神経に沿って痛みや発疹を引き起こす感染症である帯状疱疹。発症した人の中には、後遺症として神経痛が長期間続き、QOLを著しく下げてしまう人もいる。
疲れやストレスなど体力が落ちたタイミングに発症しがちだとされ、季節の変わり目などは要注意だというが、いったい帯状疱疹とはどういう病気なのか。そして、予防法はあるのか、ナビタスクリニック新宿院長の濱木珠恵先生に話を聞いた。
そもそも帯状疱疹とは?

帯状疱疹とは「帯状に水ぶくれがボコボコできる」という症状が代表的な疾患だ。子どもの頃に水ぼうそうに罹ったことがある人は誰しもが帯状疱疹を発症する可能性がある。
「帯状疱疹の原因は、子どもの頃に罹った水ぼうそう(水痘)のウイルスです。水ぼうそうそのものは治ってはいるものの、実は原因となったウイルスは体内に潜伏しています。普段は自分の免疫の力で発症を抑えられていますが、体力などが落ち、外敵と戦う力が低下したときに、ウイルスが再活性化して発症するのが帯状疱疹です」
そのウイルスが潜んでいる場所というのが、神経の根元。そのため、神経にそって帯状に症状が出てくるというわけだ。
「水ぼうそうに罹ったことが無い人は、水ぼうそうのウイルスが体内に存在していないので、帯状疱疹にはなりません。つまり、ワクチンを接種して、水ぼうそうを予防した人も罹らないわけです。ただ、水痘ワクチンが定期接種に導入されたのは、2014年から。つまり、多くの成人が水ぼうそうに感染済みと考えられ、帯状疱疹は誰でも発症する可能性がある病気だと言えます」
帯状疱疹はどんな症状がつらい?
帯状疱疹の初期症状で多いのは、赤い発疹や皮膚の違和感、そしてちくちくとした痛みなどだという。
「痛痒いと表現される人もいます。見た目には何もなく、違和感があるとだけ訴えられる人も。つまり、人それぞれ症状の出方は違う。中には激痛を感じる方もいます。厄介なのが、人によっては〝“神経痛〟”という後遺症が残ることです」
例えば痛みから発症した場合、筋肉痛やほかの痛みの疾患と勘違いをして、帯状疱疹だと気づくのが遅れてしまうケースがあるそう。
「このタイムラグが、後遺症に繋がりかねないんです。神経に沿って症状が出るため、治療開始までの時間がかかり様子を見てしまうと、神経にダメージが積み重なることに。その結果、帯状疱疹は治っても、神経痛が残るわけです」
具体的な治療法や予防法はあるのか?
初期から水ぶくれができていれば、帯状疱疹だとすぐに疑い、そこにウイルスがいるか抗原検査ができるという。すぐに治療ができれば、後遺症のリスクもぐっと下げられるわけだ。具体的な治療法はどういうものになるのだろうか。
「帯状疱疹だとわかれば、ウイルスが原因なので、抗ウイルス薬を使用します。痛みがある人には痛み止めも速やかに処方し、痛みを我慢しないことも後遺症の対策としては有用と考えています。適切な治療を受け続ければ、時間の経過とともに痛みも落ち着いていく人が多い。とはいえ、中には強めの痛み止めを使用しないと生活ができないレベルにまでなってしまう人もいるので、やはり発症しないことが大事ですね」
日常的な「痛み」というのは生活の質を大幅に下げることになる。予防意識を高めるには、生活習慣を整えること、そしてワクチンが有用だという。
「疲れが溜まっていたり病気になったりすると発症リスクは高まります。病原体と戦う力が無くなっているような体力のない状態にならないようにすることは非常に大切。ちなみに、帯状疱疹は50歳以上の人のリスクが高いと言われますが、若い世代でも発症しないわけではありません」
帯状疱疹予防のためのワクチンは2種類存在する。1つは帯状疱疹予防に特化したワクチンの「シングリックス」、もう1つが水ぼうそうのワクチンである「ビケン」だ。
「シングリックスの方が、帯状疱疹の発症予防としては効果が高いです。接種後1年時点だと、シングリックスは9割程度の予防効果で、ビケンだと6割。接種後5年時点だと、シングリックスは9割程度の予防効果で、ビケンだと4割と差があります。しかし、シングリックスは2回打つ必要があり、ビケンは1回でよく、値段はシングリックスの方が高い。また、ビケンは妊娠中は接種できないなど、受けられる人に違いもある。それぞれにメリットがあるため、比較検討をしてほしい」
どちらも65歳になると、定期接種の対象になっている。自治体によっては50歳以上で助成金が出るケースもある。
「65歳の定期接種のチャンスを逃しても、5歳刻みで対象になっています。例えば63歳の人は2年後になれば定期接種を受けられます。それまでの期間とりあえず自己負担でも安く1回で済むビケンの方で時間稼ぎをして、65歳になれば、定期接種を受けるというのもひとつの手だと思います」
接種を考えている人は、自分の年齢や、自治体の助成金などを調べ、ベストなタイミングやワクチンの種類を比較検討し、自分の身を守ってもらいたい。
【プロフィール】
濱木 珠恵/はまき たまえ
ナビタスクリニック新宿院長。北海道大学医学部を卒業後、国立国際医療センターにて研修。虎の門病院、国立がんセンター中央病院、都立府中病院、都立墨東病院などを経て、2016年より現職。日本内科学会認定内科医、日本血液学会認定血液専門医。専門は内科、血液内科。生活動線上にある駅ナカクリニックで貧血外来や女性内科などで女性の健康もサポート中。
文/田村菜津季
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