なぜ東証ではなく米国を選んだのか
2025年10月14日のロイター報道では、PayPayが“同年12月にも米国で新規株式公開(IPO)する見通しとなり、時価総額が3兆円を超えるとの試算も出ている”と報じられており、上場準備が進んでいる様子がうかがえる。
なぜ日本の東証ではなく、あえて米国市場を選んだのか。その背景には、「成長ストーリー」を評価する土壌の違いがありそうだ。
1.「赤字上場」が珍しくない米国市場
フロリダ大学の経済学者ジェイ・R・リッター氏の調査によると、過去5年で、米国でIPOした企業の7割以上が赤字企業であった。(出典:https://site.warrington.ufl.edu/ritter/files/IPOs-Tech.pdf /Initial Public Offerings: Technology Stock IPOsの15ページの数値)1980年から2024年までの総計だと赤字企業は42%だが、ちょうど社会のデジタル化が話題となり始めた時期の2013年以降から70%付近の傾向が続いている。今後の社会のデジタル化が続くと考えれば、この傾向も続くと考えられる。
事実、UberやAirbnbといった世界的な企業も、上場時点では巨額の赤字を抱えていた。米国市場では、現在の利益よりも将来キャッシュフローを生み出す能力を重視する投資家の分析評価スタイルが定着していることの表れであろう。
巨額の先行投資でまずシェアを奪い、後から収益化するPayPayの戦略は、米国の投資家にとって馴染み深い「成功パターン」の一つであり、評価されやすい側面があるともいえる
2.プラットフォーマーへの絶大な評価:
PayPayは、日本の「決済プラットフォーム」を制した企業である。そして米国市場は、こうしたプラットフォーム企業に対し、歴史的に極めて高い評価を与えてきた。
実際にGAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)5社の合計時価総額は10兆ドル(約1500兆円)を超え、日本の東証プライム市場全体の時価総額(約900兆円)を上回るほどの規模に達している。
このデータは、米国市場がいかに「圧倒的なシェアを握ったプラットフォーム企業」に絶大な価値を見出してきたかを物語っている。安定配当を好む傾向が比較的強い日本の投資家に対し、米国の投資家は「未来のキャピタルゲイン(売却益)」を求めて巨額のリスクマネーを投じる。
この点をもってしても、PayPayの成長ストーリーが最も高く評価される市場は、明らかに米国なのである。
米国上場でPayPayは何を目指している?
アジア展開の第一歩としての韓国進出
米国上場が、PayPayでの「資金調達」と「企業価値の最大化」を狙う一手だとすれば、その資金で何を目指すのか。
その答えは「スーパーアプリ化」の拡充であり、具体的な動きとして「海外展開」と「暗号資産への進出」が挙げられる。
韓国でのサービス開始の核心は「クロスボーダー決済」にある。現地の主要な決済ネットワークと提携し、日本のPayPayユーザーが韓国の加盟店でそのままQRコード決済を使えるようにする仕組みだ。
これはまず海外旅行者の利便性を高める一手であり、将来的にはアジア全域へと決済ネットワークを拡大していく構想の足掛かりとなるだろう。







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