フルモデルチェンジした、ダイハツの軽自動車「ムーヴ」に一般道と高速道路で試乗した。車種は4グレードの下から二つ目の「X」グレード。前輪駆動で、CVT型のオートマチックトランスミッション。
価格は149万500円(消費税込)。今回のフルモデルチェンジの目玉は、後席ドアのスライドドアだ。
スライドドアはミニバンで多用されていて、狭い場所でも乗り降りしやすくなるメリットがある。反面、ドアとレールの厚みがある分、後席の位置が高く、奥になってしまう。乗員は大股で登り上がったり、踏み出さなければならないデメリットも発生する。
機械として優れているか?★★★☆ 3.5(★5つが満点)
しかし、新型「ムーヴ」では、ミニバンのように高い位置のシートに登り上がることもなく、開けたドアが邪魔にならずに済む。そのため、とてもラクに乗り降りできる。ムーヴは、「スーパーハイト」とカテゴライズされる軽ワゴンではない。それよりも屋根の低い「ハイト」ワゴンと呼んでいるが、スライドドア化は「ムーヴ」ではメリットが大きく、目論見は成功している。
しかし、それも万全ではなく、ドアハンドルが横向きで使いにくい。前席と同じ横向きに揃えて造形的な整合性を取ったつもりなのだろうが、軽自動車は実用性と使いやすさを最優先すべきだ。さらに発展させるならば、観音開きドアも検討してはどうだろうか?
スライドドアのもうひとつのデメリットである重量増も回避することができ、シンプルに造ることができて、大きく開いて乗り込みやすくなることは変わらないからだ。ドライビングポジションは立ち過ぎず、寝過ぎず、運転しやすい姿勢だ。
しかし、シートの造りが平板すぎて柔らかく、東京から首都高速を走って横浜に行ったぐらいの移動でも上半身を確実に支えられなかった。帰路では、腿の裏側が痛み出す始末。走り始めの第一印象として、エンジン回転数だけが上がってスピードが伴わないCVT特有の癖は最小限に抑えられているところに好感を抱いた。
一般道での加速は標準的なものだった。首都高速ではノンターボエンジンなので非力なことは否めないが、困ることもなかった。大きく場所を取って、踏み込み作業を必要とする足踏み式パーキングブレーキは前時代的で、他のグレードでは電動式が用いられている。リアシートを一番後ろまで下げれば、後席は大人2人に十分な広さが出現する。助手席よりも後席のほうが快適かもしれない。
商品として魅力的か?★★★3.0(★5つが満点)
スマートフォンをBluetoothで接続できて、CarPlayとAndroidAutoを使えるのも大きな長所だ。音声入力は決められたコマンド通りに発語する必要があるが、精度は高かった。
道路の制限速度が変わるたびに、センターモニター画面に数秒間映し出されるのは「ムーヴ」で初めて体験したが良い機能だ。他のクルマでは画面の片隅にずっと映し出される方式が多いので、注意喚起に関してはこちらの方が優れている。
今回、試乗した「X」グレードではオプションでも運転支援機能を装備できないので、注文の前に良く検討しておく必要がある。ムーヴの運転支援機能は、ひとつ上の「G」グレードでオプション装備可能で、最上級の「RS」でないと標準装備されない。その内容はACC(アダプティブクルーズコントロール)と、LKC(ダイハツではレーンキープコントロールと呼んでいる。
シートや肘掛け、ドアハンドルの一部などの柄が昭和のソファにありそうな織物みたいで、センスが古臭い。また、細かなことだがドアポケットのドリンクホルダーも低い位置で使いにくい。アームレストの蓋は要らないので、そこにドリンクホルダーを設置してはどうだろうか。
ターボエンジン搭載の「RS」にも試乗した。ターボ過給によってパワーアップ分は認められたが、ただ商品企画の差別化のためなのかサスペンションを固め過ぎていた。スサスペンショントロークが短いのに固めているから、駐車場を出る小さな段差でもガタッビシッと過大なショックがそのまま伝わってきて不快だった。
運転していると、軽自動車規格(だけではないが)は抜本的な見直しの時期が近いのではないかと考えさせられた。売らんがため、マーケティングのためでなく、ユーザーの使いやすさのために、商品企画と構成を見直す必要がある。
グレード別に機能や装備があらかじめ定められてしまうのではなく、ユーザーの判断で取捨選択できるようにするべきだ。ヨーロッパ市場のフォルクスワーゲンは実現しているのだから、不可能なはずはない。具体的には、Xグレードに運転支援機能と電動式パーキングブレーキを装着したい。グレードで縛って不要な装備や機能などを抱き合わせで売り付けるのではなく、ファミレスやカフェなどのタブレット注文のように、ユーザーが必要と思えるものだけ装備して購入できるようにするべきだ。
「ムーヴ」の今回のモデルチェンジでのスライドドア化は成功している。地味でセンスが古くさいところもあるが、実用面に限れば、現状の軽自動車規格の中では健闘していると言えるだろう。
■関連情報
https://www.daihatsu.co.jp/lineup/move/
文/金子浩久(モータージャーナリスト)
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