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「中国人はカメラを気にしない」竹内亮監督が語る〝リアルすぎる〟中国ドキュメンタリー映画祭の魅力

2025.11.07

中国は、巨大な経済規模と市場があり世界第2位のGDPを誇る“隣の”国だ。日本への移住者や旅行客も多いが、異なる価値観や生活習慣があり「近くて遠い」と感じる人も少なくない。中国に住み、多くのドキュメンタリー作品を制作し、SNS総フォロワー1000万人以上の竹内亮監督は、「歴史的背景を知ることも大切だ」と言う。その最新作は中国残留孤児を扱った『名無しの子』。本作は11月7日から角川シネマ有楽町で開催される「2025 中国ドキュメンタリー映画祭 In Japan」で上映される。ここでは中国のリアルと、最新作についてお話を伺った。

ドキュメンタリー監督
竹内 亮(たけうち・りょう)さん
1978年生まれ。テレビ東京系『ガイアの夜明け』ほか多くの映像制作に携わった後、2023年中国に移住。映像制作会社「和之夢文化伝播有限公司」を設立し、現地の“リアル”な情報を発信。Newsweek「世界が尊敬する日本人100」にも選出される。代表作に『ファーウェイ100面相』、『再会長江』他多数。著書に『架僑 中国を第二の故郷にした日本人』(角川書店)ほか。

中国のビジネスパーソンは「世界一」を目指す

――竹内亮監督は、日本の映像会社で経済関連の番組を制作したキャリアを持ち、ファーウェイやアリババほか巨大中国企業で働く人はもちろん、経営者にもカメラを向けています。イベント取材の動画も制作しており、中国のビジネスの“中の人”にも精通しています。今のトレンドについて教えてください。

現在、注目されているのは、AIとEV(Electric Vehicle)自動車です。吉利汽車(Geely)と自動運転EVを開発するアリババグループが知られていますが、そのほかファーウェイやシャオミーなど自動車を製造していなかった企業も参入し、新興企業が続々と設立されているような状況です。

この背景には、中国のビジネスパーソンが“世界一”を競う気質が強いことがあると思います。

現在、中国ではEVメーカーが毎月のように新作発表会を行っているのですが、そこには“世界初・世界一”の要素が10以上も並びます。その熱意とそのスピードはまさに世界最速だと感じるのです。

――一方、日本で社会に停滞感が漂っています。勢いのある中国との間に溝を感じている人も少なくありません。
僕は日本で生まれ育った日本人で、日本を誇りに思い、愛しています。そこで感じるのは、日中両国を比べるのは無意味だと言うこと。

日本のビジネスの優位性の一つに、100年以上継続している企業が多いことが挙げられます。2024年9月時点で、業歴100年以上を有する老舗企業が約4万社(帝国データバンク調べ)もあるんですよ。これは中国では考えられないことです。

化学、医療、資材など多くのジャンルで、長期の検証や蓄積が必要です。日本企業は一つのことを極めることが得意だと感じており、そのプロダクトの多くはBtoBのマーケットにおいて、中国はもちろん、世界的に評価されています。それを多くの人が知ったら、考え方も変わると思うのです。

日本のメディアから取材を受けると、多くの日本人がビジネス相手として、中国の経済や先進的な技術への関心を持っていることがわかります。でも私は、それだけではない素顔の人々の生活や文化についてもっと知ってほしい。

日本の報道をチェックしても、中国の政治経済や、文化の違いなど、表面的な部分ばかりだと感じています。だから、多くの人が、中国が国民を統制し、自由を奪う怖い国と誤解するようになるとも思うのです。

今回の「2025 中国ドキュメンタリー映画祭 In Japan」(以下・映画祭)に出展する作品は、“今の中国”に生きる庶民の姿を生き生きと描いている作品ばかり。素顔の中国を知ってほしいと思っています。

年収1000万円超えの中国エリート女性の婚活事情

――映画祭の出展作品をみると、70代の男性が路上で営む屋台の撤去を巡った人間ドラマ『武漢の嵐』、世界最高峰のアクションに命がけで挑み続けた人々を描く『カンフースタントマン』、貧しい少年が野球で世界を目指す成長譚『出稼ぎ野球少年』など、熱意や愛を凝縮したような作品が多いです。

どれも、今の中国の庶民の様子を描いた、良作ばかりです。その中には今の日本人が共感しにくい内容も多く、感情も思考も揺さぶられると思います。それでいて似て非なる部分もあるのです。

『武漢の嵐』 監督:陳為軍(チェン・ウェイジュン)
『カンフースタントマン』 監督:魏君子(ウェイ・ジュンツー)
『出稼ぎ野球少年』 監督:許慧晶(シュ・フイジン)

――また、日中が同じように悩んでいることがわかる作品が、『北京女子婚活戦争』ではないでしょうか。日本人も婚活に苦労している人が多く興味を覚える人も多いと思います。

そうかもしれません。でも多分、多くの日本の女性は共感しないと思いますよ(笑)。この作品で描いているのは、中国の婚活で苦労する、高学歴・高収入・高年齢の“三高”女性たちです。

例えば、外資系企業の部長で年収1500万円の李さん(32 歳)は、職場では評価されるのに、婚活市場では敬遠されるという憤りを抱え、IT企業経営者で年収1 億円の王さん(35歳)は、男性は私の成功を恐れると嘆いています。幸せにも結婚にも正解はありません。だからこそ、この作品から多くのヒントが得られると思いますよ。

『北京女子婚活戦争』 監督:董雪瑩(ドン・シュエイン)

冒頭で、AIやEVについてお話ししましたが、今、中国社会全体は安定期に入っています。猛烈な成長志向が終わり、人々は日々の幸せを追求するようになっている。結婚に限らず、価値観の合う人と付き合い、穏やかに暮らすことを求める人がじわじわと増加中。つまり、これはかつて日本が辿った道でもあるのです。その様子も伝わると思います。

そうそう、中国のドキュメンタリー作品を観る前に知っていただきたいのは、多くの中国人はありのままの姿でカメラの前に立っていると言うこと。

世界各地で取材してきましたが、中国人はカメラに対して構えない傾向があります。これは国民性だと思うのですが、「撮影? まあどうでもいいよ」と考え、カメラの存在を気にしない人が多いのです。ですから、映画祭の出展作品から、“リアルすぎる中国”を感じられるはずですよ。

――竹内さんの出展作品『名無しの子』にも、カメラが回っているのに、男性がTシャツを胸まで捲り上げ、周囲の人が「お父さん、ちょっと服を脱がないで」とたしなめる、微笑ましいシーンがありました。

そうでしたね(笑)。あの自由さとおおらかさがあったから、戦前にあれだけ酷いことをした日本人の子供を自分の子供として育てられたのだと思います。

『名無しの子』は中国残留孤児を扱った作品です。戦前、国策により約150 万人の日本人庶民が中国・旧満州(中国東北地方)に移住し生活していました。しかし、1945 年、第二次世界大戦の終戦で、ソビエト社会主義共和国連邦軍(現ロシア)が進撃。

日本は政府関係者や軍人はいち早く帰国しましたが、庶民は移動手段さえありませんでした。ソ連軍を前に、武器も持たぬまま走って逃げるしかなかった。その行程で、高齢者や女性たちが命を落とし、何万人もの幼い子供達が現地に置き去りにされました。

『名無しの子』  監督:竹内亮

当時の中国東北地方の人たちは、そんな孤児たちを自宅に招き入れ、貧しい暮らしにもかかわらず自分の子供のように育てます。実の親は日本人、育ての親は中国人という人々は、中国残留孤児です。かつては広く報道され、歴史の教科書にも掲載されていました。

しかし、戦後80年になり、多くの人がこの問題を忘れています。作品の制作の前に、義務教育である中学校の日本史の教科書を20冊近く調べましたが、「中国残留孤児」の扱いがあるのは私が確認したところ2冊のみでした。また、複数の日本の若者たちにインタビューしたのですが、誰も中国残留孤児を知らなかった。

今、このタイミングで多くの人にできるだけ中立的な視点で知ってほしいと思い、この作品を撮ったのです。明治時代から終戦にかけての、軍国主義時代の記憶が風化する今、私は2年近くかけて、当時、日々を懸命に生きた庶民の記憶を辿っていったのです。

竹内さんは「中立的でなければ意味がない」と考え、中国人プロデューサー、ディレクターと共に、作品を作り上げていきました。その様子は、後編で紹介します。

2025 中国ドキュメンタリー映画祭 In Japan

アジア初の中国ドキュメンタリー映画祭。中国で多数の映画賞を受賞した選りすぐりのドキュメンタリー作品5本を上映する。映画祭アンバサダーはタレントのMEGUMIさん。「中国人が撮った等身大の中国」を、スクリーンで体感しよう。
期間:2025年11月7日~11月20日
会場:角川シネマ有楽町
主催:株式会社ワノユメ
協力:中国ドキュメンタリー番組網
配給:ワノユメ
(C)2025『中国ドキュメンタリー映画祭In Japan』組織委員会
https://www.wanoyume.com/jp/china-documentaryfilm-festival

取材・文/前川亜紀

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