「Googleに聞く」から「AIに聞く」へ。情報は「検索される」ものから、「生成される」ものへと変わった。
検索から生成へ:情報アクセスの大転換
私たちは長年、何かわからないことがあれば「ググる(Googleで検索する)」のが当たり前でした。しかし今、その常識が大きく揺らぎつつあります。2022年末に登場したOpenAIのChatGPTは公開からわずか2か月で1億人の月間ユーザーに達し、史上最速で普及した消費者向けアプリとなりました。
多くの人々がチャットボットAIに日常的な質問を投げかけ、まるで検索エンジンのように使い始めています。実際、Adobeによる調査ではChatGPT利用者の77%が同サービスを検索エンジン代わりに使っており、約3割はGoogleやBingよりChatGPTの結果を信頼すると回答しました。日本でも同様の傾向が見られ、20代の約8割が従来の検索と同等以上にAI検索を信頼しているとの調査があります。このように「Googleで聞く」から「AIに聞く」へのシフトが起きつつあり、情報の取得方法が「検索して探す」ものから「AIが生成して提示する」ものへと変わり始めています。
この変化はユーザーだけでなく情報発信側にも大きなインパクトを与えています。従来、企業やメディアはSEO(検索エンジン最適化)によってGoogle検索での上位表示を目指し、ユーザーをサイトに呼び込むことに力を注いできました。しかし昨今はAlexaやSiriのような音声アシスタントやChatGPTのような対話型AIの普及により、ユーザーが断片的なキーワードではなく完全な質問で情報を求めるケースが増えています。
そして今、ChatGPTやAnthropicのClaude、Googleの次世代AIであるGemini、さらにはAI検索エンジンのPerplexityといった生成AIが新たな主要窓口となりつつありますこの文脈で登場したのがGEO(Generative Engine Optimization、生成エンジン最適化)という新たな概念です。情報入手の手段が検索エンジンから生成AIエンジンへ移る中、デジタル上での可視性を保つために不可欠な戦略としてGEOが注目されています。
GEOとは何か?SEOとの違い
GEOとは一言で言えば、「ユーザーの質問に対するAIの回答の中で、自社のブランドやコンテンツが適切に言及・引用されるよう最適化すること」です。従来の検索エンジンが結果としてリンク一覧を返すのに対し、ChatGPTのような生成エンジンはユーザーに直接答えや推奨を文章形式で生成します。そのため、これまでのように検索結果ページで上位に表示されることを競うのではなく、AIの生成する「答えそのもの」の一部となることを競う必要が出てきます。言い換えれば、GEOはSEOの延長線上にありながらも、その焦点は「検索されるための工夫」から「生成AIに引用・採用されるための工夫」へとシフトしているのです。
ここで決定的に異なるのは、ユーザーがコンテンツに触れる時点での知識量の違いですSEO経由ではユーザーは検索結果をクリックして初めてサイトに訪れるため、そこで初めて情報を得るケースが多くなります。一方、AIの回答経由ではユーザーは既にAIから要約や推奨を受け取った上でサイトに来たりブランド名を知ったりします。そのため両者では求められるコンテンツの深さや構成が変わります。
例えば、
• 従来の検索経由のユーザーは予備知識がないままサイトを訪れることが多く、包括的で網羅的な情報を求める傾向があります。
• AI回答経由のユーザーは既に概要や結論を知った上で詳細を調べようとしている可能性が高く、より専門的で具体的な情報や他にはない付加価値を求めます。
この違いにより、今後はコンテンツ制作の方針も変わってくるでしょう。一般論を並べただけの表面的なコンテンツや、作り手側の負担が少ない浅い記事は淘汰されていくと予想されます。なぜなら、そうした「ありきたりな一般論」はAI自体が訓練データから生成してユーザーに提示できてしまうからです。ユーザーがAIの回答以上の価値をサイトに求めるとすれば、それはより深い専門知識や独自の分析、最新のデータなどAIが持っていないか見落としがちな情報でしょう。結果として、コンテンツ提供者側には一層の専門性・独自性が求められるようになります。
また、生成AIの回答は一度生成されるとユーザーに直接提示されるため、情報の正確性や権威性がこれまで以上に重要になります。AIは信頼できる情報源や専門家の発言を好んで参照しようとするため、誤りのない最新データや専門家による見解などを盛り込むことが肝心です。
企業・マーケターはどう適応しているか
このような環境変化に対応すべく、企業やコンテンツ制作者は少しずつGEO戦略に乗り出し始めています。まず取り組まれているのが現状把握です。自社や自ブランドがChatGPTなど生成AI上でどう言及されているか、あるいは無視されているのかを調査する動きがあります。例えば国内大手広告会社の電通デジタルは2023年5月にGEOコンサルティングサービスを開始し、企業に対して「AI検索やAI回答における自社サイトの露出状況」を分析する支援を行っています。
マーケティングの現場でも、SEO専門家やコンテンツ担当者たちが試行錯誤を始めています。海外では「AI時代のSEO」を見据え、既存コンテンツの書き直しや強化を図る動きが加速しています。具体的には、これまで以上に見出しや段落を論理的に整理し、AIが重要ポイントを抽出しやすいよう構造化することや、統計データや数値を盛り込んで信頼性を示すこと、さらに専門家の引用や出典リンクを明記することで内容の裏付けを取ることなどが推奨されています
実際、検索マーケティングの専門メディアも「1つのセクションに少なくとも1つは統計やデータポイントを入れ、AI回答に具体的な数字を提供しよう」といった新しいチェックリストを提示しています。生成AIが回答を作る際、人間以上に論理的な文章構造や数字エビデンスを重視する傾向があるからです。
さらに、一部のマーケターは従来の枠にとらわれないGEO戦略も試みています。例えば海外で提唱されているのが**「コンテンツの分散配置」という戦術です。自社ブログに記事を上げるだけでなく、RedditやQuoraといったQ&Aサイトに専門知識を投稿したり、業界フォーラムに有益なコメントを書き込んだりすることで、LLM(大規模言語モデル)のクローラーがそれらを学習し、将来的にAI回答へ引用される可能性を高めようという発想です。
いわば「AIに盗んでもらうほど価値あるコンテンツをウェブ上あちこちに撒け」というアプローチで、従来のSEOが自社サイト中心の最適化だったのに対し、GEOではウェブ全体での存在感を意識した動きとも言えます。もっとも、この方法は一歩間違えばスパム的な投稿になりかねずブランドリスクも伴うため、あくまでユーザーに本当に役立つ内容を広めることが大前提です。その意味では、これも「ユーザーファーストの良質な情報提供」というSEOの原則と同じ考えといえるでしょう。
検索可視性とウェブコンテンツへの影響
GEO時代の到来は、ウェブ上のコンテンツ流通や検索可視性のあり方にも大きな影響を与えます。まず懸念されるのは、ウェブサイトへの直接トラフィックの減少です。ユーザーが疑問に思ったとき、これまでは検索エンジンにキーワードを入力し、表示されたサイトを訪問して情報を得ていました。ところが生成AIが高度化すると、ユーザーは検索結果のリンクを辿らずともAIから直接答えを得られてしまいます。
実際、GoogleのSGE(生成AI概要)が導入された後、「AIによる概要だけで目的の答えが得られてしまい、下の検索結果をクリックしない」というケースが一部の検索キーワードで発生していると報告されています。
例えばGoogle検索で「○○のおすすめは?」と尋ねるとAIが要約を示し、その中に具体的な製品名や店舗名が挙がっていれば、ユーザーはそれで満足してしまうかもしれません。この場合、従来ならユーザーを獲得できていたはずのサイトへのアクセス機会が失われることになります。
特に懸念が大きいのは広告収入やPV(ページビュー)を主な収益源とするウェブメディアでしょう。AIがニュースや知識を要約してユーザーに提供し、ユーザーが元記事を読まなくなれば、メディア側の収益モデルは成り立たなくなります。この問題に対し、欧米のニュース業界などでは「AIに自社記事を無断で学習・要約されるのは著作権侵害ではないか」という声も出始めています。
マーケティングとユーザー行動の未来
GEOの台頭は、デジタルマーケティングやユーザー行動の未来像にも影響を及ぼします。まずマーケティング面では、検索エンジン依存からの脱却がますます求められるでしょう。とはいえ「SEOはもう無意味、これからはGEO一択」という極端な話ではないでしょう。
SEOとGEOは目的を同じくしつつ舞台が異なるだけであり、両輪で取り組むのが最も効果的だと専門家も指摘しています。すなわち、従来型の検索結果でも上位を狙いつつ、同じコンテンツがAIの回答にも組み込まれるよう工夫するというアプローチです。たとえば自社サイトの優良なコンテンツについて、見出しを整理して読みやすくする(SEO改善)と同時に、その記事内に最新の調査データや具体例を追記して厚みを持たせる(AIが引用したくなるようGEO対応)といった具合に、ハイブリッドな最適化が考えられます。
マーケターにとっては、KPI設定や効果測定の方法も変わってくるでしょう。前述のとおり、単に検索順位やアクセス数だけを見るのでは不十分になり、「AIに名前が出たか」「AIが自社データを引用したか」といった指標を追いかける必要が出てきます。幸い、GEOの成果は従来のSEOほどブラックボックスではないかもしれません。検索アルゴリズムの順位決定要因は非公開ですが、生成AIがどの情報を参照して回答を作ったかは、ログや回答内容の分析からある程度推測できます。
このような未来では、ユーザーは便利さと引き換えに自分がどの情報源から知識を得ているのか意識しづらくなる可能性があります。AIが答えを用意してくれるのが当たり前になると、「それが誰の発信した情報なのか」「どのサイトに由来するのか」を気にしなくなるかもしれません。その結果、従来以上に信頼性の担保が重要になります。
AIの回答に間違った情報やバイアスが混入すれば、ユーザーはそれを鵜呑みにしてしまう恐れがあります。実際、現在の生成AIはしばしば事実と異なる回答を示すことがあります。便利さと信頼性のバランスをどう取るかは、今後の大きな課題と言えます。
結論:GEO時代への備え
検索エンジンが情報発見の基盤を築き、音声AIが会話型検索への適応を促し、そして生成AIが新たなフロンティアを切り拓こうとしています。
GEO──生成エンジン最適化はまさにこの時代の要請として生まれた戦略です。まだ確立された正解はありませんが、重要なのは恐れるより早く実験し学習することです。幸い、これまで培ってきたSEOやAEOの知見はGEOでも大いに活かせます。この新たな潮流を捉え、次の時代の情報エコシステムに備えていきましょう。
著者名/suzuki
肩書き/テックライター
経歴/企業史・起業家のストーリー、ビジネス文化の変遷を横断的に取材・執筆。教育・地域DXや情報リテラシーのテーマを発信。生成AIやテック全般の実務検証が得意。「難しいテクノロジーを生活のことばで伝える」がモットー。休日は山登りをしている。
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