1995年、当時小学4年生だった私がニュージーランドに移住して最初の1年は毎日のようにカルチャーショックを味わっていました。
例えば、日本で読んでいた『りぼん』や『なかよし』に出てくるような女の子のイラストを休み時間に描いていると、クラスメイトたちが訝しむ顔でこう尋ねてくるのです。
「ニキがいつも描く絵の人って、目が不自然に大きすぎだよね?鼻も鼻腔がないし、口だって小さすぎるし、なんかヘン~!」
30年の間で世界的な市民権を獲得を得た日本のANIME
日本にいた頃は普通に「かわいい絵」として褒められていたのに、国が変われば「ヘンな絵」…
日本で育った子供にとってはごく一般的なお目目キラキラの少女漫画風のイラストでも、ニュージーランドの子供達にとっては異星人の人体解剖図のように不可解なものだったようで、「この女の子はなぜウィンクしているのか」「なぜ髪の毛をピンク色に塗っているのか」などの質問攻めに、私は困惑するばかりでした。
当時はまだ日本のmangaやAnimeの「kawaii」という美的センスが海外では認知されていなかった時代。
テレビなどの旅番組で日本が紹介されると、成人男性が電車の中で平然と漫画を読んでいる姿が奇異な光景として紹介されたりして、ごくわずかにテレビ放送されていた日本のアニメ番組も明確に子供向けのものばかりでした。
あれから30年が経ち、今では日本のアニメはすっかり世界的な市民権を獲得しています。
世界市場は史上最高の3兆円に到達しており、娯楽コンテンツとしてだけでなく、あらゆる業界と融合しながら文化の一部として浸透しています。
今年、アニメ専門の米国ストリーミングサービスCrunchyrollがNational Research Groupとアメリカ、イギリス、インド、ドイツ、フランス、ブラジル、メキシコの2万9千人を対象に調査したところ、Z世代(13歳~28歳)の54%、ミレニアル世代(29~44歳)の42%、X世代(45~54歳)の24%がAnimeファンだということが判明しました。(私もあと30年遅く生まれていたらあんなに白い目で見られず、むしろクラスの人気者になれていたのかも…)
数年ほど前から前例のない勢いで拡大を続けている日本のアニメ業界ですが、世界中の映画興行収入が大打撃を受けた中で「世界で最もコロナに耐性のある娯楽」と言われたほど、時代の逆境に打ち勝つほど支持を集めてきました。
実写映画やドラマほどコロナ対策の制限なく制作できる上に、ロックダウンのストレスや感染の不安に苛まれる日々から現実逃避したい視聴者の需要に応えられるといった点で、条件がフィットしていたとも言えるでしょう。
2020年の2月からNetflixがスタジオジブリの作品の配信を世界190カ国でスタートしたのも奇遇なタイミングでした。
今年公開された映画作品では全世界興行収入が『劇場版 鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』で948億円、『チェンソーマン レゼ篇』は封切り1か月強で165億円などと、数々のAnime映画が全世界で大ヒットを成し遂げています。
1988年に公開された『AKIRA』の興行収入が10億円にも満たなかった時代とは雲泥の差!
世界のアニメ愛はただ作品を鑑賞するだけに留まりません。サブスク音楽配信サービスのSpotifyでは2021年から2024年の間にアニソンの再生が4倍近くも伸びたり、コスプレ大会やコンベンションで仲間とつながったり、アニメがきっかけで日本食(ラーメン、カレーライス、おにぎりやたこ焼きなど)を初めて食べた人が増えるなど、日本の「推し活」とは少し異なりますが、色々な形でAnimeカルチャーが楽しまれているようです。
アニメで見たあの日本食を食べてみたい!という需要が世界で急増中?
Animeが好きだと言うとナードやギーク(悪い意味でオタクな人)扱いされていた時代を知っている身からすると信じられない光景ですが、今はグッチxドラえもん、ロエベxスタジオジブリ、ドルチェ&ガッバーナx呪術廻戦などと、世界的なハイブランドが日本のアニメとコラボし、アニメ好きはもはやラグジュアリーなステータスに。
さらには、サウジアラビアでは現在、世界初の『ドラゴンボール』のテーマパークが建設中で、その敷地面積は東京ドーム10個分!アラブ首長国連邦の首都アブダビでは去年、過去最大規模のアニメフェスティバルが開催され、コスプレ大会の賞金は総額なんと2000万円相当!
オイルマネーの力もあってか、日本とは桁違いな規模でアニメ愛が産業化しています。
アメリカのスポーツ界でもAnimeコラボは勢いよく、NFLのロサンゼルス・チャージャーズがチームのスケジュール発表動画をアニメOP仕立てにした動画で話題になったり、MLBのドジャースが『ワンピース』や『鬼滅の刃』との公式コラボを企画したりと、世界に羽ばたくAnimeのパワーには目を見張るばかりです。
もう今後どんなコラボ企画を見ても驚かないぞ…と思っていたら、今度は『ワンピース』の海賊旗が世界の市民デモではためいているという、また目を見張るようなニュースが。
今年に入ってからインドネシア、ネパール、フィリピン、モロッコ、マダガスカル、アメリカのデモ行進でZ世代の市民が抵抗のシンボルとして掲げていると、各国の大手メディアが報じました。弾圧や逆境に屈せず闘う主人公らの勇姿に自分たちを重ねている若者がこれだけいるということなのでしょうか。
言葉や文化の壁を打ち破ってすっかり世界共通語になったAnimeやMangaは、おそらく今後も常識や想像を越えて広がり続けるに間違いありません。この軌跡を30年以上ひっそりと見守ってきた元アニオタとして、このカルチャーとそのファンダムが少しでも世界をいい方向に変える力になればと願っています。
文/キニマンス塚本ニキ
ラジオパーソナリティ、翻訳家。1985年、東京都生まれ。9歳まで日本で育ち、その後15年間をニュージーランドで生活。現在は英語通訳・翻訳や執筆のほか、ラジオパーソナリティ、コメンテーターとして活躍している。
帝国データバンクでは、信用調査報告書ファイル「CCR」(200万社収録)ほか外部情報をもとに、アニメ制作会社を対象とした業界調査を実施。結果を各種グラフにまとめ…







DIME MAGAZINE
















