個人の性生活においてマスターベーション(自慰行為)が占める割合はそれなりに大きいはずであるが、パートナーとの性行為ほど研究は進んでいない。マスターベーションに関するこれまでの研究のほとんどは、ある一時点のある集団を対象にした横断研究であり、異なる年齢層の異なる人々の様相を捉えた〝スナップショット〟であると言わざるを得ない。
このような研究は年代における傾向を示唆することはできるが、個人の行動が加齢とともに実際にどのように変化するかを示すことはできず、プライベートな性行動の発達過程を理解する上で大きなギャップが残されている。
人生を通じて自慰行為の頻度はどう変化するのか

マスターベーションとパートナーとのセックスの関係についても議論が続いている。一つの考え方である「代償モデル」は、パートナーとの性行為の機会が少ないと、人々はマスターベーションの回数が増えると示唆している。もう一つの考え方である「補完モデル」は、マスターベーションが活発な性生活を補うものであると主張している。さらに別の見方では、マスターベーションはパートナーとの行為とはほとんど切り離された、自律的な行動であるとの考えもある。
ノルウェーの研究チームが今年4月に「The Journal of Sex Research」で発表した研究では、人間の生涯におけるかなりの期間において、マスターベーションの頻度がどのように変化するかを詳細に分析していて興味深い。
研究チームはノルウェー人の大規模な集団(コホート)を10代から追跡調査してきたデータから2562人のサンプルに焦点を当て、19歳から58歳までの間の3つの異なる時期に収集された調査回答を分析した。この豊富なデータセットにより、研究チームは若年成人期から中年期、そして50歳までの重要なライフステージにおけるマスターベーションの頻度の変化をモデル化することができたのだ。
マスターベーションとセックスは別物

回答者はマスターベーションの頻度、パートナーとの性行為、そして性的空想の経験について情報を提供した。またパートナーとの関係、子供の有無、性的アイデンティティ、学歴、宗教についても報告した。研究チームは、マルチレベル成長曲線モデリング(multilevel growth curve modeling)と呼ばれる統計的手法を用いて、マスターベーションの頻度が時間の経過とともにどのように変化し、さまざまな要因がこのパターンにどのように影響したかを詳細に浮き彫りすることができた。
分析の結果、まず女性と男性の明確な軌跡が明らかになった。女性の場合、マスターベーションの頻度は19歳から徐々に増加し、31歳頃にピークに達し、その後緩やかに減少しはじめた。
一方、男性の場合はマスターベーション頻度は19歳から50歳までの全年齢層を通してほぼ安定していた。男性は平均して女性よりもマスターベーションの頻度が高いことも確認され、これは過去の研究結果を裏付けるものになった。
研究チームは次に、これらのパターンがパートナーとの性行為の頻度によってどのように影響を受けるかを調査した。個人がパートナーと性行為を行う頻度を統計的に考慮したところ、男女ともに発達の軌跡に有意な変化は見られなかった。つまり「代償モデル」でも「補完モデル」でも説明できず、マスターベーションとセックスは別物であることになる。
男性の自慰行為は30代半ばで底を打つ

男性のマスターベーションの頻度はほぼ安定しているのだが、性的な空想の頻度を考慮すると意外なことに19歳から36歳頃までマスターベーションが減少し、その後増加するというパターンが明らかになった。パートナーの有無を考慮した場合も同様の変化が見られ、30代半ばで低下の底を迎える軌跡が明らかになった。この年代の男性は仕事をはじめ社会的活動の割合が最も増えるからであるかもしれない。
対照的に女性のマスターベーションの軌跡は、性的な空想の有無やパートナーの有無を考慮しても大きな変化はなかった。
親になるライフイベントも影響を与えていた。子供を持たない人と親になった人は、異なるマスターベーションの頻度の軌跡を示した。子供を持たない人は30歳頃までマスターベーションの頻度がより顕著に増加したが、その後は急激に減少した。親になるかならないかが、マスターベーションの頻度に関連していることが示唆されることになった。
そのほかの個人特性もマスターベーションの頻度と関連していた。非異性愛者と自認する回答者は、全ての年齢において異性愛者と自認する回答者よりも頻繁にマスターベーションを行っていると報告したが、長期的な軌跡の全体的な形状は異性愛者と類似していた。
この研究では教育レベルに基づくマスターベーションパターンに有意な差は見られなかった。宗教的所属については19歳女性におけるマスターベーションの頻度が低いことと関連していたが、長期的な軌跡には影響を与えず、男性の習慣には目立った影響は見られなかった。
個人の生活で重要性を増す自慰行為
研究チームは研究結果には一定の限界があると認めており、本研究は自己申告に基づいており、記憶の不完全さや、デリケートな話題について正直に報告する意思の有無に影響を受ける可能性がある。また1970年代生まれのノルウェー人コホートに基づいており、異なる文化的背景や世代の人々では結果が異なる可能性もある。
さらに「非異性愛者」グループにはさまざまな性的アイデンティティを持つ人々が含まれており、本研究ではこれらのサブグループを個別に調査することはできなかった。またマスターベーションの動機(快楽、ストレス解消、自己探求など)についても調査されていいない。
研究チームは今後の研究では、パートナーとのセックスとマスターベーションの相互作用、関係性の質や個人の性欲レベルの影響をより詳細に検討できる可能性があると示唆している。
9月11日に「The Journal of Sex Research」にて発表された別の研究では、人々のマスターベーションの頻度が高まっていることが報告されている。コロナ禍を経て現在はさらに人々のマスターべーションの回数が増えている可能性もあり、マスターベーションは個人の生活においてますます重要性を増してきていることは間違いなさそうだ。
※研究論文
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00224499.2025.2489091
文/仲田しんじ
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