アメリカの中央銀行に相当するFRB(米連邦準備制度理事会)が利下げを実行すると、アメリカ国内の経済だけでなく、日本の株価にも影響が及ぶことがあります。一般的にアメリカの利下げは株価上昇を招く要因です。なぜ株価が上昇するのか、また、株価以外にもどのような分野に影響が生じるのか解説します。
目次
2025年9月17日、FRB(米連邦準備制度理事会)は0.25%の利下げを発表しました。新トランプ政権においては初めての利下げとなり、年内にさらなる利下げが予想されています。
これによりアメリカの政策金利は4.00~4.25%となり、日米の金利差は縮まりました。アメリカの利下げにより国内外の株価はどうなるのか、また、株価以外への影響についても解説します。
利下げとは?

利下げとは、中央銀行で決定する政策金利を引き下げることです。通常、政策金利は「短期金利」を指し、引き下げを実行することで、景気の調整や物価安定を図ります。
利下げが実行されると、より低い金利で資金を調達しやすくなります。特に長期かつ高額の融資を受ける場合には、利息削減のメリットを実感しやすくなるでしょう。例えば、35年・5,000万円の住宅ローンを組む場合、返済方法などによっても変わりますが、適用金利が0.1%引き下げられるだけでも利息は数百万円減ります。
利下げにより個人消費が活発になるだけでなく、企業の投資も活発になり、景気が上向きになることもあります。ただし、過剰な利下げはインフレを加速させ、貨幣価値を下落させる要因ともなるため注意が必要です。各国の中央銀行では、経済の状態や物価動向などに鑑み、総合的に判断しながら、慎重に利下げ・利上げを実施しています。
■アメリカの利下げの仕組み
アメリカの中央銀行に相当する組織は、「FRB(The Federal Reserve Board、米連邦準備制度理事会)」です。年に8回、FOMC(Federal Open Market Committee)を開催し、アメリカ経済の指針を決定します。FOMCで審議される論点は主に次の2つです。
- 政策金利
- 国債や住宅ローン担保証券の買入・売却の方針
FOMCは2日間にわたって開催され、2日目の終了時にFRB議長が記者会見を開き、国内外に決定内容を公開します。
■日本の利下げの仕組み
日本の中央銀行は「日本銀行」です。年に8回、金利政策決定会合を開催し、次のような日本経済の指針を決める事柄を審議します。
- 政策金利の方針
- 金融政策を実施するための具体的手段(手形や債券の種類・条件、担保など)
- 基準貸付利率、基準割引率、預金準備率
- 国内外の経済・金融情勢に対する日銀の見解
2日間におよぶ金利政策決定会合が終了すると、日銀総裁により記者会見が開かれ、審議内容と結果について報告する流れです。利下げ・利上げが実行されると民間金融機関の貸出金利や預金金利だけでなく、為替や輸出入にも影響が及ぶため、記者会見の様子や報告される内容は国内外に広く報道されます。
アメリカが利下げをすると株価はどうなる?

アメリカが利下げを実行すると、アメリカ国内の株価だけでなく、日本を含む外国の株価にも影響が及ぶことがあります。株価が動く仕組みや利下げ・利上げによる変化について見ていきましょう。
■アメリカの株価への影響
FOMCで利下げが発表されると、従来よりも低金利で資金調達が可能になるため、企業活動は活発になります。積極的な設備投資や事業拡大が行われ、業績が向上し、株価も上昇することが一般的です。
ただし、政策金利がすぐに民間金融機関の金利に反映されるわけではないため、利下げのタイミングと株価上昇のタイミングがずれることもあります。また、予想よりも金利の引き下げ幅が小さい場合、政策金利が据え置かれた場合などは、株価にポジティブな変化が見られない可能性もあるでしょう。
例えば、2024年9月17~18日に開催されたFOMCでは、政策金利を0.50%引き下げ、4.75~5.00%にすると決定しました。発表直後はセオリー通りに一時的に株価が上昇しましたが、当日中に反転し、株価下落の局面で大引けを迎えています。
アメリカの利下げと過去の株価
過去の利下げも、必ずしも株価の上昇とつながっているわけではありません。利下げの理由や期待値により、株価の動きは変動します。
また、「利下げが確実視」されることでも、期待の高まりからアメリカ株を購入する流れが生まれ、株価が上昇することが少なくありません。例えば、次の指数や情報も、アメリカ国内の株価の変動に大きな影響を及ぼします。
- 雇用統計
- 消費者物価指数(CPI)
- FOMC終了後に発表される経済見通し
他にも、アメリカ経済に多大な影響を及ぼす大手ハイテク7社(Magnificent 7)の業績や、中国や日本といった主要貿易相手国の為替市場なども、株価を大きく左右します。
アメリカの利下げが注目される理由
アメリカは世界経済を牽引する巨大国家です。名目GDP(国内総生産)・実質GDPともに世界一、また、外国為替市場における通貨別取引高のうち4割強をアメリカドルが占めていることからも、アメリカが世界経済に与えるインパクトの大きさがわかるのではないでしょうか。
個人の富も群を抜いています。例えば、アメリカ国民は世界の個人資産の1/3強を有し、ミリオネア(100万米ドルを超える個人資産を有する人)が約2,400万人もいると報告されています。政策金利の引き下げにより、アメリカの国や企業、個人の消費動向が変われば、諸外国の株価を含む国際経済に大きな影響が生じるでしょう。
■日本の株価への影響
日本とアメリカの経済はほぼ連動しているといっても過言ではありません。貿易額の大きさでも、両国間の経済への影響を図れるでしょう。例えば、日本からアメリカへは自動車や原動機、科学光学機器などが年間約20.3兆円、また、アメリカから日本へは医薬品や液化石油ガス、穀物類などが年間約11.5兆円と巨額の貿易が行われています※1。
また、直接投資額の大きさも両国の結びつきの強さを示しています。日本からアメリカへの直接投資額は約92.0兆円(対世界に占めるシェア34%)、アメリカから日本への直接投資額は約10.3兆円(対世界に占めるシェア22%)と高額です※2。
利下げによりアメリカの株価上昇が見られるようになると、日本の株価も上昇の動きを見せることが一般的です。ただし、日本が金融引き締めにより政策金利の引き上げを実施する場合は、消費活動が冷え込み、株価が下落する可能性もあります。
※1:2023年時点
※2:2022年末時点
アメリカの利下げは株価以外にどのような影響を及ぼす?

アメリカの利下げは、国内外の株価以外にも多大な影響を及ぼします。利下げによって起こり得る変化や日本を含む諸外国への影響などについて見ていきましょう。
■市中金利の低下
政策金利の引き下げが発表されると、FRBから民間金融機関への貸付利率が下がります。民間金融機関にとっては資金調達しやすい環境が整い、個人や企業への貸付利率も徐々に引き下げられるでしょう。
また、預貯金の金利も引き下げられます。適用金利の水準にもよりますが、インフレが進行している場合には資産の目減りを引き起こすこともあるでしょう。預貯金に頼る資産形成が難しくなり、投資活動や消費活動が活発になります。
■金相場の上昇
預貯金に頼らない資産形成の方法の一つとして、金やプラチナといった実物資産への投資が挙げられます。特に為替相場や株式相場が読みにくい状況では、手に取ることができる「モノ」への信頼感が増し、取引が活発に行われるようになることが一般的です。
金などの実物資産へのニーズが高まると、相場の上昇を招きます。企業が倒産すると価値がほぼなくなる株式とは異なり、金は価格が暴落することはあっても現物が手元に残るため、価値がゼロになることがないという点も投資家にとって大きな魅力です。
■融資・貸出の増加
市中金利が下がると、個人や企業が資金を借り入れやすい状況になり、金融機関の融資・貸出が増加します。市中に多くの資金が流入し、消費活動が活発になります。
また、金や不動産といった実物資産への投資が活発になっている場合も同様です。実物資産の購入のためにローンを組むケースも増え、融資を申し込む個人・企業が増えるでしょう。
■景気拡大
消費活動が活発になると、景気は上向きになります。物価が少々上昇しても買い控えが行われにくくなるため、企業の利益拡大や個人所得増につながります。
ただし、個人所得の増加スピードが物価上昇スピードに追いつかない場合は、個人消費は引き締め方向に進む可能性があるでしょう。消費活動が冷え込む期間が長引くと、景気が悪化する恐れもあります。
■雇用拡大
市中金利が低く、景気が上向きの状況下では、企業活動が活発になります。新規事業に着手する、設備投資を増やす、事業を拡大するといった流れが生まれ、より多くの働き手を必要とするようになるでしょう。
雇用が拡大すると失業率が低下し、個人・世帯の所得は上昇します。消費活動はさらに活発になり、景気もますます上昇する可能性があります。
■バブル経済
景気拡大・雇用拡大が続くと、個人・企業の消費活動はさらに活発になります。しかし、右肩上がりに成長し続ける経済はありません。適切なタイミングで利上げが実施されない場合には、株式や不動産などの価格が実体経済の価値とかけ離れて高騰し、バブル状態になる恐れがあります。
アメリカの利下げに注目しよう

アメリカの利下げは、アメリカ国内経済だけに影響を及ぼすのではありません。日本を含む主要貿易相手国や周辺国家などさまざまな国と地域の経済を揺るがします。
通常であればアメリカが利下げをすると日本の株価は上昇しますが、為替や政策金利差、政治情勢などの多様な要素が働きかけることで下落することも珍しくありません。今後もアメリカの利下げと株価の動きに注目していきましょう。
構成/林 泉







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