フォトマスクは半導体製造に不可欠な原版です。本記事では用途、製造プロセス、種類、主要なメーカーまでわかりやすく解説します。
目次
スマートフォンやパソコン、自動車など、私たちの身の回りにある電子機器の心臓部となる半導体。その半導体を製造する上で欠かせない重要な部品が「フォトマスク」です。
フォトマスクはネガフィルムのようなイメージで、半導体チップに回路パターンを転写するための重要な原版となります。
本記事では、フォトマスクの用途や種類、製造プロセス、主要な製造メーカーまで、誰にでもわかるように解説。デジタル社会に欠かせない、半導体産業を支える重要な部品について理解を深めてみましょう。
フォトマスクをわかりやすく解説!
フォトマスクは半導体製造において中心的な役割を担う重要な部品です。ここでは、フォトマスクの役割や用途、製造プロセスなど、フォトマスクとは何かをご紹介します。
■フォトマスクとは
フォトマスクとは、半導体やフラットパネルディスプレイ(FPD)など、電子デバイスの部品を製造する工程で、微細な回路パターンを基板に転写するための原版です。
透明なガラス基板やフィルムの上に、遮光性のあるクロム(金属)などの材料で回路パターンが形成されています。
半導体チップの製造に必要な設計図を焼き付けるための「テンプレート」、あるいは「ネガフィルム」をイメージいただくと良いでしょう。
■半導体フォトマスクの役割・用途
半導体フォトマスクの役割は、半導体チップなどの製造に必要なとても微細な回路パターンを忠実かつ均一に転写することです。
この転写の工程は「リソグラフィ」と呼ばれており、フォトマスクを通して強い光を照射することによって、ウェハ(半導体素子を製造するための薄い円盤)上に高精度なパターンを焼き付けます。
半導体チップは、この転写の工程を何度も繰り返すことで、多層構造の複雑な半導体の回路がつくられていくのです。
■フォトマスクの製造プロセス
フォトマスクがどのようにして作られていくのかを見てみましょう。
1.設計データを作成する
設計データ(CADデータ)をフォトマスク用のデータに変換します。
2.基板の準備を整える
パターンを転写するための基板を洗浄し、転写に必要なクロム薄膜を成膜。照射によって性質を変化させるための感光性材料を塗布して転写の準備を整えます。
3.パターンを描画する
描画装置を使用し、設計データに基づいて基板にパターンを描画します。描画には電子ビーム描画やレーザー描画といった手法が使われ、用途によって使い分けられています。
4.現像とエッジングを施す
描画されたものを現像し、不要な部分を除去。エッジングと呼ばれる工程により、不要な遮光膜を取り除きます。
5.検査・修正
欠陥などがないか検査を行い、必要に応じて修正します。
6.保護部品(ペリクル)を装着する
フォトマスクを保護するための透明な薄膜(ペリクル)を装着。ほこりや塵の付着を防ぎます。
7.完成
フォトマスクの種類
フォトマスクにはいくつかの種類があり、用途や求められる精度によって使い分けられています。ここでは代表的な3つのフォトマスクのタイプをご紹介しましょう。
■フィルムマスク
透明なポリエステルフィルムなどの樹脂基材を使用したフォトマスクです。フィルム上に感光性乳剤を塗布し、パターンを形成します。
フィルムマスクの最大の特徴は低コストであることです。このあとにご紹介するガラス基板を使用するマスクと比べて材料費が安く、製造プロセスも比較的簡易なため、試作品や小ロット生産、求められる精度がそれほど厳しくない用途に適しています。
一方で、フィルムは温度や湿度の変化によって伸縮しやすく、経年劣化も起こりやすいというデメリットもあります。
そのため、高精度が要求される最先端の半導体製造にはあまり使用されず、主にプリント基板の製造や、比較的大きなパターンを扱う用途で利用されるのが一般的です。
■エマルジョンガラスマスク
ガラス基板に「エマルジョン」と呼ばれる感光性乳剤を塗布し、パターンを形成するフォトマスクです。ガラスを基材とすることで、温度や湿度などの影響を受けにくい特徴があります。
フィルムマスクと、次にご紹介するクロムガラスマスクの中間的な位置づけで、コストと性能のバランスに優れている点もメリットです。
また、フィルムマスクよりも精度が高く、クロムガラスマスクよりもコストを抑えられることから、中程度の精度が要求される場面に適しています。
一方で、クロム(金属)を使用するマスクと比較して、エッジの鋭さや遮光性に劣る点がデメリット。最先端の半導体製造よりも、液晶ディスプレイの製造やミドルレンジの半導体製造などで使用されることが多い傾向にあります。
■クロムガラスマスク
クロムガラスマスクは、高純度のガラス基板上にクロム薄膜を成膜し、パターンを形成するフォトマスクです。ご紹介した3種の中で最も精度が高く、現在の最先端半導体製造では、このタイプが標準的に使用されています。
クロムは優れた遮光性を持ち、パターンエッジがとても鮮明なため、微細なパターンを正確に転写できることが大きな特徴。クロムガラスマスクに使われる「合成石英ガラス」は温度変化の影響を受けにくく、安定性が高いメリットもあります。
ただし、クロムガラスマスクは高性能な反面、製造コストがとても高く、20〜50枚の1セットで数百万円から数千万円、場合によってはそれ以上の費用がかかることがデメリットです。
フォトマスクを製造する主要メーカー

最後に、フォトマスクを製造する代表的なメーカーをいくつかご紹介します。中には聞き馴染みのある企業があるかもしれません。ぜひチェックしてみてください。
■テクセンドフォトマスク(旧:トッパンフォトマスク)株式会社
世界規模の大手印刷会社、TOPPANホールディングス(旧:凸版印刷)のフォトマスク事業が独立した企業です。2024年11月にトッパンフォトマスク株式会社から社名変更しました。
同社は半導体用フォトマスクにおいて世界トップクラスのシェアを持ち、最先端の微細加工技術を保有しています。
60年以上にわたって日本と世界の半導体産業を支える企業であり、常に最先端の半導体技術を求め続ける技術開発力が大きな強みです。
■大日本印刷株式会社
印刷業界の大手企業で、フォトマスク事業にも長年取り組んでいます。
印刷技術で培った微細加工技術と光学設計技術に強みを持ち、高品質なフォトマスクを製造。現代における半導体の最先端技術「EUVリソグラフィ」に必要なEUVフォトマスクの製造も行い、新しいデバイスの製造にも貢献する企業です。
■フォトロニクス
アメリカに本社を置く世界規模のフォトマスクメーカー。1969年の創業以来、半導体やディスプレイ用フォトマスクの製造で業界を牽引しています。中国においては、先にご紹介した大日本印刷株式会社との合弁会社を設立しているほか、韓国や欧州、台湾などにも複数の拠点を置くグローバルな企業です。
同社は継続的な技術革新に投資しており、EUVフォトマスクや高精度な検査技術の開発に積極的です。また、顧客との緊密な協力関係を重視し、独自のソリューションを提供することで競争優位性を維持しています。
■HOYA株式会社
HOYA株式会社は、メガネレンズのメーカーとして聞いたことがある方が多いでしょう。同社は光学ガラスメーカーとして創業し、「ライフケア」と「情報・通信」の2つの領域で事業を展開しています。
情報・通信領域では高度なガラス加工技術を活かしたマスクブランクス(フォトマスクの元となる基板)の製造にも強みをもっている点が特徴です。
昨今の半導体製造において欠かせないEUVフォトマスク用のマスクブランクスの開発にも取り組んでいます。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/まじめさん







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