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牛肉の国オーストラリアで牛丼から「丼」文化が浸透している理由

2025.11.09

かつて日本の輸出品といえば自動車やAV機器などの「工業製品」ばかり。だが現在ではラーメンなどの「食べもの」やアニメなどの「ポップカルチャー」も海外で人気を博している。

では世界各国では実際にどんな日本文化がトレンドとなっているのか。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターたちの集まり「海外書き人クラブ」が、居住国や旅先で出会った「日本文化」を紹介する。

日本の常識からするとかなり大胆なオーストラリアの「天丼」も

「オージービーフの国」の人が絶賛した日本の丼

以前、当時20代のオーストラリア人男性の友人を日本に連れて行ったときのこと。奮発してそれなりに高級な寿司店や懐石料理など「日本食の極み」をごちそうしてまわった。

そんな旅の途中、「今まで食べ中で何がいちばんおいしかった?」と聞くと、返ってきた答えは「そりゃあもちろんビーフボウルだよ。あんなにうまいビーフは食べたことがない! 今晩もできればビーフボールが食べたいんだけど」

ビーフボウル? 牛肉の球? ああ、肉団子! いや、それを食べさせた記憶はない。

「ほらっ、ボウルの下のほうにライスが入っていて、その上にすき焼きっぽい味付けをした薄い牛肉が乗っているやつ。好みで赤いショウガのピクルスをトッピングする」

もうおわかりいただけただろうか。「ビーフボウル」の「ビーフ」は当然「牛肉」だが、「ボウル」は「球」のほうではなく「深い皿」または「丼」。つまり「牛丼」である。

ある日、時間がなくてサッとランチに入った吉野家の「牛丼」が彼の日本でのお気に入りとなったのだ。事実、彼は日本滞在中、私と別行動のときは「いつもビーフボウルを食べてたよ」とのことだ。

オージービーフの母国オーストラリアで生まれ育ち、ステーキなどを食べまくって来た男から「牛丼こそ最高の牛肉料理」とお墨付きをもらえたのは、日本人として誇らしい。その一方で「高級すし店や懐石料理店など、今までの奮発はなんだったのか」と多少複雑な気持ちになったのもまた事実だ。

こちらはオーストラリアの牛丼

「コスパの良さ」で人気の日本の丼

現在そんな「牛丼」もファンもオーストラリアには多いが、一番好かれている丼物を挙げるとするとやはり以前紹介した「カツカレー丼」になる(https://dime.jp/genre/2032581/)。

カツカレー丼の辛さ調節は七味唐辛子をかけるのが一般的

そして「牛丼」や「カツカレー丼」も含めた様々な日本の丼物を提供する店が、今オーストラリアのフードコートなどで大人気だ。しかも「牛丼」「カツカレー丼」「カツ丼」「天丼」といった日本でも定番の丼物以外に、「照り焼きチキン丼」や「スパイシーチキン丼」「チキン南蛮丼」など種類も豊富だ。

じつは「チキン南蛮丼」も牛丼を超える根強い人気

こうした丼物が人気である理由の一つは価格の手頃さ。そこらの「普通の食堂」的な店に入ってランチを食べれば日本円にして2000円は下らないのに対して、これらの丼物の中サイズなら約1200円。世界の物価を図る数字として「ビッグマック指数」があるが、オーストラリアのビッグマックセットである13豪ドル25セント(約1290円。街中の普通の店の値段。空港の店舗などはもっと高くなる)よりも安いくらいなのだ。

また調理が簡単でバイトの調理師がつくっても味がほぼ一定なのも、人気の理由の一つだろう。

例外はカツ丼。ふわふわ卵でとじられていることもあれば、「オムレツか!」とツッコミを入れたくなるほど硬めのときも

どれも味が異なる「バリエーションの豊富さ」も

もう1つの人気の理由。それは「味のバリエーションの豊かさ」だ。

あるショッピングセンターの洋服店で勤務する30代の男性は「勤務日はほぼ毎日、つまり週5回、ほぼ同じジャパニーズフードの店で丼物を食べているね」と豪語する。「同じ店でばかり食べて飽きないの?」と尋ねるとこんな答えが返ってきた。

「飽きる? そんなはずないじゃん。だってそれぞれ味が違うからね。月曜日はポークカツカレー、火曜日は照り焼きチキン丼、水曜日はビーフ焼肉丼、木曜日はポークカツ丼、金曜日はエビ天丼という感じで、毎日まったく違うものが味わえるじゃないか」。確かにカレーソース、てりやきソース、焼肉のタレ、卵とじ、天つゆと味わいも口あたりもすべて異なる! 言われてみれば当たり前の話だが、オーストラリア人に指摘されるまで筆者は気づかなかった。ある意味「灯台下暗し」である。

こちらは「天とじ丼」。そういえば刻みのりも多用される傾向にある

一方、丼店の競合であるハンバーガー店やフライドチキン店でも、ハンバーガーに加えられていたりチキンナゲットをディップしたりするソースはそれぞれ3種類くらい用意されている。しかしだからと言って週5回同じ店に通い詰めて「私は毎日まったく違うものを食べている」と豪語できる人はそうは多くないだろう。

一方でカツカレー丼、照り焼きチキン丼、焼肉丼、カツ丼、天丼であれば誰もが胸を張って「毎日違うバラエティー豊かなランチを食べている」と言えるはずだ。

ちなみに「カツカレー丼」の記事でも書いたが、カツ丼でもトンカツ、チキンカツ以外にトーフ、つまり厚揚げが選べる。ただしベジタリアンであるといったやんごとなき事情がある場合以外は、個人的にはお勧めはしない。

「進化系」の丼も登場!

このように丼物が人気なのを見て、日本人以外のアジア系の人たちもこの分野に進出してきた。オーストラリア人にしてみたら日本人も韓国人も中国人も見た目ではほぼ区別がつかないし、まあ日本でも日本人がイタリア料理店やフランス料理店、中華料理店などで腕をふるっていることがあるので文句はまったくない。

だがときには「これはちょっと違うだろう~」と指摘したくなるような一品に出会うこともある。

オーストラリア国内の某所で出会ったのがちょっと不思議な「チキンカツ丼」

まず卵でとじられておらず、かわりにてりやきソースとマヨネーズがたっぷりかかっている。ただまあ日本にも「味噌カツ丼」という卵とじではないカツ丼があるので、これはいいとしよう。

気になるのは福神漬け。いやいや、それはほぼほぼカレーライス御用達だ。そして茹でコーン。でもまあ「コーンマヨ軍艦」というのが回転寿司にはあるしなあ。

ただどう見ても異彩を放っていたのが写真右側の紫のもの。紫キャベツのピクルスだ。

どう考えても通常の「チキンカツ丼」とはかけ離れた一品。だが食べてみると、特に紫キャベツのピクルスはあっさりしていて、てりやきソースとマヨネーズでこってり仕上げられたチカンカツと絶妙なバランスなのだ。たとえて言うなら牛丼の牛肉と紅ショウガのような関係だ。

「これは本物とは違うニセモノ」と言ってしまうのは簡単だ。だが私はあえて「進化」と呼びたい。もちろん変な方向への「進化」もときにはあるだろうが、それはいつしか淘汰される。そして本当においしければ生き残る。

日本人だって「ナポリタン」や「明太子のスパゲティー」や「しょうゆ味の和風パスタ」など、イタリア人から見たら奇怪と感じられる味わいのものを次々と生み出してきたではないか。

そんな「進化系」も含めて、「丼物」は今後も世界中にドンドン進出してもらいたいものだ。

文/柳沢有紀夫
世界約115ヵ国350名の会員を擁する現地在住日本人ライター集団「海外書き人クラブ」の創設者兼お世話係。『値段から世界が見える』(朝日新書)などのお堅い本から、『日本語でどづぞ』(中経の文庫)などのお笑いまで著書多数。オーストラリア在住

写真/Taiga オーストラリアを拠点に活動するIT系なんでも屋。時計と旅と猫が好き。世界115ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。

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世界約115ヵ国350名の会員を擁する現地在住日本人ライター集団「海外書き人クラブ」の創設者兼お世話係。『値段から世界が見える』(朝日新書)などのお堅い本から、『日本語でどづぞ』(中経の文庫)などのお笑いまで著書多数。オーストラリア在住

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