一度は経営破綻し、その行く末が危惧されていた旧富士通のFCNTだが、レノボ傘下に入って復活を果たした。当初はミッドレンジモデルのラインナップを再構築することに注力していたFCNTだが、8月には、久々の高機能モデルとなる「arrows Alpha」を投入。ラインナップを拡充して、同じレノボ傘下のモトローラとともに市場での存在感を高めている。
arrows Alphaは、高機能モデルながらも価格を8万円台に抑えた1台。FCNTが得意とする高耐久性はそのままに、メディアテックの「Dimensity 8350 Extreme」を採用するなどして、パフォーマンスを高めた。FCNTは“ハイエンドモデル”と銘打っているが、スマホ全体の中ではいわゆるミドルハイに属するモデルで、そのぶんコストを抑えているのが特徴だ。
このパフォーマンスを生かし、新たにAIの機能である「arrows AI」も搭載した。さまざまなスマホがAIを取り入れることがトレンドとなっているが、arrows AIはほかとどう違うのかのは気になるポイントと言える。そんなarrows Alphaを実際に使ってみた。ここでは、高機能モデルとしての性能や、AIの使い勝手などを中心にレビューしていく。
高機能モデルならではの上質感あるデザイン、スペックはミッドハイ並み
arrows Alphaは、高機能モデルの中では珍しく、コンパクトに仕上げられている。ディスプレイサイズは6.4インチで、iPhone 17よりも0.1インチ大きいものの、横幅は71mmに抑えられている。上位モデルほど画面サイズが7インチ弱まで大きくなる傾向にあるが、arrows Alphaは、よりスタンダードなスペックになっていると言えそうだ。
ハイエンドモデルをうたうだけに、仕上げも上質感がある。本体周囲を取り囲むフレームには、ヘアライン加工が施されており、金属の持つ質感を強調。背面のガラスもサラッとした仕上げになっており、光沢感を抑えてギラギラした印象を軽減している。ハイエンドながらも、日常に溶け込むような上質さを出した印象だ。
FCNT側はこのモデルを「ハイエンド」と呼ぶが、実際に搭載されているチップセットやメモリの容量などを踏まえると、ミッドレンジ上位のモデルに近い。FCNTのラインナップの中では確かに最上位のスペックにはなるが、それよりも高い処理能力を持ったスマホは存在するからだ。ハイエンドはあくまで相対的な概念のため、“FCNTの中では”という留保がつく。
実際、ベンチマークアプリでスコアを取ってみると、一般的にハイエンドモデルとくくられる最新モデルより、数値は低めになっている。『Geekbench 6』でのスコアは、CPUのシングルコアが1398、マルチコアが4505。GPUのスコアは8953にとどまっている。「Snapdragon 8 Elite for Galaxy」を搭載した「Galaxy Z Fold7」はCPUのシングルコアが2246、マルチコアが8562と高い数値だ。
一般的なハイエンドモデルと比べると、性能は抑えられている点には注意が必要になる。それでも、ゲームなどのグラフィックスに凝ったアプリを使うのなければ、操作は十分快適だ。ブラウジング時の引っかかりなどはなく、アプリの起動もスムーズ。ミッドレンジモデルの中でスペックの低い端末にありがちな、わずかな引っかかりもない。また、この価格帯で512GBのストレージを内蔵しているのもうれしいポイントと言える。
必要な設定を素早く探せるarrows AI、アクションボタンも便利
ミッドレンジモデルよりも高いスペックを生かし、arrows Alphaにはarrows AIという新機能が搭載されている。iPhoneのApple IntelligenceやGalaxyのGalaxy AIなどをはじめ、最近ではハイエンドモデルを中心に、生成AIを取り入れた機能を搭載するのが一般的になりつつある。性能を高めたことで、arrowsもそれに追随できた格好だ。
ただし、arrows AIのそれは、一般的なスマホのAIと大きく特徴が異なる。通常のスマホのAIは、文書作成のサポートやイラストの生成、アシスタントなどが中心。PCやWebで用いられている生成AIと、用途は近い。これに対し、arrows AIは、arrows Alpha自体の操作をサポートするために実装されている。
例えば、「文字入力アプリを変更したい」というシチュエーションでは、設定アプリを開いて検索することが多いが、そこには「文字入力」などと単語ベースで入力するのが一般的だ。これに対し、arrows AIでは、「文字入力アプリを変更したい」とそのまま入力しても、結果がきちんと表示される。
より曖昧な、「電池持ちをよくしたい」だと、「バッテリーモニター」や「バッテリーセイバー」といった機能が提案される。また、「画面を明るくしたい」といったキーワードでは、「アクション」という結果が表示されて、直接arrows AIから設定を変更することができる。何らかの文章や画像をスマホで生み出すのではなく、スマホそのものの操作を分かりやすくするためのAIというわけだ。
FCNTは、「らくらくホン」や「らくらくスマートフォン」といったシニア向け端末の開発でおなじみのメーカー。誰もが使えるユーザーインターフェイスの設計には、一日の長がある。arrows AIは、それらとはやや趣が異なるものの、自然言語で必要な設定を呼び出せる機能は、ある意味、らくらくスマホよりも一歩進んでいると言えるかもしれない。
このarrows AIは、アプリアイコンから呼び出せるだけでなく、側面に搭載された「アクションキー」でスムーズに呼び出すことが可能だ。標準では、このボタンの長押しにarrows AIが割り当てられている。また、短押しではグーグルのGeminiが起動。短押し、長押しのどちらでもAIを呼び出せるようになっているというわけだ。
とは言え、操作のことを聞くためのAIは、慣れてしまえばそこまで頻繁に呼び出す必要がない。こうした時には、割り当てを変更することが可能だ。標準ではGoogleレンズの選択が可能になっているが、アプリを選んでそれぞれの動作に割り当てることもできる。頻繁に使うアプリを呼び出すショートカットボタンとして使えて、非常に便利だ。
独自性の高いFCNTならではのカスタマイズ
AIに関しては、今後、アップデートでLINEやメッセージを要約してくれる新機能に対応する予定が表明されている。実は、この機能は、同じレノボ傘下のモトローラと共同で開発されたもの。同社が投入した折りたたみスマホの「razr 60」では、「おまとメモ」という機能があったが、それに相当するものがarrows Alphaにも実装される予定だ。グループ会社間のシナジー効果も発揮されていることがうかがえる。
カメラは超広角と広角の2つで、メインの広角には5030万画素のセンサーを搭載している。センサーサイズが1/1.56インチと比較的大きく、暗い場所でもノイズが少ない。また、ピクセルビニングを解除し、5030万画素から切り出しを行うことで劣化の少ない2倍ズームを利用できる。料理写真がややコッテリした仕上がりになってしまうきらいはあるが、画質も良好だ。また、同じくモトローラのrazrなどと同様、動きのある写真の一瞬を捉える「アクションショット」にも対応している。
いずれも2倍ズームで撮影したが、デジタルズームのような劣化がない。やや色味がコッテリすぎる印象も受けた
このように、モトローラとの共通化が進んでいるarrows Alphaだが、arrowsならではの機能も健在だ。こうした機能は、「arrowsオススメ機能」という設定項目にまとめられている。先に挙げたアクションキーは、その1つ。また、電源キーをなぞってスクロールする「Exlider」という機能にも対応する。
Exliderは、片手でスマホを持った際にスクロールを簡単にできる機能。指を上下に動かし、止めるだけでスクロールが継続するため、画面をなぞってスクロールさせていくよりも動作が少なくて済む。電源キーがやや面積が狭いのが難点だが、慣れると使い勝手がいい。
また、日本語入力には「Super ATOK ULTIAS」が採用されており、キーボードのレイアウト変更や文字入力の細かな設定にも対応する。ただ、こちらはフィードバックにバイブを選択すると、少々反応が遅い印象があり、最適化が十分ではないことがうかがえる。同じく内蔵されているグーグルのGboardの方が震えが細かく、レスポンスもいい。ATOKはサードパーティ製アプリのため、FCNTのチューニングが難しいのかもしれないが、要改善のポイントと言える。
指紋センサーは電源キーと一体になっており、画面を点灯させる際にそのままロックが解除されて操作がしやすい。個人的には、画面内の指紋センサーよりも、こちらの方が扱いやすい。また、ロックを解除した指に応じてアプリをあらかじめ指定したアプリを起動する「FASTフィンガーランチャー」にも対応する。特定の指に決済アプリを割り当てるなどすれば、支払いがスムーズになるはずだ。
処理能力がまずまず高く、独自のカスタマイズもしっかり施されているarrows Alphaは、非常にバランスのいい端末だ。価格とのバランスもしっかり取れている。最上位のハイエンドモデルほど性能を求めないが、快適に使いたいというユーザーにはお勧めできる1台と言えるだろう。ベーシックな高機能モデルとして、評価したい1台だ。
文/石野純也







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