ルーズソックス、ガラケー、プリクラ、フィルムカメラ。
度々、「懐かしい」と話題にあがる平成カルチャーが、最近では 〝エモい〟という感情価値をまとってきている。
5年前に起きた「平成レトロブーム」は、どこか懐古的でノスタルジックな潮流だった。
しかし、その潮流に変化が起こり始めている。最近では〝過去を懐かしむ〟のではなく、〝感情を共有する〟ために平成を求めているのだ。
マーケティングの世界では、この現象を「エモ消費」と呼ぶ。
それは、〝エモーショナル(emotional)〟、つまり感情に突き動かされて生まれる消費行動のことだ。
さらに言えば、エモ消費はSNS時代における新しいコミュニケーションのかたちでもある。
UGC(ユーザー生成コンテンツ)を通じて、個人の〝エモさ〟が可視化され、連鎖的に広がっていく。
いま、マーケティングやカルチャーの現場で注目されるキーワード――「エモ消費」。
平成を象徴するカルチャーは、なぜ再び若者の心を掴んでいるのか?
その裏にある〝感情の経済〟をひもといてみよう。
懐かしさを超えて、「感情を買う」時代へ
まず押さえておきたいのは、平成レトロが単なる〝懐古ブーム〟ではなくなっているという点だ。
5年前、SNSで広がった平成レトロは「懐かしさの共有」だった。
「平成ギャル」「ガラケー」「たまごっち」――そんなハッシュタグの下で、〝あの頃よかったよね〟と語り合う再評価の時間だった。
だが2025年の今、そのトーンは明確に変化している。
Z世代がガラケー風のケースを買う時、それは単に「ガラケーを使いたい」からではない。〝ガラケーを持っていた時代の、誰かの気持ち〟を疑似体験したいからだ。
つまり、「感情そのものを消費する」。これこそがエモ消費の本質だ。
マーケティング的に言えば、〝機能価値〟から〝情緒価値〟への転換といえる。
性能や価格よりも、〝ときめく〟〝懐かしい〟〝癒やされる〟といった感情が購買の動機になるということだ。
この傾向の背景には、SNSなどの情報過多によるデジタル疲れの要因もあるだろう。
効率化された生活の中で、人々はあえて不便でアナログな体験を支持するようになった。フィルムカメラや有線イヤホン、手書きの手帳や編み物の流行など、そうした行為が〝心の余白〟を取り戻す儀式として求められている。
エモ消費とは、効率社会の中で感情を優先して消費につながる行為。
その象徴的なものとして平成カルチャーが再び脚光を浴びているのだ。
「平成女児ブーム」が示す、感情のアップデート
その平成レトロの中でも、とりわけ象徴的なのが「平成女児カルチャー」のジャンルだ。
平成女児カルチャーとは、2000年代初期の少女たちが夢中になった〝かわいい〟〝憧れ〟と〝自己表現〟の文化を総称したもの。
ナルミヤ・インターナショナルのナカムラくんやべリエちゃんのキャラクター、ラブベリやセボンスターなど、当時の女の子たちの〝感性と世界観〟を形づくった要素が含まれる。
この2000年代前半の〝女児カルチャー〟を再構築する動きは、去年からZ世代の間で一気に広がり、一過性のブームや界隈消費の枠を超えて、今年はついにナルミヤキャラクターズ初の常設店「ナルミヤ ハッピーパーク(NARUMIYAHAPPY PARK)」が、ルミネエスト新宿にオープンした。
平成女児カルチャーは、「当時の〝無邪気な自分〟を取り戻す」ことが目的。
SNS上では、「#平成女児」といったハッシュタグのもと、当時の世界観を再編集したリールが次々と投稿されている。
そこにあるのは、〝子ども時代を懐かしむ〟というより、〝少女時代の感情を再生する〟という行為に近いだろう。
大人になっても「かわいい」を肯定したい、「守られる側」ではなく「自分の世界をつくる側」として平成の美意識を再構築しているのだ。
この現象は、平成を再現するのではなく、〝平成的感情〟を今にアップデートする試みでもある。つまり、エモ消費の中心にあるのは「感情の再演」ではなく「感情の再設計」なのだ。
「Y2K」とエモ消費の交差点
そして、平成レトロと並行して、「Y2K(ワイツーケー)」ブームも世界的に再燃している。
Y2Kとは、2000年代初頭のカルチャーを指す言葉だ。
このムーブメントは、2020年前後からSNSを中心に再び注目を集めるようになった。
グリッターやメタリックの質感、ギャルファッション、そしてWindows 98風のグラフィック——。
一見、ファッションのトレンドとして消費されているように見えるが、その根底には、〝エモ消費〟という感情に根ざした価値観が息づいている。
Z世代にとってのY2Kは、2000年代初期の「テクノロジーへの夢」と「新しい〝かわいい〟の価値観」、「未来への憧れ」の象徴。
不安定で未完成だったデジタル黎明期を、彼らは〝人間らしい未来〟として再評価している。
実際、Instagramでは「#平成」や「#Y2K」のハッシュタグが並び、そこには〝未来を信じていた時代〟への共感が渦巻く。
つまり、Y2Kとは「懐かしい過去」ではなく、〝希望の再演〟なのだ。
平成女児カルチャーが〝自己肯定の感情〟を再構築するものなら、Y2Kは〝未来への感情〟を再構築するものといえるだろう。
どちらも、失われた〝感情の温度〟を取り戻すムーブメントとして、エモ消費と密接に結びついているのではないのだろうか。
「記憶のデザイン」へ進化する「エモ消費」
いまやエモ消費は、平成レトロや平成女児カルチャーに限らない。
〝感情をデザインする〟発想は、あらゆる業界で加速している。
たとえば、コンビニで売られる〝限定商品〟。
今年はローソンが復刻フェアを展開し、旧パッケージで商品を展開するなど、懐かしさと新しさを掛け合わせた企画が話題を呼んだ。
「子どもの頃に食べた味」や「家族で過ごした時間」を思い出すようなパッケージやコピーが施されているとたちまち話題になる。
購買の動機は「食べたい」だけではなく、「感情」もセットとなって初めて購買に結びつくことの一例だろう。
また、音楽サブスクやTikTokでは、90~00年代プレイリストが高い再生数を記録。
コメント欄には「この曲を聴くと高校時代を思い出す」といった感情の断片が並ぶ。
そこにあるのは、単なる懐古ではなく、感情を共有するための小さなコミュニティだ。
企業にとって重要なのは、単にリバイバル商品を作ることではない。
〝その時代を知らない人にも感情を届ける仕掛け〟を生むことだ。
平成の香りを再現した芳香剤、ガラケー音をサンプリングしたアプリ、レトロフォントの広告ビジュアル――。
それらは、過去を再現するためではなく、〝共感を設計するため〟に存在している。
いま、マーケティングの最前線は「感情の設計」にある。
エモ消費とは、人々の〝心の記憶〟を再編集する試みであり、UGCを通じて共感が増幅される〝感情のエコシステム〟なのである。
「エモ消費」は、時代の〝感情の取引所〟
平成レトロやY2Kブーム、そして平成女児カルチャーは、もはや単なる懐古ではない。〝かわいい〟や〝懐かしい〟といった感情そのものが価値となり、人々の間で共有され、交換される 〝感情の取引所〟の形へと進化している。
かつての自分、知らない時代の誰か、SNSの向こうの他者――それらの感情が共鳴する場所に、新しい価値が生まれている。
そして、その流れの中に位置づけられるのが、今の「平成レトロ」だ。
現在の平成カルチャーが象徴しているのは、単なる懐古趣味ではない。
そこにあるのは、〝人と感情をつなぐ温度〟。過去を通して、いまの自分を確かめるための感情のぬくもりなのだ。
エモ消費は、過去を懐かしむ行為ではなく、〝心の再構築〟のムーブメントだ。
UGCによって可視化された感情が、新たなコミュニケーションの場を生み出している。
平成女児カルチャー、Y2K、平成レトロ――それらはすべて、デジタル時代における「人間らしさ」への回帰を映しているのではないのだろうか。
次に〝エモく〟なるのは、あなたの中にある記憶かもしれない。
取材・文/Tajimax
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