最近、退職代行業者が警察の家宅捜索を受けたという事案が報道されました。その内容は、顧客を弁護士に紹介し、その対価として弁護士から報酬を受け取っていた疑いがあるというものです。
退職代行サービスについては、弁護士法で禁止されている「非弁行為」や「非弁提携」との関係で、これまでも問題が指摘されていました。どのようなルールが問題となっているのか、弁護士法の規定に基づいて解説します。
※本記事は、特定の事案に関する意見や判断を述べるものではありません。あくまでも、退職代行サービスと弁護士法の関係について一般的に解説するものです。
1. 弁護士法で禁止されている「非弁行為」
弁護士は法律の専門家で、依頼を受けて法律事務を取り扱います。弁護士による対応は、依頼者の権利や利益に大きな影響を及ぼすため、弁護士法によって厳格な規制が設けられています。
弁護士法によって禁止されている行為の代表例が「非弁行為」です。特に退職代行サービスについては、非弁行為との関係でしばしば違法性の問題が指摘されています。
1-1. 非弁行為とは
「非弁行為」とは、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟などの法律事件に関して法律事務を業として取り扱うことをいいます。
簡単に言えば「弁護士資格がないのに、報酬をもらってトラブルの解決を請け負うこと」です。
法的な手段を用いてトラブルを解決するためには、法律に関する十分な知識が欠かせません。法律をきちんと学んでいない人が依頼を受けてトラブルを解決しようとすると、依頼者が不利益を被ってしまいます。
このような事態を避けるため、弁護士法72条では非弁行為を禁止しています。非弁行為をした者は刑事罰の対象となり、「2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」に処されます(同法77条3号)。
1-2. トラブルに困っている依頼者の「周旋」も、有償なら非弁行為
報酬を得る目的で、トラブルを抱えている人を弁護士などに業として周旋(=紹介)することも、非弁行為に当たります(弁護士法72条)。
無償で弁護士に依頼者を紹介することは構いませんが、紹介の対価として弁護士からお金をもらったら非弁行為となります。
2. 退職代行サービスについて問題になりがちな非弁行為
退職代行業者は、退職したい人と勤務先の間に入り、退職に関するやり取りを行います。
その際に退職代行業者ができるのは、いわば「伝言係」としての役割のみです。つまり、退職したいという依頼者の意思を勤務先に伝えることや、勤務先から言われたことを依頼者にそのまま伝えることのみが認められます。
もし依頼者と勤務先の間でトラブルが発生した場合、退職代行業者がその解決を仲介しようとするのは非弁行為です。典型的には、退職代行業者が未払い残業代を請求したり、未消化の有給休暇の取り扱いについて交渉したりすることが非弁行為に当たります。
退職代行業者は、自らトラブルの解決を取り扱うことができないので、弁護士と提携しているケースが多いです。もしトラブルが発生したら、退職代行業者は依頼者に弁護士を紹介します。
このとき、退職代行業者は弁護士から、紹介の対価を受け取ってはなりません。対価を受け取った場合は有償での周旋行為に当たり、非弁行為となります。
3. 弁護士も「非弁提携」によって責任を問われる
弁護士が非弁行為をしている者から事件の周旋(紹介)を受け、または自己の名義を利用させることは「非弁提携」と呼ばれる違法行為です(弁護士法27条)。
非弁提携をした弁護士は「2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」に処されます(同法77条1号)。
たとえば、弁護士が退職代行業者から依頼者の紹介を受け、その対価として退職代行業者に報酬を支払うケースが考えられます。
この場合、退職代行業者は非弁行為、弁護士は非弁提携の責任を問われます。
そのほか、未払い残業代請求を行う際、弁護士が名前だけを貸して、実際には退職代行業者が交渉を担当するケースなども考えられます。
この場合も、退職代行業者は非弁行為、弁護士は非弁提携によって処罰されます。
4. 退職代行サービスの今後の見通し
退職の意思を伝える場面では、勤務先から引き止めを受けたり、退職の条件について揉めたりするケースが少なくありません。
つまり、退職代行サービスは「トラブルのリスクがある状況を取り扱う」ものであるため、必然的に非弁行為と隣り合わせという側面があります。
大手の退職代行業者に捜査が及んだことは、警察や検察が非弁行為の摘発に本腰を入れ始めたことの表れと言えるでしょう。
退職代行業者にはコンプライアンス強化の取り組みが求められるとともに、不適切な営業をしている退職代行業者は淘汰される流れが加速すると思われます。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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