なぜ、WBCはNetflixの独占配信となったのか？150億円の放映権料が変えた〝観戦の新常識〟

2025年8月25〜26日、Netflixが2026年のワールド・ベースボール・クラシック（WBC）全47試合を日本で独占配信すると発表し、波紋を呼んでいる。

前回2023年大会では地上波で無料視聴できた国民的なスポーツイベントが、ネトフリの独占放送となった背景や、インターネットの動画配信サービスであるネトフリの視聴方法・月額料金、世間の反応について解説する。

2026年WBCがネトフリ独占配信を決定。その内容は？

Netflixは、2025年8月26日（日本時間）、WORLD BASEBALL CLASSIC INC.（WBCI）との独占メディアライツ・パートナーシップを発表した。まずはネトフリがWBCIと締結した独占パートナーシップの詳細を確認しよう。

■Netflixが発表した独占パートナーシップの詳細

WBCIとのパートナーシップにより、ネトフリは2026年3月に開催される第6回WBCの全47試合を日本国内で独占配信する。対象となるのは、ライブ配信（生中継）および見逃し配信（オンデマンド）だ。

大会は東京、サンフアン（プエルトリコ）、ヒューストン、マイアミの4都市で開催される。前回王者である日本代表の防衛戦に注目が集まるのはもちろん、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手ら世界トップクラスの選手たちの活躍も期待される野球ファン待望の大会だ。

大谷選手は過去のインタビューで「選んでいただけるなら出場したい」と参加意欲を示しているが、2025年11月中旬時点では、正式な出場表明はまだされていない。

■ネトフリの独占パートナーシップにより地上波でのWBC生中継はなくなる

今回の独占配信が衝撃となった理由は、日本の地上波テレビ局ではWBCの生中継が行われない見込みとなったためだ。前回の2023年大会ではテレビ朝日系列やTBS系列が日本戦を中心に生中継し、高視聴率を獲得していた。

読売新聞社は、自社HPに声明を掲載し、「本大会では、WBCIが当社を通さずに直接Netflixに対し、東京プールを含む全試合について、日本国内での放送・配信権を付与しました」と説明。この事態を受けて、日本野球機構（NPB）や各関係機関も声明を発表し、国内の野球ファンが無料でWBCを観戦できる機会が失われることへの懸念を示した。

なお、独占配信の対象となるのは生中継とオンデマンドとなるため、ニュース番組でのハイライト放送や情報番組での扱いは可能と見られている。

なぜネトフリがWBCの独占放送権を獲得したのか？

驚きをもって受け止められたNetflixのWBC独占配信だが、Netflixが独占放送権を獲得した背景について、より詳しく見てみよう。

■WBCIが設定した放映権料の大幅高騰が背景に

Netflixが独占放送権を獲得した最大の理由は、WBCIが設定した放映権料の大幅な値上げだ。東洋経済オンラインなど複数の報道によると、今回の独占放送権料は推定150億円規模とされ、従来の金額から大幅に跳ね上がったと見られている。

これは世界的なトレンドでもあり、サッカーのプレミアリーグやUEFAチャンピオンズリーグなど、人気スポーツコンテンツの放映権料は世界中で高騰している。

■ネトフリのスポーツコンテンツ戦略にWBCが合致

Netflixは近年、スポーツライブ配信に積極的に参入している。2024年11月には、ボクシングのジェイク・ポール対マイク・タイソン戦を配信し、全世界で6000万世帯が視聴（Netflix公式発表）する記録的成功を収めた。

さらに、WWE（プロレス）やNFL（アメリカンフットボール）との提携も発表しており、スポーツコンテンツを配信ラインナップの重要な柱として位置づけている。

WBCの独占配信は、Netflixにとって日本市場を攻略する重要な戦略の一環だ。日本では野球が国民的スポーツとなっており、最も注目度の高いコンテンツの一つであるWBCを独占することで、新規加入者の獲得と既存会員の満足度向上という二重のメリットを狙っていると考えられる。

■日本のテレビ局がWBCの放映権を買えなかった理由

テレビ局が今回、放映権を獲得できなかった背景には、広告収入の減少などの構造的問題が挙げられる。日本のテレビ局は広告収入をベースとしたビジネスモデルで運営されており、150億円規模の放映権料を回収することは困難だ。

また、今回のWBCIとのパートナーシップは「独占契約」という形態だったため、複数局で分担して放送する従来の手段が利用できなかった点も大きいだろう。

一方、Netflixは月額課金制のサブスクリプションモデルを採用しており、世界で2億6000万人を超える加入者を抱えている。日本国内の会員数も1000万世帯を突破（2024年12月Netflix公式発表）しており、こうした安定的な収益基盤があるからこそ、巨額の放映権料を支払うことが可能だったと言える。

■今後のWBC中継はどうなる？

2026年大会以降、WBCの中継がどうなるかは現時点では不明だ。Netflixとの契約内容や期間は公表されておらず、2030年の第7回大会についても同様の独占配信となるか、他のプラットフォームに移るかも明らかになっていないためだ。

ただし、一度ネット配信に移行したスポーツコンテンツが、再び地上波テレビに戻る可能性は低いと見られる。

一方、地上波テレビにおいて、ハイライト番組や情報番組としてWBCを取り上げることは、今後も続く公算が大きい。

WBCが完全にテレビから消えるわけではなく、視聴形態が変わるということを意識して、視聴者一人ひとりが新しい視聴スタイルにどう向き合うかを問われる時代になったと言えるだろう。

ネトフリでWBCを観戦する場合の料金と視聴方法

WBC観戦のためにNetflixへの加入を検討している人も多いはず。Netflixの料金プランと視聴に必要な準備、コスパについて見てみよう。

■Netflix料金プランの詳細（2025年12月時点）

NetflixでWBCを視聴するには、いずれかの料金プランに加入する必要がある。2025年12月時点の日本での料金プランは以下の通りだ。

・広告つきスタンダード：月額890円（最安プラン）

広告が表示されるが、最も手頃な価格でWBCを観戦可能。画質はフルHD（1080p）に対応している。

・スタンダード：月額1,590円（広告なし）

広告なしでフルHD画質の視聴が可能。2台までの同時視聴に対応しているため、家族で別々の端末から利用することもできる。

・プレミアム：月額2,290円

4K画質（Ultra HD）に対応し、4台まで同時視聴が可能。最高画質で大画面テレビでの視聴を楽しみたい場合に向く。

Netflix公式発表によると、WBCはすべての料金プランで視聴可能となっている。ただし、料金プランは変動する可能性があるため、契約する際は公式サイトで最新の料金情報を確認したい。

■ネトフリの視聴に必要な環境と準備は？

Netflixの視聴にはインターネット環境が必須だ。推奨される通信速度は、標準画質で3Mbps以上、HD画質で5Mbps以上、4K画質では25Mbps以上となっている。

視聴可能なデバイスは多岐にわたる。スマートフォン、タブレット、パソコンはもちろん、スマートテレビ、Fire TV Stick、Chromecast、Apple TVなどの各種ストリーミングデバイスにも対応している。

Netflixを初めて利用する場合は、事前にアカウント登録が必要となる。WBC開催前に登録と支払い方法の設定を済ませておくのがおすすめだ。

なお、NTTドコモやauなど、携帯電話キャリア経由でNetflixに加入すると、ポイント還元などの特典が受けられる場合があるため、キャリアユーザーはチェックしてみよう。

■ネトフリのコストパフォーマンスを考察

前回大会まで地上波で無料視聴できていたことを考えると、WBCの有料化は大きな変化と言える。Netflixを普段利用していない人にとっては、WBCのために新規で契約するかどうかは悩ましい問題だろう。

Netflixでは月額890円の最安プランからWBC全47試合が視聴可能となっている。WBCの開催期間は約2〜3週間のため、その期間だけ契約すれば1か月分の料金（890円〜）で全試合を楽しむことも可能だ。1試合あたりで換算すれば20円程度となる。

また、WBC以外にも映画、ドラマ、ドキュメンタリーなどの豊富なコンテンツを楽しめる点は、単純な視聴料金比較では測れない面もあるだろう。

結局のところ、コストパフォーマンスの評価は個人の視聴スタイルや価値観によって判断する以外になさそうだ。

※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。

文／長尾尚子