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「攻殻機動隊」が描いた未来はなぜ現実になったのか?メカデザイナー・山下いくと氏が語る革新性の秘密

2025.12.01

DIME2025年12月号では、映像化30周年を記念した『攻殻機動隊』を大特集! 原作者・士郎正宗氏への一問一答をはじめ、歴代監督、バトー役・大塚明夫氏とトグサ役・山寺宏一氏のスペシャル対談など、作品のキーパーソンたちが集結。AI時代の行方からリーダーシップ、組織運営まで、未来を先取りしてきた『攻殻機動隊』から、現代のビジネスパーソンが学ぶべきヒントを探っている。

全世界に衝撃を与えたと語られる『攻殻機動隊』シリーズだが、インパクトの実態とはどのようなものなのか?
今回はメカニックデザイナーの山下いくとさんに『攻殻機動隊』の功績を聞いた。

山下いくとさん

メカニックデザイナー
山下いくとさん

代表作に漫画『ダークウィスパー』、『新世紀エヴァンゲリオン』や『機動戦士ガンダム GQuuuuuuX』などのメカデザイン担当。短編アニメ『偶像戦域』では監督を務める。

世界観を丸ごと作った作家・士郎正宗の功績

「『攻殻機動隊』の連載当時は、フィクションの世界でさえ人間の体に手を加えることがタブーであり、サイボーグ化には悲劇が伴う扱いが一般的でした。『攻殻』はそうした技術が当たり前になったらどうなるの?というシミュレーションだったと思うんです。映画『2001年宇宙の旅』みたいに誰も見えていない風景を描き出そうと考えたのでしょうね」

 また、その時代はAIに演算を担わせる発想も珍しかった。そこで人間の肉体そのものを拡張することを描いたのでは、と分析する。

「当時としては発想が突き抜けているものの、肉体の延長線上にある拡張描写が多く、たとえば指を増やしたアンドロイドが物理的なキーボードを打つんです。直接お会いしたことはありませんが、士郎氏は何か興味のある〝鉱脈〟を見つけると、気が済むまで掘り尽くすタイプの作家なのでしょう」

『攻殻』以前の作品『アップルシード』ではサイバネティクスやバイオロイド(クローン人間)、などの先端技術が一般化した世界観が先行しすぎていたとも。

「SF好きな人たちが見るモノで、楽しめるハードルが高かったんですよ。人類対バイオロイドという複雑な構図もあり、どこに感情移入したらいいのやらという難しさもあった。対して『攻殻』は〝刑事もの〟というわかりやすい枠組みを取っているので、一般読者からのウケも良かったのだと思います」

 主人公・草薙素子が所属する公安9課は警察でも軍隊でもないが、〝犯罪を取り締まる捜査官〟の役割を担う。常に複数の事件が起こっているという海外ドラマの形式を取りつつ、作画ではマンガ的な表現を模索。それでも、人間の改造やサイボーグ技術がその世界では当たり前だという前提で描いており、そういった説明を排している点にSFらしさを感じたという。

「実は、士郎氏のメカは虫っぽさがあって最初は苦手だったんです。でも、物量や絵の情報量に圧倒され、デザインに関する疑問を抱く間もなく引き込まれていました。おそらく〝世界観を丸ごと作りたい〟という欲求を持っていたんじゃないかな。その点は映画『ブレードランナー』と共通している感じですね。それぞれのメカは工業デザインの側面がありつつも、まだ実現していない技術も盛り込まれ、未来世界の見本市のよう。士郎氏は、世にあるフィクションメカに対して、物理学者のホーキング博士のように本質を突く問題提起を行なうんですよ。例えば『末節重量がある型だとカッコはいいけど切り返しが大変だからイザって時困る』という『アップルシード』に出てくるセリフ。ときに〝お約束〟を破る発言をキャラクターにさせるからヒャッとする」

 士郎氏の描くメカは太ももが太く、足先が細いものが多い。

「アニメの巨大ロボのように、末端に行くほど手や足先が大きな塊になる造形はカッコ良く見えますが、〝それをやっちゃうと物理的に問題があります〟と示唆するから、あぁ言っちまったよと(笑)。プロとしては、それを無視していくか、自分の中に取り込むかの二択を迫られる。時代ごとに最先端技術があって素材もどんどん進化するから、それを盛り込むと現実感のあるメカやロボットのイメージは変わっていきます。その時代その時代で、地に足の付いた〝何か〟が必要だと考えたのでしょうね」

太ももが大きく足先が細い〝士郎メカ〟の優れた完成度

フチコマ
漫画版およびPS版同名ゲームに登場する多脚思考戦車『フチコマ』。丸々とした4本の脚部、前方にはマニピュレータ付きの腕部が付いており、まさに〝可動部が先に行くほど細く機動力に優れる〟士郎メカの代表例だ ©士郎正宗/講談社

「私も若い頃は〝世界丸ごと作って漫画を描きたい〟と思ってたんですが、士郎氏に先にやられてしまいましたね。士郎氏のメカは非常に先進的ながらも強い現実感があって、手触りを感じる。そこは自分のメカデザインにも通じているかもしれません。『機動戦士ガンダム GQuuuuuuX』のザクをデザインした時は、入り組んだ戦場でモビルスーツが通れるか通れないかくらいの場所を特殊部隊のように走り回ってほしいなと考えたのです。そうすると太ももは大きく、足先は細くしたいですよね……また先にやられたなと(笑)」

KADOKAWA『エヴァンゲリオンANIMA 山下いくと画集』
『エヴァンゲリオンANIMA 山下いくと画集』(KADOKAWA) ©カラー

 山下さんは今年2月に刊行した自身初の画集『エヴァンゲリオンANIMA 山下いくと画集』(KADOKAWA)をひもときながら、士郎メカと自身のメカニックデザインとの共通点に言及する。

KADOKAWA『エヴァンゲリオンANIMA 山下いくと画集』
山下いくと氏初の画集。TVアニメの3年後を描いたオリジナルストーリー『エヴァンゲリオンANIMA』のカラーイラストや設定画を中心に収録。「エヴァンゲリオンのデザインができるまで」などは必読だ。 ©カラー

「士郎風のメカを取り入れようとしたクリエイターは過去に何人もいましたけど、どうしてもそれ以上へ辿り着けませんでした。というのも、アニメに登場するメカは玩具化の命題を背負っているからです。『新世紀エヴァンゲリオン』のデザインをはじめた当初は、庵野秀明監督に『玩具会社がスポンサーにつかないから好き勝手やっていいよ』と言われたんですよ。映像化しない前提の『ANIMA』で描いた、四足歩行のケンタウロス型エヴァは会心の出来栄え。商品化を前提にするとおもしろいデザインは生まれないものなんですが、士郎氏デザインのマウスは秀逸。使ってみたくなりますよね!」

 2026年放送予定の『攻殻』の新作アニメへの期待値も高い。

SCEI『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』[PS1]
SCEI『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』[PS1]

「これまで原作に忠実という意味ではPS版のゲームが最高峰だと常々感じていました。『攻殻』が描かれた時代はスマホも二足歩行ロボットもなかったですが、とうとう人工臓器まで実用化されてしまった。そんな現代に士郎氏の未来シミュレーションがどのように更新されるのか? どんな方向で攻めてくるのか楽しみですよ」

SCEI『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』[PS1]
映像化された中で、キャラクターデザインが最も原作に近い。士郎氏が『ジャンピングフラッシュ!』のファンだったことから開発会社エクザクトに開発を依頼した。石野卓球氏も参加したサントラは名曲揃い。

取材・文/多根清史 編集/渡辺和博

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