ファントムの伝説に浸る特別なインテリア空間が明らかに
ファントムの100年にわたる物語は、同プライベート・コレクションのインテリアという多彩なキャンバス上に優雅に展開され、壮麗なアーカイブ資料を通じて語られる。中にはすぐに認識できるものもあれば、時間の経過とともに明らかになるものもある。
歴代のファントムへの敬意をこめて、ファントム・センテナリーのインテリアは、テキスタイルとレザーを組み合わせ、創業初期の名車を思い起こさせる。当時、運転席は耐久性に優れたレザーで仕上げられ、リアキャビンには豪華なファブリックが採用されていた。このコントラストは、ファントムが長らく、運転席における威厳と、乗客席の絶対的な静謐さを巧みに両立してきたことを、さりげなく示している。
ファントム・センテナリーのリアシートは、1926年の「ファントム・オブ・ラブ」にインスピレーションを得て、職人の手織りのオービュッソン・タペストリーを依頼され制作されている。座席のアートワークは、三層で物語を紡ぎ出している。第一層は高解像度プリントで描かれた背景で、ロンドンのコンドゥイット・ストリートにあったロールス・ロイスの最初の拠点からヘンリー・ロイスが油彩で描いた南仏の風景まで、ファントムの歴史を象徴する場所や思い出の品々が表現されている。第二層も高解像度プリントで構成され、歴代の偉大なファントムが緻密な筆致で描かれている。最上層となる第三層は刺繍で仕上げられ、ファントムの各世代を代表する7人の著名なオーナーを抽象的に表現している。
この精緻な生地は、あるファッション・アトリエと共同して12か月をかけて製作された。彼らがオートクチュールの世界以外での仕事を手掛けるのは今回が初めてとなる。ロールス・ロイスが求める耐久性、触感、美観に関する厳格な基準を満たすべく、ファントム・センテナリー専用に設計された特別なインクと技法を用いた高解像度プリント工程が考案され、完成した。
高解像度プリント生地は、手描き独特の質感を持つ刺繍で仕上げられている。ビスポーク・コレクティブは、これを「糸でのスケッチ」と呼び、刺繍の工程が布地上に鉛筆の線の表情を再現。各画像を輪郭づけして定義するため、職人はゴールデン・サンズの糸をスケッチ風の不規則なステッチで用い、表面上に細く浮かぶ線の錯覚を生み出す。テクスチャーと奥行きは、シーシェル糸を高密度のステッチで加えられ、全体の構成にわたるこの精緻な技法は16万本を超えるステッチとなっている。
完成したアートワークは全45枚のパネルから構成されており、ロールス・ロイスのシートのカーブに沿って丁寧に取り付けられた。この工程は、サヴィル・ロウで用いられるテーラリング技法に着想を得ている。その結果、ロールス・ロイス史上、最も精緻なシート構成が生まれた。
ロールス・ロイス・モーター・カーズ ビスポーク・カラー&マテリアル・デザイナーのセリーナ・メッタン氏は、次のように述べている。
「手織りのタペストリーを現代的に再解釈するという発想のもとにデザインされたこのリアシートは、繊細に選び抜かれたディテールを通じて、ファントムの物語をテキスタイルと刺繍で語りかけます。刺繍のすべての要素は、職人たちが一筆ごとに最適なステッチの方法を選びながら、デジタル上で1から描き直しました。例えば、馬のモチーフでは、毛並みの質感を再現するために間隔をあけたステッチを用い、その後、筋肉の輪郭を際立たせるために密な刺繍を施しています。こうしたディテールには、極めて高い精度が求められ、あるモチーフは満足のいく仕上がりになるまでに24回もの試作を重ねました。これは、ファントムの名にふさわしい敬意を表す作品を創り上げるという私たちの深い誇りと、その遺産を未来へと受け継ぐ責任を共有していることの表れです」
一方フロントシートのレザーには、ビスポーク・デザイナーによる手描きのスケッチをもとに、製図職人の技を想起させるレーザーエッチングが施されている。そのモチーフには、ファントムの100年にわたる比類なき伝統を優雅に物語る象徴的なディテールが含まれており、ロジャー・ラビットを示すウサギのデザイン(2003年のロールス・ロイス再始動時のコードネームに由来)や、1923年のファントムIプロトタイプのコードネームであるカモメなどの要素が配されている。
100年にわたる栄光の物語
ファントム・センテナリーの中心を飾るのは、アンソロジー・ギャラリー。50枚の3Dプリントを施した縦方向にブラッシュ仕上げのアルミニウム製のフィンが、まるで本のページのように編み込まれたドラマチックな構成となっている。各フィンには彫刻文字が両面から読めるように配置され、一世紀にわたる報道機関からの賛辞の引用が刻まれている。
この彫刻は、花火が散る瞬間のきらめきを思わせる移り変わる照明で繊細に照らされている。各フィンのブラッシュ仕上げの縁は、見る人の視点の移ろいに合わせて表情を変え、反射のゆらぎを生み出す。
木工細工の彫刻的な表現
ファントム・センテナリーには、ロールス・ロイス史上最も精緻な木工細工が採用されている。1年以上をかけて開発され、ステイン仕上げのブラックウッドで表現されたドアパネルには、ファントムの個性を形づくった象徴的な旅が描かれている。各構図には、地図や曲線を描く道筋、雄大な風景、花のモチーフ、そして試作車の描写が交差し、ファントムの遺産を生き生きと物語る芸術作品となっている。
リアのドアには、ヘンリー・ロイス卿が冬を過ごしたル・レイヨル・カナデル・シュル・メールの海岸線が描かれている。一方、右フロントドアには、現在のホーム・オブ・ロールス・ロイスからわずか8マイルの場所に位置する、ロイス卿が夏の邸宅があったウェスト・ウィッタリングの風景が広がる。左フロントドアは、グッドウッド時代の最初のファントムがオーストラリア大陸を西海岸のパースから横断した4,500マイルに及ぶ壮大な旅路が表現されている。
各構図は、立体的なマーケトリー(寄木細工)、レーザーエッチング、3Dインク・レイヤリング、そして金箔仕上げが組み合わされ、奥行きと質感が巧みに表現されている。地図や風景、花木などのマーケトリーフは、レーザーを用いて木材の異なる三層の深さで木材に刻まれている。これらの旅路を示す道筋は、厚さわずか0.1ミクロンの微細な24金箔の線で描かれ、光を受けて輝きを放つ。その各道は丹念に作られ、切り出され、配置されている。
そしてリアのドアには、南フランス原産の植物である松、ヒノキ、シダ、ヤシなどが描かれている。さらに、リアのパッセンジャードアの一部には、ヘンリー・ロイス卿がこの地を描いた油彩画のひとつが、キャンバスから木材へと置き換えられる形で再現されている。また、ロイス卿の邸宅であった南仏のヴィラ・ミモザと、ウェスト・ウィッタリングのエルムステッドの正確な位置が、それぞれ直径2.76ミリの金箔の点で示されている。
ロールス・ロイス・モーター・カーズ ビスポーク・カラー&マテリアル・デザイナー カトリン・レーマン氏は、以下のように話している。
「私たちは、オリジナルの文献や日記、写真、絵画といった幅広い資料を参照しながら、ファントムの物語を紡いできた数多くの糸をひとつに織り上げるように、この作品を創り上げました。このプロジェクトのために開発された新技術、特に3Dインク・レイヤリングにより、これまでにない微細なディテールの表現が実現しました。例えば、海を渡る小さな船や地図上の地名など、高さわずか0.13mmというスケールでの再現が可能となったのです。ファントムの歴史の一瞬一瞬を、その名にふさわしい精度と緻密さで実現するための時間と技術を持てることは、私たちにとって大きな誇りです」
ドアの木製部分は、精緻な刺繍が施されたレザーパネルへと姿を変える。木製パネルでは、24金で表現されていた「道」は金糸の刺繍として続き、地図や風景のディテールは黒の糸のステッチで表現されており、ドアのベニヤ部分に刻まれた細かなエッチングと呼応するデザインが生まれている。
木工細工は、1925年の初代ファントムIと現行のファントムVIIIを、それぞれリアのピクニックテーブルにエッチングで描写している。これらのモチーフは、ピクニックテーブルのレザー張りの背面の刺繍にも左右対称に表現され、過去と現在を結ぶもうひとつのジェスチャーとなっている。そしてピアノブラックのベニヤには、金粉を含有し、24金メッキを施したセンターの回転ダイヤルと呼応する輝きを放つ。
黄金のレガシー
ファントム・センテナリーには、壮麗なエンジニアリングの傑作である6.75リッターV12エンジンを讃える、アークティック・ホワイト仕上げられた特別デザインのカバーが用意されている。カバーの表面には24金のディテールがあしらわれ、ファントムの現代的な伝説と成功を支え続ける、エフォートレスな力強さを讃えている。
スターライトに浮かび上がるファントムの物語
繊細なアニメーションと刺繍によって構成されたスターライト・ヘッドライナーは、44万ものステッチでファントムの歴史に刻まれた瞬間を捉えている。そのデザインには、ヘンリー・ロイス卿がウェスト・ウィッタリングの自邸の庭で、チーフ・エンジン・ドラフツマンのチャールズ・L・ジェナー氏、実験部門を支えたテストドライバーのアーネスト・ハイヴス氏という2人の親しい同僚と共にクワの木の下で撮影された一枚の写真がモチーフとして取り入れられている。この瞬間に着想を得て、ビスポーク・コレクティブは、スターライトの下に座る乗客が、ロイス卿がかつて経験したような創造のひらめきと可能性の瞬間を感じられるような雰囲気をつくり出した。
この場面には、グッドウッドにあるロールス・ロイス本社の中庭にある、特徴的な四角い冠木が描かれている。ロールス・ロイスの養蜂場で暮らす25万匹の蜂たちを象徴するハチが、まるでホーム・オブ・ロールス・ロイスの敷地内でのみ育てられたファントム・ローズへと飛び立っていくかのように表現されている。星々の間には、歴代の偉大なファントムへの静かなオマージュが織り込まれており、そのひとつには「ブルーバード」の名で知られるマルコム・キャンベル卿のファントムIIを象徴する鳥のモチーフも含まれている。さらに、クワの葉の中には、「ザ・バンク」と呼ばれる金庫扉のロック機構への参照が隠れており、グッドウッド時代最初のファントムが設計された1990年代の秘密のデザインスタジオを示唆している。
プライベート・コレクション、ファントム・センテナリーをつくり上げたデザイナー、エンジニア、職人たちにとって、このモーター・カーは一生に一度の大仕事であった。ファントム・センテナリーは、ファントムそのものを生み出した精神を見事に体現している。すなわち、卓越性を追求するブランドのたゆまぬ姿勢と、世界最高の自動車を創造するという揺るぎない野心が息づいているのである。
ロールス・ロイス・モーター・カーズ 最高経営責任者のクリス・ブラウンリッジ氏は、次のように語っている。
「プライベート・コレクション、ファントム・センテナリーは、世界で最も敬愛されるラグジュアリー製品の100年に敬意を表して誕生しました。この妥協なき芸術作品は、精緻に設計されたファントムVIIIをキャンバスに、ファントムの驚くべき軌跡と、その伝説を築いてきた人々、すなわちロールス・ロイスのヴィジョナリーから、その栄光を共に形づくってきたオーナーたちの物語を紡ぎます。一世紀にわたり、ファントムの名はロールス・ロイスが誇る力のすべてを体現してきました。その遺産に敬意を表して、新たな技法を導入し、4万時間以上の作業の結晶として誕生したこのプライベート・コレクションは、ファントムを野心、芸術的可能性、そして歴史的重みを象徴する存在として、再び確固たる地位へと導きます」
またロールス・ロイス・モーター・カーズ ヘッド・オブ・ビスポーク マルティナ・スターク氏は、以下のように述べている。
「ファントムの名にビスポークで敬意を表するという特権は、一世代に一度の特別な機会です。この意義深い瞬間を捉え、過去最多のデザイナーたちが1年にわたりファントムの豊かな歴史に没頭し、その伝説を形づくってきた物語を掘り起こしました。彼らのリサーチは77のモチーフに凝縮され、それぞれがファントムの歩みにおける決定的な瞬間を捉え、これまでにない精緻さで表現されています。その結果、ホーム・オブ・ロールス・ロイスの全員の技術、野心、想像力が結集し、ファントムという卓越したモーター・カーに対するロールス・ロイスのクリエイターたちの深い敬意を映し出す、真の共同芸術作品が完成しました」
さらにロールス・ロイス・モーター・カーズ ヘッド・オブ・ビスポーク フィル・ファーブル・ド・ラ・グランジュ氏は、次のように話している。
「ファントム・センテナリーは、ビスポーク・コレクティブのデザイナー、エンジニア、生産スペシャリスト、職人たちがこれまで手掛けた中で、最も精緻かつ野心的な技術を採用したプライベート・コレクションです。3年にわたる開発期間を経て完成した本作品は、新技法を駆使し、金属、木材、塗装、ファブリック、レザー、刺繍をひとつの見事な作品に融合させています。その表面は、まるで一冊の書物のようにファントムの100年にわたる歴史を象徴的な要素と共に紐解き、この特別なモデルのオーナーとなるお客様がこれから長い年月をかけて鑑賞し、読み解いていただける豊かな物語を伝えています」
関連情報:https://www.rolls-roycemotorcars.com/ja_JP/bespoke/private-collection-cars/phantom-centenary.html
構成/土屋嘉久







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