2025年、世界保健機関(WHO)の発表によると、世界では成人の 5.7 % がうつ病に罹患しているという。心の調子が低下すれば、体も連動して悪化するケースは多々ある。「心身の状態を整えて、いい方向に導く『カンナ』という植物の力が世界的に注目されています」と言うのは、『Kanna People』(カンナピーポー)代表の松本敏さんだ。欧米のビジネスパーソンが注目する植物・カンナについてお話を伺った。
松本敏さん
ファッション業界に勤務時代、ハードワークの結果自律神経の病を発症。植物療法の可能性に出会い、CBDのパイオニア – デンマークのENDOCA社の日本展開を手がける。伊勢丹新宿店と鎌倉に日本初のブランド店をオープン。全国の販路開拓を通じ、CBD市場の礎を築く。激務の末、自律神経失調と不安障害を再発し、2023年に代表を退任。回復の過程で『カンナ』に出会い可能性を見出し『Kanna People』を設立。
ドーパミン依存で自律神経の機能不全に
――松本さんは、CBDを日本に輸入し、浸透させた経歴をお持ちです。その背景についてお聞かせください。
2010年代前半から私はファッション業界で働き、ヨーロッパと日本を往復する生活をしていました。パリコレに日本のブランドを出したり、海外ブランドの日本販路を作ったりして、とても忙しく、やりがいもあり充実していたのです。
Instagram黎明期に、Instagramに特化したイタリアブランドを運営していたこともあり、寝ることさえ時間がもったいなかった。頭も冴えており、フルスピードの疾走感がありました。そんな数年を過ごしていたら、ある日呼吸ができなくなったんです。鼓動もおかしくなって、視覚や聴覚にも異常をきたすように。医師は「自律神経が正常に機能していない状態だ」と言いました。
自律神経は生命活動の根幹を支える重要な働きをしています。やがて、歩行どころか消化や排泄、体温を保つことさえも満足にできなくなり、文字通り「人として機能しない」ような状態が2年近く続いたのです。
この間、体のパーツ別に専門的に診る西洋医学の治療は受けたのですが、体全体の不快感は消えませんでした。看護師の妻や医師と相談しつつ、体を総合的に診る東洋医学の可能性を探ったのです。漢方や鍼灸、温熱治療など、あらゆる治療を受ける中で、最も効いたのがスリランカのアーユルヴェーダでした。
それでも、体が元通りにならないと感じていた2016年ごろ、海外の友人がCBDを教えてくれたのです。試してみたところ、心身のバランスが整った感じがあったのです。これは多くの人の役に立つと確信し、行動を始めました。
――2018年ごろから、一気に広がったCBDのムーブメントのきっかけは、松本さんが作ったとも言えます。
デンマークの本社と交渉・契約し、日本の法律に基づき厚生労働省の認可をとりつつ、販路の拡大、ブランディングなどを同時進行。さらに正しいCBDの知識を広めるための活動にも注力していたら、また病気が再発してしまったのです。そんな中で出会ったのが『カンナ』という南アフリカの植物でした。“カンナ”とありますが、カンナビス(大麻)ではありません。
特にアメリカ市場ではCBDの次はカンナだと言う方も現れ始めており、複数の研究結果に基づくその安全性から急速に広まっています。
カンナは、南アフリカ共和国とナミビア共和国に広がるカルー砂漠に自生する多肉植物です。過酷な自然の中に生きる現地の人は、数千年前から「心と体を整える植物」として愛用してきた背景があります。
現地の先住民の使い方は、野生のカンナを発酵させ、ペースト状にして噛みます。すると、狩りの時では、持久力が高まり、空腹や渇きを抑えることができ、意識をクリアにし、心を開かせていくのです。
やる気や意欲的になるドーパミンではなく、セロトニン経路に働き、心をひらく(心を緩ませる、感情をほどく)というのがカンナの特異的な効能です。痛みの緩和も効果もあるようです。
現地では赤ちゃんの寝かしつけにも使われているようです。
古来の儀式が、最新の科学でエビデンス化
――CBDもカンナも植物の力を応用した製品で、特にカンナはセロトニン経路に働き、心を落ち着かせます。今、フィトセラピー(植物療法)が注目され、ハーブやアロマを暮らしに取り入れるようになっていますが、セロトニン経路に働きかけるのは珍しいのではないでしょうか。
はい。これがカンナの特徴です。僕は体を壊した時に、植物療法も調べました。世界では、多くの国が医療として認められていることがわかりました。日本で植物療法士は民間資格ですが、フランスや英国などでは国家資格ですし、アーユルヴェーダが保険治療の国もあります。多くの国で心身の不調のアプローチはホリスティック(総合的)に行う伝統があり、今後、日本でも一般化していくでしょうね。
なぜなら、脳科学などのテクノロジーが進化し、エビデンスが取りやすくなったからです。例えば、シリコンバレーで働く人の多くに注目されている『スウェット・ロッジ』(sweat lodge)というネイティブ・アメリカンに古代から伝わる儀式があります。
これは主に治癒と浄化を目的としているのですが、この儀式に参加した人の脳波を計測するなどの取り組みが行われているようです。世界各地に土地や民族に根ざしたこのような風習や治療法がありますので、その謎が今後解明し、医療や健康づくりに取り入れられていくかもしれません。
前出の通り、カンナもその一つです。まず、体に取り入れると、心身の状態が整い「地に足がつく」と言う実感が得られます。そして、セロトニン経路に働きかけ心が開くように感じ、とてもリラックスします。他者に対する恐怖感が和らぎ、周囲の人に安心感を覚えるようになります。また、怖いことに対する防御反応を溶かしてくれます。
リラックス状態へと導く『カンナ ダスト・オーラ』、ありのままの自分に近づく『カンナ ダスト・エモーション』、集中力に働きかける『カンナ ダスト・シンク』が人気。(全て¥5940・カンナピーポー)お茶などに混ぜて食べる。
ストレスからくるイライラのようなものが緩和して、穏やかで優しい「その人そのもの」が出てくる。これは平和につながる植物ではないかと思うようになりました。また、カンナは依存を断ち切る役割が非常に強く、南アフリカではアルコール依存や薬物依存の治療のためにも使われています。
可能性を感じた私は米国ニューヨークのカンナ業界のリーディングカンパニー『KA!Empathogenics社』の日本公式代理店になりました。KA!社は、アフリカ現地のコミュニティをサポートしながら、研究機関と提携し、臨床に基づいた植物由来の革新的な製品を生み出しています。また南アフリカのカンナの抽出工場からカンナエキスを直接調達し、『カンナピーポー』のオリジナル製品を製造しています。
――競争心や不安などが緩和され、穏やかな状態になってしまうと、生産性が下がる可能性も考えてしまいます。
確かに、恐怖や闘争心を起爆剤にした瞬間的な生産性は下がるかもしれません。しかし、長い目で見た時に、不安から解放されて楽観的に「すべきことを行う」ことができると、いい状態に発展していくと私は考えています。
社会は未来に対しての不安感を軸にドーパミン依存の社会を形成してきました。それも限界に来ていると感じます。私たち、『カンナピーポー』は、ドーパミン依存の社会から脱し、セロトニンをベースとした日々の喜びに溢れた社会づくりに寄与したいと考えています。
こういう社会になると、私のように燃え尽きるまで働くことが少なくなるので、いい状態が長く続くと考えています。これはトータルで考えた場合の生産性が上がると私は確信しています。
古代から現代に至るまで人の健康に寄り添ってきたカンナ。その力を生活に取り入れ、ストレスマネジメントや心の負荷を軽減した先に、別の可能性が見えてくるかもしれない。また、今後も植物が持つ治癒力は注目されていくだろう。トレンドに注目したい。
取材・文/前川亜紀 撮影/杉原賢紀(小学館)







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