アップル自身で設計した最新のチップセット「M5」を搭載したiPad Proが、10月に登場した。iPad Proのラインナップが更新されたのは、約1年半ぶり。薄型設計や有機ELを採用したディスプレイはそのままに、チップセットを最新のものに置き換えた格好だ。処理能力では、同じM5を搭載したMacbook Proに迫る。
M5は、GPUにAIの処理を担うNeural Acceleratorを備えており、AIを活用したアプリや内蔵機能の処理をより高速化させているのが特徴だ。Apple Intelligenceに対応するiPad Proでも、その恩恵を受けることができる。また、モバイル通信のモデムチップにiPhone Airと同じ「C1X」を搭載。Wi-Fiなどの処理を担う「N1」チップと合わせて、内製化を進めている。
一方で、24年に発売されたiPad Pro(M4)と比べると、外観がまったく変わっていないこともあり、どこが進化しているのかが少々分かりづらいのも事実だ。チップセットの処理能力は、どこまで実際のユースケースに違いをもたらすのか。普段から、iPad Pro(M4)を使う筆者が、iPad Pro(M5)を使ってその進化に迫っていきたい。
iPadOS 26でPC風に使えるようになったiPad Pro、操作感は極めて良好
新しくなったiPad Proだが、外観に関してはiPad Pro(M4)からまったく変わっていない。iPad Pro(M4)のときに特徴として打ち出していた薄さも同じ。どちらも厚みは5.3mmで、重量もWi-Fiモデルは444g、Wi-Fi+Cellularモデルは446gになる。カメラも、12メガピクセルの広角カメラを1つ搭載している点は同じだ。
今回試したのは11インチのiPad Proだが、薄くて質感が高く、かつそこそこそ軽量という美点はそのままと言っていい。形状が変わっていないため、オプションとして販売されているApple Pencil ProやMagic KeyboardもiPad Pro(M4)のときのものを利用することが可能だ。
特に、このMagic Keyboardを装着したときのiPad Proと、9月に配信が始まったiPadOS 26の相性がいい。iPadOS 26では、これまでのウィンドウシステムを大幅に刷新しており、まるでMacのように、ウィンドウを自由にサイズ変更することが可能になった。これまでのステージマネージャにあった制限は、撤廃されている。
複数のウィンドウを自由にサイズ変更できるようになった。モード切り替えは、コントロールセンターから行える
さらに、そのウィンドウを自由に配置することもできる。PCのように、ファイルやフォルダを配置できるデスクトップがなかったり、入れられるアプリケーションに制限があったりといった違いはあるため、iPadならではの作法に則って使う必要はあるものの、よりPCライクな作業がしやすくなっている。ウィンドウを閉じたり、最大化したりするボタンが表示されるのも、Mac風だ。
M4を搭載したiPad Proでも特段、操作に引っかかりはなく、レスポンスは非常に高かったが、iPad Pro(M5)にもそんな使い勝手のよさは継承されている。Macbook Proに搭載されているのと同じチップセットなので当然と言えば当然だが、4つ、5つのアプリを同時に開いて次々と切り替えながら使っていくような操作でも一切問題はない。
ただし、ウィンドウをたくさん開くには、11インチのディスプレイは少々小さすぎるきらいもある。現行モデルのMacの場合、最小サイズは13インチ。過去には11インチのMacbook Airもあったが、複数のウィンドウを同時に開くのであれば、やはり画面サイズは大きい方がいい。サイズや重量などの持ち運びやすさは低下してしまうものの、このOSをフルに使いこなすのであれば、13インチモデルの方がいいと感じる。
大きく向上した処理能力、ベンチマークでその性能を測る
とは言え、ここまでのことは、iPad Pro(M4)でも十分こなせる。iPadOS 26は意外と適用範囲が広く、iPhone用のチップセットである「A16 Pro」を搭載したiPad miniや、さらにそれ以前の「A12 Bionic」を搭載した第8世代iPadでも動作する。特にデザインが同じiPad Pro(M4)との唯一の違いは、チップセットの処理能力や、メモリの帯域幅など、一見しただけでは分からないところにある。
では、実際の違いはどこまであるのか。まずはベンチマークアプリでスコアを測定してみた。最初に測ったのは、CPU性能。これには、『Geekbench 6』を使用した。CPUのスコアは、シングルコアが4182、マルチコアが1万6821と出た。マルチコアで1万5000点を超えているのは、かなりの数値だ。
例えば、現行モデルで最高峰の処理能力でPCに迫るとまでと言われているiPhone 17 Proでも、マルチコアのスコアは1万点を超えない。やはり、処理能力の高さではMacやiPadに採用されているMシリーズに軍配が上がることが分かる。次に、1世代前にあたるiPad Pro(M4)でも、同じようにGeekbenchのスコアを計測してみた。
こちらは、CPUのシングルコアが3727、マルチコアが1万3795だった。これでも最新モデルのiPhoneよりは十分高い数値だが、処理能力はiPad Pro(M5)が確実に向上している形だ。また、GPUでも違いが大きい。GPUの性能を示すMetal Scoreは、iPad Pro(M4)が5万5726なのに対し、iPad Pro(M5)は7万4219に達している。わずか1年半で、3割以上も性能が上がっているというわけだ。
CPU、GPU、メモリの速度などを元に総合点を算出するAnTuTu Benchmarkでも、性能の向上を確認できた。こちらは、iPad Pro(M5)が327万6043点を記録。CPU、GPUともに100万点を超えており、総合力の高さを見せつけた。対するiPad Pro(M4)は、290万9432点。CPU、GPUは高い数値だったものの、メモリやUXという項目が足を引っ張った。AnTuTu Benchmarkでは、12GBに増加したメモリや帯域幅の拡大がスコア上昇に寄与したことが分かる。
画像生成では時間を大きく短縮、テキスト系のAIだと違いは少ない
ただし、ベンチマークはあくまで性能を数値化したものでしかなく、実際のユーザーの体感が直感的に示せているかというと、必ずしもそうではない。では、iPad Pro(M4)からiPad Pro(M5)になって、何が大きく変わったのか。分かりやすいのは、AIの処理だ。内蔵されているApple Intelligenceでも、その違いが出る。
例えば、イラストを生成するImage Playground。アプリから提案されたキーワードを5つ同時に選び、イラストの生成を始めると、iPad Pro(M5)は数秒で処理が終わり、イラストが4点出来上がった。同じタイミングで生成を始めたiPad Pro(M4)は、まだ2つ目のイラストに取り掛かっているところ。スピードが大きく向上しており、ストレスなく利用できる。
逆に、ライティングツールを使ったテキストの要約や要点の書き出しを比較したところ、ほぼ時間は変わらなかった。当然、処理能力が上がったからと言って、精度が上がっているわけでもない。文章を読み込ませての要約は、比較的AIにとって軽い処理のため、iPad Pro(M4)でも十分なスピードだったのかもしれない。
また、画像処理の分野でも、写真に写り込んだ人を削除する「クリーンナップ」も、速度はほぼ同じ。消したあとに生成されるイメージも同じで、精度が向上したというわけではなかった。どちらかと言えば、より重めの処理をする際に違いが出るようだ。
その意味では、Apple Intelligenceよりもサードパーティのアプリの方が差が出やすい。例えば、ローカルでAIモデルを実行してイラストを生成できる「Draw Things」というアプリを使い、「Stable Diffusion v2.1」を使ってゲーム風の画像を生成してみたところ、iPad Pro(M5)は20秒程度で1枚が完成したのに対し、iPad Pro(M4)は30秒程度の時間がかかっていた。枚数が多くなればなるほど、積み重ねた時間の差が大きくなる。
とは言え、ローカルで生成AIを動かし、さらに画像を作るという人がどこまでいるかというと、少数派と言えるだろう。クラウド側で処理するAIの場合、チップセットの性能差による影響は出ない。普段使うアプリにAIが組み込まれてこそ、初めてその性能を発揮するようになると言えそうだ。その意味では、24年モデルのiPad Pro(M4)から買い替えなければいけないほどの違いはない。
一方で、それ以前のiPad ProやiPad Airを使っている場合には、有機ELを採用したディスプレイの美しさや、薄さなどの恩恵が大きくなる。Apple Pencil Proに対応したのも、M4のiPad Proから。フィードバックがあるため、ツールの切り替えなどがしやすくなっている。今、最高のiPadを購入したいと考えている人には、ベストな選択肢と言えるだろう。
文/石野純也
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