DIME2025年12月号では、映像化30周年を記念した『攻殻機動隊』を大特集! 原作者・士郎正宗氏への一問一答をはじめ、歴代監督、バトー役・大塚明夫氏とトグサ役・山寺宏一氏のスペシャル対談など、作品のキーパーソンたちが集結。AI時代の行方からリーダーシップ、組織運営まで、未来を先取りしてきた『攻殻機動隊』から、現代のビジネスパーソンが学ぶべきヒントを探っている。
今回は、まるで作中を切り抜いたかのような科学技術が次々と実用化されつつあることから「『攻殻機動隊』で描かれたSF世界に現実が追いついてきた」と、その先見性を評価する声が高まっていることを受け、『SF思考』の著者のひとりであり、科学技術の動向に詳しい三菱総合研究所の藤本敦也さんに攻殻機動隊が科学技術の発展に与えた影響を取材した。

三菱総合研究所 未来共創グループリーダー
藤本敦也さん
東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。専門領域は、新規事業開発、組織戦略。アメリカ・アリゾナ州立大学の専門研究機関にて「SFプロトタイピング」のノウハウを習得した。
リアリティーと未来感の絶妙なバランスが意欲をかき立てる
攻殻にはドローンを用いた救急救助システムや、脳と電子デバイスをつなぐブレインマシーンインターフェース、そして現実空間にバーチャル映像を投影するARディスプレイを独自に発展させた光学迷彩も登場する。
「SF作品は未来を予見するとよく耳にしますが、それは逆じゃないかと仲間内で話しているんです。作品が提示する技術をおもしろいと感じた研究者が実現のために尽力する。その結果、SF作品が未来を予測してるように見えるという構造ではないか、と」
光学迷彩は、東京大学先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授が中心となって研究・開発が進む日本発の技術だ。何を隠そう藤本さんと稲見教授は旧知の仲。触覚VRを活用して身体的拡張を目指すサイバネティック・アバターで有名な慶應義塾大学の南澤孝太教授も、東京大学在学時に同じVRサークルに所属していたという。
「光学迷彩のモチーフは『攻殻』に登場した熱光学迷彩だろうし、人間拡張系の先生方の研究も作品の影響が色濃いと思います。僕は『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』をオマージュを公言した映画『マトリックス』から作品を辿り、VR的なバーチャル体験にグッと踏み込んだ『イノセンス』でトドメを刺されたクチですが、ひとつ上の世代が『サイボーグ009』であれば、僕らは『攻殻』にハックされた世代だといっても過言ではないでしょう。原作・アニメ問わず『攻殻』に影響を受けた研究者は非常に多いと思います」
研究者だけではない。一般のビジネスパーソンであっても『攻殻』で得た知見を仕事に応用できる。
「例えば、企業が掲げるパーパスはバラ色の未来しか描いていないと感じる方は多いでしょうし、誰しもが『ChatGPT』を使っているワケではありません。『攻殻』の世界では、植物工場で生産された野菜を食べられない市民がいるし、公安9課所属のバトーはコンビニで犬の餌を買う。意外とガジェットが日常生活にあふれているわけでもないんですよ。社会変容が丁寧に描かれるとともに、技術の進歩によってデメリットや社会課題が持ち上がり、それに翻弄される社会の弱者が必ず登場する。こうした生活の肌感のある未来世界の描き方は『SF思考』を実践するうえで、大いに参考になるはずです」

押井 守監督作品『イノセンス』の1コマ。場面のシーン転換として街並みと人々の生活の風景が描かれるダレ場のシーンだが、まるで香港のような混沌を残したまま進歩した未来社会の描き方に強く感銘を受けたという。
©2004士郎正宗/講談社・IG,ITNDDTD
光学迷彩

リアルタイムで撮影した景色を投影することで透明化を実現する技術。VR体験と古典芸能の能を組み合わせた『VR能攻殻機動隊』でも知れられる。米TIME誌「Coolest Invention of the Year」選出。
『SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル』(ダイヤモンド社)

SFの想像力を用いて未来のシナリオを描き、〝今、何をすべきか〟を逆算して考えるイノベーション手法「SFプロトタイピング」を扱う。VUCA時代の到来が叫ばれた昨今、大きな注目を集めている。
取材・文/渡辺和博 撮影/高田啓矢







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