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東南アジアの先住民プナンは何度も結婚するのが当たりまえ!?人類学な観点から考察する「オープンマリッジ」文化

2025.11.20

人気YouTuberのヒカルさんが、9月14日更新の動画で「オープンマリッジ」宣言をして話題になった。

本人いわく「夫婦がお互いの合意のもとで、配偶者以外の異性との性交渉や恋愛関係を認め合う結婚の形」に、ネットでは賛否両論が巻き起こっている。

日本人一般の感覚では相当ショッキングな宣言だろうが、浮気や不倫で問題が起こるのは事実。視野を広げて、世界には「オープンマリッジ」的な文化はないのか? 人間は恋愛、性と結婚の矛盾をどう解決してきたのか、人類学者の奥野克巳先生に聞いてみた。

「オープンマリッジ」とは?

筆者「オープンマリッジ」は、約束事として、結婚していても自由な恋愛や婚外交渉を認める、という関係ですね。妻の進撃のノアさんは、はじめこの関係を拒否したと言います。

話し合いの後に「オープンマリッジ」を認めたとされますが、涙ながらに葛藤を語る動画が公開されるなど、一筋縄ではいかない感情もあるようです。

奥野先生 歴史的には、1960年代のアメリカで起こった「性の革命」のなかで、「オープンマリッジ」が主張されました。

最近でも文化人類学者の深海菊絵さんが、『ポリアモリー複数の愛を生きる』のなかで「オープンマリッジ」について言及しています。

ポリアモリーは、「複数の人を誠実に愛する」という生き方で、浮気や不倫とは異なる愛の形です。「オープンマリッジ」は、その実践のひとつと言えるでしょう。

筆者 奥野先生からは以前のインタビューで、唯一のパートナーとの永続的な愛と性の関係を望む「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」について伺いました。

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結婚した相手と添い遂げるのは、人類普遍の生き方ではなく、むしろ近代的な社会の特殊な価値観だと。

奥野先生 生物人類学者のヘレン・フィッシャーは、「恋愛の賞味期限は3~4年」と言っています。

私が20年間フィールドワークを行っている東南アジアの先住民プナンは、そんな人間本来の生き方に準じた生き方をしています。

彼らは性交渉をして結婚し、子どもを育てますが、数年経って互いに飽きると別れてしまい、また別の異性と結ばれます。一生に何度も結婚するのが、当たり前なんです。

筆者 一方で日本では、恋は終わってしまうのに、結婚するときに「一生幸せにする」とか、離婚すると「結婚に失敗」とか言われますよね。

そして、結婚している間は一人の人としか性交渉を持てないルールになっています。率直に言って、自然な感情との矛盾を感じます。

奥野先生 私たちは、制度に縛られていると言えるのかもしれません。だからこそ、性の革命でポリアモリーやオープンマリッジが主張されたのです。

ヒカルさんの宣言にも、賛同する人がいるでしょう?

筆者 もちろんです。「みんなが同じ結婚観に縛られる必要なんてない」「驚いたけど、お互いの信頼がある証拠」など、ポジティブなコメントがありますね。 とはいえ、批判の声のほうが大きいようです。

私もロマンチック・ラブ・イデオロギーが染み込んでいるのか、個人的には「オープンマリッジ」を素直に認められない気持ちもあります。

奥野先生 いくら双方が了解したとしても、配偶者が他の人と関係を持てば、怒りや嫉妬も起こるでしょうし、争いのタネにもなりますね。ネットで物議を醸すのも、みんなにそんな葛藤があるからでしょう。

ブッシュマンの理想は「四角関係」

筆者 人類学では、「オープンマリッジ」のような事例が報告されているのですか?

奥野先生 プナンも結婚・恋愛は、私たちと比べてだいぶフレキシブルですが、結婚している間は一夫一婦制を守り、婚外交渉はしません。

「オープンマリッジ」のような例は非常に稀ですが、カラハリ砂漠のブッシュマン・グイとガナが行う「シエク」と「ザーク」が、一部でと言えるでしょう。

「シエク」はいわゆる結婚に相当する正規の関係性です。「シエク」の原義は「取り合う」という意味です。

筆者 「取り合う」の文字通り、結婚はお互いに伴侶を所有するということですね。「オープンマリッジ」のように、他人の夫や妻と交渉を持つことは許されない。

奥野先生 そうです。女性の人数が相対的に少ない時などには、男性が他人の家庭を壊し、妻を寝取ることもあります。人類学者の菅原和孝さんは、「シエク」とは「略奪のシナリオ」だと言っています。略奪は力ずくで行われることもあり、社会的には全く推奨されない行為です。

筆者 所有権の不正な移転は認められない、といったところでしょうか。「ザーク」とは何ですか?

奥野先生 「ザーク」は「シエク」の外、つまり既婚者が婚姻関係のない相手と性交渉を行うことです。

筆者 おっ、日本で言う浮気や不倫のようなものですね。

奥野先生 まあ、そうです。しかし、日本で浮気や不倫は認められていないのに対して、「ザーク」は正式な制度ではないものの、慣習として認められています。それどころか、「美しい」とすら考えられているんです。

菅原さんは、ある男性と美少女が「ザーク」へ至るまでの繊細なやりとりを、「スタンダールの恋愛小説を彷彿とさせる」と表現しています。

筆者 不倫した著名人をメディアが叩くような日本の風潮とは、ちょっと違いますね。

奥野先生 そうですね。まあ、でも、全面的に推奨されているわけではないんですよ。

既婚の男性と未婚の女性の間で産まれた子は、父なし子として女性の下で育てられます。(実の父は周知)。既婚の女性が愛人の子を産むと、夫は嫉妬に狂い、子を慈しんで育てるものの、恨みを託した名をつけると言います。

筆者 「ザーク」は何かと問題の種になりそうです。生まれくる子どもとしては、必ずしも安定した環境とは言えない…

奥野先生 「美しいけど危うい」。この二面性が、「ザーク」のポイントです。

ですから、理想的な「ザーク」は四角関係、つまり二組の夫婦のなかで行われる「スワッピング」(パートナーを交換して行う性行為)です。

筆者 おおっ、当事者の了解のうえで「ザーク」が行われるのなら、問題が起こる可能性は低そうです。「オープンマリッジ」に近いですね。

奥野先生 はい。この「四角関係のザーク」も「オープンマリッジ」も、賞味期限の短い恋愛感情や、多様な性といった個人の問題と、安定や秩序といった社会の問題を、調停しようとする考え方です。

広告代理店の営業マンを経て、2007年にライターに転身。モットーは「本質をわかりやすく」。自らPR、デジタルマーケティングの実践・支援に携わるとともに、歴史/哲学/言語学/人類学/社会学など人文科学の取材に取り組む。企画と図解が得意。小2娘の父。著書に「4コマで日本史(山川出版社)」など。

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