながる
(4) 清浄作用
・湯にしっかりつかることで角層が柔らかくなり、かなりの汚れが落ちる
・石鹸やボディソープを使う量が減り、タオルでゴシゴシこすらなくてもよくなる
(5) 蒸気・香り作用
・鼻や気管が潤い、線毛運動が改善される
・好きな香りの入浴剤を投入すると、自律神経が整いやすくなる
(6) 粘性・抵抗性作用
・水から受ける抵抗を利用し、アクアビクスやリハビリに応用できる
(7) 開放・密室作用
・衣服を身につけずに裸になるという非日常に、心身ともにリラックスできる
早坂先生 これらの7つの作用に加え、温泉には特有の作用があります。それが以下のとおりです。
(1) 温熱作用がより強い
(2) 保湿効果
(3) 殺菌作用
(4) 温泉成分の吸収(皮膚・呼吸)
(5) 転地作用(場所が変わることによるリフレッシュ作用)
温泉の効果をさらに高める2つのコツ
――こんなにたくさんの作用が医学的に証明されているとは! 日本には古くから湯治という文化がありますが、理にかなっているということですね。
早坂先生 実は環境省が2018年から実施している「全国『新・湯治』効果測定調査プロジェクト」というものがあるんです。現代版の湯治を「新・湯治」と銘打ち、その効果を把握したうえで全国に広めていこうという温泉地活性化プロジェクトで、私は効果測定を担当しました。6年をかけて2万人近くにアンケート調査を行ったところ、ほとんどの人が温泉地訪問後に「癒やされた」「リフレッシュできた」などのポジティブな変化が起きたと回答。さらに、興味深いエビデンスを2つ取ることができました。
――ふむふむ、気になります。
早坂先生 ひとつは、ただ単に温泉に浸かって過ごすだけでなく、ゴルフや登山などの運動、温泉地での観光や食べ歩き、マッサージやエステなどのアクティビティを行った人ほど、「ストレスが減った」「肌の調子がよくなった」などの心身の変化を感じていたということでした。
――温泉宿にこもってひたすらのんびり過ごすよりも、プラスアルファの体験をしたほうがお湯の効果をより感じる、ということですね。
早坂先生 はい。そしてもうひとつが、一度に長く滞在するよりも、年間を通して何度も温泉を訪れるほうが心身へのよい影響が見受けられたことです。
「40℃10分の全身浴」がベストな入り方
――昔の湯治のように長期間滞在しなくてもOKで、むしろ、近場の温泉にちょこちょこ足を運ぶほうが健康効果を実感しやすい、と。多忙なビジネスパーソンにはうれしいエビデンスです! ところで、温泉好きには熱いお湯で一気に温まりたい派と、ぬるめのお湯でじっくり温まりたい派がいますが、医学的に見るとどちらがよいのでしょうか。
早坂先生 医学的に正しい、健康になれる基本の温泉入浴法で必ず押さえておきたいポイントはこちらです。
(1) ぬるめの湯船に入る
(2) 汗ばんだら湯船から出る
(3) 欲張らない
早坂先生 温泉のベストな入り方は「40℃10分の全身浴」です。コップ1、2杯の水を飲んでから、手桶で手足の末端から10杯ほどかけ湯をします。次に、40℃5分の全身浴。一度湯船から出て身体を洗ってから、再び40℃5分の全身浴。先に身体を洗ってから40℃10分の全身浴でもかまいません。汗ばんだら湯船から出て、すばやく水滴をふき取り、コップ1、2杯の水を飲んでから休憩します。
――「40℃10分の全身浴」。覚えておきます!
早坂先生 40℃は温熱効果が得られ、なおかつ安全で、副交感神経を高める温度です。10分というのは血流がよくなり、熱中症(のぼせ)にならない時間の目安。ただし、温泉の泉質によっては10分より短くしたほうがいい場合もありますから、「汗ばむ程度」を判断基準にしてください。全身浴だと温熱作用や浮力、水圧作用を効率よく受けられますが、半身浴が好きな方は時間を20分にするなど、やはり「汗ばむ程度」を目指すとよいでしょう。
何よりも大切なのは「欲張らない」こと
――「せっかく温泉に来たのだから」と思うと、ついつい長湯したくなったり、何度も入りたくなったりしてしまうこともありますが……。
早坂先生 そこで大切なのが、3つ目のポイントの「欲張らない」ことです。我慢して入り続けているとのぼせや熱中症のリスクが出てきます。疲れているときや運動した直後、食事の直前30分・直後30分も欲張って入ろうとしないこと。額や鼻の頭が汗ばんできたら体温が上がっているサインですから、湯船からいったん出てください。
――わかりました。ちなみに、温泉によっては異なる温度や泉質のお湯が用意されていることもあります。その場合はどんなふうに入浴したらよいでしょうか。
早坂先生 まずは、刺激の少ない湯船に浸かるのが原則です。温度が体温に近い、水深があまり深くなく水圧がかからない、湯の動きが静か、泉質が優しい、など。次に刺激の強い湯船に浸かり、再び刺激の少ない湯船に入って締めます。
――刺激の強い湯船というのは、例えば、泉質がピリピリしたり、ぬるぬるしたり、硫黄の臭いが激しかったりするようなお湯でしょうか。
早坂先生 そうですね。あとは温度が熱い、冷たいなど。水深が深いお湯や打たせ湯、ジェット水流、砂風呂や泥風呂なども含みます。
――ありがとうございます。後編では、早坂先生が監修に関わった温泉旅館「界 別府」の楽しみ方について、引き続きお話を伺います。
取材・文/志村香織 写真提供/界 別府
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