イタリアを代表するプレミアムブランド、アルファ・ロメオの最新モデルとして注目されているコンパクトSUVの「ジュニア(Junior)」。
搭載されるパワーユニット別に見ると、ブランド初の電気自動車(BEV)の「エレットリカ(Elettrica)」と、マイルドハイブリッド車(以下、MHEV)の「イブリダ(Ibrida)」の2タイプだ。
フル電動車にするか、それとも16kWのEモーター(48 Vバッテリー)+エンジンにするか? 少々悩ましいところではあるが、ここは『エンジンの世紀』において、多く憧れを醸成してきたアルファ・ロメオらしさに期待して「イブリダ」をセレクト。早速、ステアリングを握り、『アルファ流儀』の味つけを食してみたい。
名門ブランドの想いを受け継ぐSUVモデル
初めてアルファ・ロメオというブランドを強く意識したのは、1967年に公開されたマイク・ニコルズ監督による『卒業』というアメリカ映画を知ってからだった。主人公を演じたダスティン・ホフマンの出世作であり、キャサリン・ロスのキュートさや、サイモン&ガーファンクルが手掛けた主題歌「サウンド・オブ・サイレンス」が世界的なヒットとなった青春恋愛映画であり、第40回アカデミー賞(68年)の監督賞作品だ。
この作中で、主人公の愛車として登場するのが『アルファ・ロメオ・スパイダー1600』。アルファ・ロメオの熱狂的なファンであるアルフィスタやエンスージャストには『デュエット』の愛称を添えられている存在で、エレガンスに満ちた美しきスパイダー(オープンカー)だ。
もちろんアルファ・ロメオの名はそれ以前から知ってはいたが、この映画をきっかけに刺激的でスポーティな走りと、佇まいの美しさが際立つ1台として心に在り続けてきた。
しかし現在、日本で販売されているアルファ・ロメオのラインナップには魅惑的なスパイダーもベルリネッタ(クーペ)もなく、ジュリエッタのようなスポーツハッチもない。伝統的なアルファらしさを継承している存在と言えばスポーツセダンの「ジュリア(Giulia)」ぐらいか……。
おまけに『らしさの片鱗』を感じさせてくれるこのジュリアも「そろそろモデル末期」などと噂される状況だ。そして他に用意されている3モデルを見れば、まさに時代だからだろうか、すべてSUVといった具合。本音を言えば、SUVモデルだけでイタリア屈指の名門ブランドを支えるといった現状には、一抹の寂しさを感じてしまう。
もちろん『それは懐古主義に過ぎない』と言われるかもしれない。だがメーカー自身が、広くて多目的なSUVを求める顧客のニーズに対応するために『ブランドの想いはSUV市場が引き継ぐ』といった戦略を採っている。それを考えればいつまでも感傷に浸っているわけにはいかない。なによりブランドの持続を考えれば、世界中のメーカーが行っている『SUVの積極開発』へとシフトし、進化する消費者の需要に対応することは企業として当然の方法論だろう。
では現在、ラインアップされている3つのSUVにはどんな『ブランドの継承』が潜んでいるのだろうか?
早速、詳細を見ると、Dセグメント(中大型SUV)に属し、ラインナップ中でもっとも大きく、そしてアルファ・ロメオ初のSUVとして2018年に日本に上陸した「ステルヴィオ(Stelvio)がある。そのベースはスポーツセダンのジュリアであり、走りのテイストも受け継いだことで、オンロードでの走りの切れ味の良さは『らしさ』を裏切るものではない。
つぎにマイルドハイブリッドやプラグインハイブリッド(PHEV)を揃えた電動車の「トナーレ(Tonale)」。サイズ感はCセグメント(全長約4.5m前後)属し、トナーレより一回りコンパクトな都市型SUV。アルファ・ロメオらしいスポーティなデザインと操縦性が人気となっている。最近、フェイスリフトにより鮮度を向上させている。そしてラインアップ中、もっともコンパクトなのが「ジュニア」だ。
全身に溢れるアルファ・ロメオからの伝承
1960年代にあったアルファ・ロメオの人気スポーツモデル「GT1300ジュニア」に由来する車名を与えられた最新モデルの「ジュニア」。ちなみに2024年4月のワールドプレミアでは「ミラノ」の名で披露されたが、諸事情によって数日後には現在のジュニアに変更されたという。
さて由緒正しき名を冠したニューカマーのサイズ感は、Bセグメント(全長約4.2m)に入り、アルファ・ロメオ最小のSUVとなる。パワートレインはブランド初のBEV(バッテリーEV)と、そしてマイルドハイブリッドを用意。サイズでも価格でもアルファ・ロメオのエントリーモデルでもある。ライバルを上げればプジョー2008、DS3クロスバック、ジープのBEV専用車アベンジャーなどといったステランティスグループ内のモデルを始め、アウディQ2、、ボルボのEX30、レクサスのLBXといったところ。日本だけでなく世界中で急成長する激戦区にデビューした都市型SUVだ。
その立ち位置に相応しいというか、アルファ・ロメオらしいと言うか、目の前に現れたジュニアの外観は洗練されたデザインで仕立てられ、存在感ある佇まいだ。
またSUVとしての高さがあるため、ブランドの最小モデルとは言え、それなりに押し出し感がある。さらに三眼ヘッドランプと進化したトライローブ(三つ葉)形状のフロントグリルなどで個性を主張しているため、オーラすら感じる。次ぎに目をリアエンドに向ければ、空力特性のためにリアエンドを断ち切ったようなデザイン“コーダトロンカ”を採用。
これは1960年代にアルファ ロメオが先鞭をつけたデザイン手法であり、伝統の継承を強く感じさせる部分でもある。
インテリアはアルファ・ロメオならではのドライバーを中心として設計されたコックピットを基盤に、すべてを直感的に素早く操作できるようなレイアウトだ。内外ともに『らしさ』は随所に健在だ。
そんな目と手から得た情報に満足しながら、マイルドハイブリッド・モデルの「イブリダ」をスタートさせた。1.2Lの直列3気筒DOHCターボエンジンと16kWのEモーターを内蔵した新開発デュアルクラッチトランスミッション(eDCT)、そして48Vバッテリーからなるマイルドハイブリッドは システム全体で最高出力145psを達成。
発進時や渋滞時などストップ&ゴーを繰り返すような状況ではEモーターのみでの走行も可能だ。市街地走行などでは静かに、しかしレスポンス良く軽快に走り抜けるのだ。
さらにマニュアル感覚の走りを楽しむならばパドルシフトレバーを積極的に使っても、かなりキレのある走りを楽しめるのである。そこには確実に『新しい時代の人馬一体感』と『近未来のアルファ・ロメオ』が見えていた。
実物を見るまで、そして走り出すまで危惧していたSUV化によるネガティブ要素はなく、『アルファらしさ』がしっかりと伝承されていることが理解できる。なによりモータースポーツのDNAを感じさせるフィーリングが実に心地よかった。
確かにプラットフォームは巨大なステランティスグループのコンパクトカーで用いられる「eCMP」であり、こうした共通化は効率化のために今後も進められる。
だからこそ、ブランドならではの味わいは、まず増す重要になってくる。その点、ジュニアの味わいは他のモデルとはひと味違い、当然のことであるが『全身にアルファ・ロメオが充満』していた。
【アルファロメオ ジュニア イブリダ プレミアム】
車両本体価格:4,680,000万円~(税込み)
全長×全幅×全高=4,195×1,780×1,585mm
ホイールベース:2,560mm
最小回転半径:5.3m
最低地上高:――mm
車両重量:1,330kg
駆動方式:前輪駆動
エンジン:水冷直列3気筒DOHCターボ 1,199cc
最高出力:100kW(136PS)/5,500rpm
最大トルク:230N・m/1,750rpm
モーター最高出力:16kW(21.6PS)/4,264rpm
モーター最大トルク:51N・m/750-2,499rpm
燃料消費率:23.1km/lkm(WLTCモード)
【プロフィール】
佐藤篤司(さとう・あつし)/男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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