コストコが巨額の経済効果をもたらそうとしている。いや、既に「もたらしている」と言い切ってもいいかもしれない。
山梨県南アルプス市にあるコストコ 南アルプス倉庫店。ここは単に「山々を見渡せる風光明媚な場所にコストコが建てられた」という意味合いを超えて、周辺地域の活性化に極めて重要なインパクトを与えるようになった。これは少子高齢化がいよいよ深刻になってきた日本の明日を見通すための、極めて大きな試験材料ではないか。
かつて、大型商業施設は「地元の商店街から客を奪う敵」と見なされていたことがある。が、南アルプス市のコストコに限れば「敵」どころか「万軍の味方」であり、誰しもが得をする新しい形の経済セクターと言えるのだ。それはコストコそのものだけでなく、コストコの周辺に設けられた施設からも窺うことができる。
タッチ決済対応セルフレジ付きの物産直売所
中部横断自動車道の双葉JCT-新清水JCTが開通したのは、2021年8月のこと。
この高速道路は、静岡県と山梨県を峡南を経由して接続する輸送線でもある。物流面での課題が解消したことにより、たとえば長野県佐久市のスーパーマーケットでは海産物をそれまでの日本海側から取り寄せると同時に、太平洋側からも取り寄せることが可能になった。また、中部横断道が通る地域の物産をより広域に輸送しやすくなったという効果も表れている。
もちろん、地域外の人々が峡南の物産を買うために車で乗りつけるということも実際にあり、それが大きな経済効果をもたらしている側面も。
11月8日、この日は土曜日だった。筆者は愛車のダイハツ・コペンに乗ってコストコ 南アルプス倉庫店の付近に所在する『fumotto南アルプス』を訪れた。ここは「体験型総合施設」という触れ込みであるが、その中核にあるのは『fumotto MARCHE』という物産直売ストアである。
ここを「地方のスーパーマーケット」のように想像してはいけない。山梨県と静岡県の物産が大量に陳列された、タッチクレカ・QRコード決済対応のセルフレジマーケットである。ビニール袋も自分で撮ってバーコードを読み込ませる仕組みだ。「ハイテク」などという古い単語を使うと年寄扱いされそうだが、この店舗は現代人のニーズをちゃんと取り入れてくれている。
そして、fumotto MARCHEにあるものはどれも「そこでしか買えないもの」ということを強調しておく必要がある。地域物産だから当然といえば当然なのだが、それでも実際に来てみると「この世にこんなものがあったのか!?」と驚愕する場面に幾度も遭遇してしまう。
fumotto MARCHEのワインコーナーは、ワイン好きの人ほど新発見に打ちのめされる場所ではないか。
こんなワインがあったのか!という商品がズラリ
山梨県は日本有数のブドウの産地、そしてワインの産地でもある。
fumotto MARCHEで扱われているワインは、いずれも地場産。それ故に、「こんなワインが存在したのか!?」とつい声に出してしまうほどの特殊(と表現したらまた失礼かもしれないが)な商品がズラリと並んでいる。
それだけ、我々日本人は外国産ワインに見慣れてしまったということでもあるが。
今回筆者が購入したのは、「現存する日本最古のワイナリー」まるき葡萄酒の『まるきルージュ 720ml』。甲州市勝沼のワイナリーだ。
これは1,500円あれば釣りが返ってくるくらいの安価なワインではあるが、にもかかわらず随分と気高い味わいだ。程よい樽の香りと、ある意味で赤ワインらしくない軽くあっさりとした舌触り。
ワインというものは、本来ゆっくり飲む酒のはず。しかし、この『まるきルージュ』は気を抜くとぐいぐいと喉の奥に流し込んでしまう。いかんいかん、もうすぐ特定健診を受けなきゃいけないんだった……。
失敗から吸収したこと
fumotto南アルプスは、隣接するコストコとの経済的な相乗効果を狙って建設された施設であることは明白である。
が、ここはかつて数億円もの税金を泡のように消えさせてしまった「失敗の土地」だったということも書いておくべきだ。
『南アルプス完熟農園』は、2015年6月に開業した「観光型農場」。当時の南アルプス市長がまさに主導して完成にこぎつけた施設で、果樹園やレストラン、地域物産直売所などが設けられていた。当時は地元から大きな期待をかけられていた南アルプス完熟農園は、しかしオープンから僅か7ヶ月後に閉園の憂き目に遭った。
「なぜ南アルプス完熟農園は閉園せざるを得なくなったのか?」という話題については、様々な見方がある。しかし、いずれにせよ8億円もの投資が収益を殆ど生み出せずになくなってしまったことは事実だ。コストコとfumotto南アルプスは、まさに南アルプス完熟農園があった跡地に建設された。
2015年当時は中部横断道の開通前で、集客面でも難儀していたであろうことはすぐに想像できる。それでもある程度の集客はちゃんとあったという見方もあり、実はその部分をfumotto南アルプスが上手に掬い上げている節も見受けられるのだ。
南アルプス完熟農園の地域物産直売所は、準備不足による品揃えの悪さが指摘されていた。これに天候不順が重なり、結果として希少性のある商品を供給し続けることができなかったという声も。しかしそれは、直売所自体に何かしらの落ち度があったことを意味しない。むしろ、この施設に商品を安定的に供給すれば大きな集客を見込めるという確信があったのだろう。
そこにコストコが加わればどうか? コストコで買い物を済ませた人々が、その興奮冷めやらぬうちに直売所に足を運び、我が地域の物産を購入してくれる。
つまるところ、そうした原理を徹底的に考察し、「人が集まる場所」として具現化したのがfumotto南アルプスなのだ。
我々は、この施設から様々なことを学べるだろう。
【参照】
fumotto南アルプス
取材・文/澤田真一
今冬、続々オープン!韓国No.1ファストフード「マムズタッチ」は日本に浸透するか?
ファストフード店は、人類の食文化を大きく変えた。 どのように食文化を変えたかは詳しく後述するが、ファストフードという形態の飲食店が確立する前と確立した後とでは、…







DIME MAGAZINE


















