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アメリカの利下げで物価はどう変わる?おさえておきたい国内外に与える影響

2025.11.24

アメリカにおける中央銀行制度の最高意思決定機関・FRBは、2025年9月17日に今年初となる利下げを発表しました。専門家の間では、今後もさらなる利下げが実行されると見られています。アメリカの利下げにより国内外の物価がどのような影響を受けるのか、わかりやすく解説します。

アメリカFRB(連邦準備制度理事会)では、2025年9月17日に今年初となる利下げを発表しました。年内にはさらに2回の利下げが実施される見込みです。

利下げにより消費者物価指数がどのように動くのか、また、日本の物価やわたしたちの生活がどのように影響を受けるのかについて解説します。

アメリカの政策金利とは?

政策金利とは、各国の中央銀行が設定する金利のことです。日本では中央銀行である日本銀行が政策金利を決め、経済成長や物価の安定を図ります。

アメリカではFRB(連邦準備制度理事会)が中央銀行に相当する国家機関です。政策金利に相当する民間金融機関間での融資に適用される「短期金利(短期FFレート)」を決定し、アメリカ国内外の金融政策の基準を策定しています。

■政策金利はFOMCで決定

短期FFレートは、FRBが年に8回開催するFOMC(連邦公開市場委員会)で議論され、方針が決定されます。FOMCは通常2日間にわたって開催され、終了後には決定された方針が発表されます。

なお、金融政策は政策金利の緩和(利下げ)・引き締め(利上げ)だけではありません。例えば、中央銀行から民間金融機関へ融資する資金を量的に減らし、市場の流通を一時的に引き締める方法や、反対に活発な融資を実施する方法なども実施されることがあります。

■政策金利の変更と影響

政策金利の変更は、FRBが実施する金融政策の中でも頻繁に実施される手法です。短期金利の利率を引き下げる「利下げ」、引き上げる「利上げ」、また、利率をそのまま据え置く「据え置き」により市場経済がどのような影響を受けるのか解説します。

利下げ

利下げを実行すると、金融機関から融資を受ける際の利息が軽減します。個人であれば住宅ローン、企業であれば事業資金の調達のように、多額かつ長期間借り入れる場合は、適用金利がわずかに下がるだけでも利息を大きく削減できるため、「借りやすい」状況になるでしょう。

低金利を活用するために、個人・企業ともに消費が活発になります。例えば、住宅がよく売れるようになると、ハウスメーカーや不動産会社が潤うだけでなく、住宅設備や家具、火災保険などの関連商品・サービスを扱う事業者の利益も増大するでしょう。

利下げにより引き下げられる金利は、融資金利だけではありません。預貯金の金利も引き下げ方向に進むため、金融機関にお金を預けるメリットが減り、消費活動をさらに促進させます。また、インフレ率が高い場合には、預貯金により資産が目減りすることもあるため、金融商品や不動産、金などへの投資が活発になります。

利上げ

反対に利上げを実行すると、個人・企業を問わず金融機関からお金を「借りにくい」状況になります。金利上昇のタイミングでローンを組むのは利息増に直結するため、個人であれば「住宅購入を見合わせる」「予算を減らす」といった消費活動の後退が見られるようになるでしょう。

企業も同様です。金利上昇時に事業の拡大や新規事業を実施するのは賢明な判断とはいえません。利息の負担が増大し、事業成功と判断できる収益額のハードルが高くなります。

また、預貯金の金利も引き上げられるため、「消費するより貯蓄する」といった流れが生まれる可能性もあります。個人・企業の消費活動が不活発になり、景気の後退につながる恐れもあるでしょう。

据え置き

政策金利の変動は、国内外の経済に大きな影響を及ぼします。例えば、利下げを実行することで消費拡大を期待できますが、市場に出回る資金が十分ではない状況では、経済の活性化にはつながらないかもしれません。

また、失業率やインフレ率が高いときも同様です。消費活動に必要な資金が充足していない状態で利下げが実行されても、「住宅を購入しよう」「設備投資に注力しよう」といった流れは生まれにくいでしょう。

利下げや利上げに適していると判断できるタイミング以外では、あえて政策金利を変更せず据え置くことが一般的です。短期金利に介入しないことで、市場経済の自由な動きを後押しし、自然発生的な経済成長を促せるケースもあります。

消費者物価指数とは?

消費者物価指数とは、全国の世帯が購入するモノ・サービスの価格変動を時系列的に測定したものです。総務省統計局が実施する家計調査や小売物価統計調査の結果に基づき、次の数値が発表されています。

  • 総合指数
  • 生鮮食品を除く総合指数
  • 生鮮食品とエネルギーを除く総合指数

生鮮食品の価格は天候や流通などの影響を受けやすく、毎月の変動幅も大きくなりがちです。また、ガソリンや電気といったエネルギーは海外の情勢(主に原油価格)の影響を受ける傾向があります。

消費者物価指数は、官民問わず広く活用されています。主な利用場面は以下をご覧ください。

  • 日銀の金融政策
  • 国・地方自治体の経済施策
  • 公的年金の給付水準の見直し
  • 公共料金・賃金などの改定

消費者物価指数は、日本以外の国々でも測定・公表されています。

■アメリカの消費者物価指数

アメリカでは、前月の消費者物価指数(CPI)を翌月中旬に労働省が公表しています。物価全体の動きを示す「総合指数」と生鮮食品やエネルギー価格を除いた「コア指数」など、複数の指数を公開し、金融政策や経済施策などに活用しやすくしています。

なお、CPIを公表する際には、「季節調整済み」と注記されることがあります。これは物価を左右する季節要因、例えば、シーズンの終わりに近づいて衣料品がバーゲン価格になったり、年末やボーナスといった消費拡大要因の影響を受けて家電などが値下げされたりしたケースを除き、過去の数値と比較しやすくするための「人為的調整」のことです。

■政策金利と消費者物価指数の関係

利下げが実施されると、通常は個人・企業ともに消費活動が活発になり、景気は上向きになります。買い控えが行われにくくなるため、物価は上昇し、消費者物価指数も上昇することが一般的です。

一方、利上げが実施されて消費活動が冷え込むと、市場経済の活性化を目的としたモノやサービスの値下げが実行されることがあります。物価が右肩下がりに推移し、消費者物価指数の下落が見られるようになるでしょう。

アメリカの利下げが日本に及ぼす影響

利上げ・利下げは国内の短期金利を調整する金融政策ですが、諸外国の経済に影響を及ぼすこともあります。特にアメリカのように世界1位のGDP(国内総生産)や貨幣流通量を誇る経済大国となれば、影響力も甚大です。

アメリカが利下げを実施すると、日本経済にどのような動きが生じるのか見ていきましょう。

■株価への影響

利下げを実施すると、企業は事業活動や投資活動を活発に行うようになるため、業績は上向き、株価は上昇することが一般的です。アメリカの株価と日本の株価は連動しているため、株価が上昇し、日経平均株価などの株価指数も上昇すると見られます。

一方、利上げを実施すると、アメリカの株価・日本の株価ともに下落することが一般的です。例えば、2008年のリーマン・ショックの折には、アメリカだけでなく日本を含む多くの国々で株価の急落が見られました。

■為替への影響

利下げは為替にも影響を及ぼします。金利が低下することでアメリカドルへの投資が縮小し、アメリカドルを売って日本円を購入する動きが進むことから、通常であれば円高ドル安に進みます。

日本国内の輸入品の価格が上昇し、原油や鉄といった大半を輸入に頼る原材料を使用する企業では、売上減・収益減が顕著になるでしょう。また、日本から海外に行く「割安感」が減り、海外旅行を敬遠する動きや滞在日数を減らす、宿泊ホテルのランクを下げるといった傾向も見られるようになるかもしれません。

しかし、利下げは必ずしも円高ドル安を促進するわけではありません。為替はアメリカの金融政策よりも、金利差(円ドルの場合であれば、アメリカの政策金利と日本の政策金利の差)に強く影響を受ける傾向があります。

そのため、アメリカが利下げを実行しても日本も同様に利下げを実行して金利差が変わらないときは、予想されるほどの為替変動が見られないケースも少なくありません。また、一時的に円高ドル安方向に為替が動いても、市況との乖離が見られ揺り戻しが起こることもあります。

■物価への影響

利下げにより円高が進行すると、輸入品の価格が下がり、国内物価も下落する動きが見られることが一般的です。日本は食糧やエネルギーといった生活に不可欠なモノの自給率が低く、多くを輸入に頼っているため、為替の動きは物価と直結します。

ただし、アメリカの利下げが円高を促進しない場合は、日本国内の物価も期待するような下落は見られません。また、割高感から消費が冷え込む可能性もあります。

利下げの動向に注目しよう

政策金利がわずか0.1%変わるだけでも、国内外の経済に大きな影響を及ぼします。利下げ・利上げが物価に与える影響を理解しておくことは、わたしたち一人ひとりにとって重要なことといえるでしょう。

また、政策金利の変動が、常に同じ結果に結びつくわけではない点にも注意が必要です。一般的にはアメリカが利下げを実行すると日本国内の物価は下落するとされていますが、日米の政策金利差や政治的要因、環境要因などが複雑に絡み合い、モノ・サービスの価格が上昇する可能性も十分にあります。

経済の流れを正確につかむためにも、普段から国内外の情勢にアンテナを張り巡らし、リアルな情報を入手することが必要です。

構成/林 泉

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