新型iPhoneの噂は、それが実現したものもあれば文字通り「ただの噂」に終わったものもある。
Appleは製品に関する事前情報を全くと言っていいほど発しない企業で、それ故に「次期iPhoneに関するリーク情報」が世界各国のテクノロジーメディアを賑わせ、読者はそれに一喜一憂する。過度な期待は禁物だが、それでも「来年のiPhone」という言葉には妙な魅惑が漂っている。
さて、現時点での「来年のiPhone」——即ちiPhone 18だが、これはどうやらカメラが「可変絞り」になるという。
もちろん、ここからの話はあくまで「噂レベル」だが、それでも「iPhoneのレンズに光学的な絞りが搭載される」というのは注目に値する話題ではないか。
「複雑な装置」から「誰もが扱えるもの」へ
「一眼レフカメラは、撮影に関する知識を学んだ人でなければ扱うことができない」と言われている。それはなぜか?
ここで、本題からやや脱線してカメラの歴史に触れていきたい。今年8月に再びの経営危機が報道されたイーストマン・コダック社は、ジョージ・イーストマンという写真家が創業した企業である。イーストマンの生年は1854年、彼の青年期は19世紀の後半である。この時代のカメラとは、ガラス板に薬剤を塗布してそこに像を写し出す仕組みだった。が、これではカメラマンに多大な負担がかかってしまう。そこでイーストマンは、薬剤を塗布する必要のない写真看板を発明・販売したのだ。
やがてイーストマンは、一度装填すれば何枚もの写真を撮影できるロールフィルムを市場投入した。これを撮影後にコダックと提携の写真店に持っていけば、有料で現像してくれる。そうしたビジネスモデルを確立したのだ。
再び経営危機を迎えているコダックの珍ガジェット「ディスクカメラ」を覚えているか?
イーストマン・コダックが再び経営危機を迎えているという。 19世紀、写真機といえばガラスの板に薬品を塗り、巨大な木箱の中にそれを納めてからレンズの蓋を開けて光を…
カメラの歴史とは、複雑でややこしい装置がだんだんと簡略化していった歴史である。学者か工科大学の学生しか扱えなかったコンピューターが徐々に小型化し、キーボードとマウスが付属したパーソナルコンピューターという形に落ち着いて、小学生でも扱えるようになっていった流れに似ているかもしれない。
ただし、カメラレンズの「絞り」とシャッタースピード、そしてフィルム感度の3点からその場面にあった露出を自動で決定する仕組みの実現は、19世紀どころか20世紀も終わりに差しかかった頃の話だ。特に絞り、つまり光がレンズ内部を通り抜けるまでの途中にある穴の調整機構は、カメラマンの腕の見せ所。ここをどう調整するか、つまりどう絞るかで、写り方も大きく変わってくるのだ。
F値と「背景のぼかし」の関係
レンズの絞りは通常、「F値」で示される。
たとえば、F3あたりから少ない数字の絞りを設定できるレンズは強力な「ぼかし」を画に加えることができる。ピントを合わせた対象以外の部分をぼかしたい場合は、極力少ないF値を設定し、穴を大きくするのだ。そして、穴が大きいということはその分だけ多くの光を取り込むことができ、画は明るくなっていく。
もちろん、あまり明る過ぎると真っ白な画になってしまうから、そのあたりはシャッタースピードやフィルムのISO感度を変えることで調節する。現代のデジタルカメラの場合、ISO感度はただ単に設定画面で変更するだけなので、フィルムカメラよりも遥かに楽な操作が見込める。
では、逆にF値を大きくした場合はどうか。F16あたりでは、画面内のピントの合う範囲がぐっと広くなる。言い換えると、その中でぼかしを利かせることは殆どできない。くっきりと明瞭な画になっていくのだ。そして、穴が細い分だけ光の量が少なくなり、画面が暗くなる。
大まかに、人物を撮影するポートレートの場合はF値を大きく、広域的な風景写真の場合はF値を小さくするのが定石だ。
噂はあくまでも「噂」だが…
話をiPhoneに戻そう。
iPhone 18に可変絞りが搭載されるという噂があるのは冒頭に書いた通りだが、現行のiPhoneでもポートレートモードにすればF値を手動で調整することができる。が、ここで出る背景のぼやけはあくまでもデジタル処理したもの、平たく言えば「偽物」である。これはデジタルズームと同じような代物で、レンズを使って光学的に写した画では決してないのだ。
iPhoneに可変絞りが搭載されるということは、これがより一眼レフカメラや高級コンデジに近づいていくということだ。
もっとも、「可変絞り搭載のiPhone」の話題はiPhone 17発売前からあった。実は、17こそが「初の可変絞りiPhone」になると噂されていたことも。これはただの「噂」、つまり偽のリーク情報だったというのがオチである。
故に、iPhone関連の事前情報はあくまでも「そういう話がある」程度に考える必要があるのだが、それでも人間は夢や願望と共に生きる動物だ。キリストも「人はパンだけで生きているわけではない」という言葉を残している。夢を持たなければ、人間は生きていけないのだ。
iPhone 18に可変絞りレンズが内蔵された場合、それで撮影した写真の表現が格段に広がるのは間違いない。それは、生成AIがどのような画像でも作ってしまう現代だからこそ強く求められている機能ではないか。自分自身の手で、最高の1枚を撮影する。そのような喜びを誰しもが体験できるiPhoneがこれから実現するとしたら、かつて「電話を再発明」したiPhoneはさらに再発明されたと判断してもいいのではないか。
【参考】
MacRumors
文/澤田真一







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