WHOのデータによると、世界の糖尿病患者はこの30年間で4倍に増加しているという。体質や不健康な食生活、運動不足が要因といわれているが、初期の段階では自覚症状を感じにくいこともあり、不安に感じている人は少なくないだろう。糖尿病を予防するカギであり、またQOLを向上するうえでも役立つ「血糖コントロール」について、都内の大学病院の代謝内科医の渥美志保先生に伺った。
糖尿病と診断される前に、生活を改善するべき
――日本の糖尿病患者の多くは「2型糖尿病」、つまり、遺伝や生活習慣の影響で糖尿病を発症していると聞きます。その前段階である「糖尿病予備軍」の人が、近年増えているそうですね。
渥美先生 はい。特に30代、40代の方に増えていますね。しかも、会社の健康診断で指摘されたにもかかわらず、きちんと対策を取れていない人も多いです。「メタボリックドミノ」という言葉をご存じでしょうか。
――いいえ、初めて聞きました。
渥美先生 「メタボリックドミノ」とは今から20年以上前に提唱された考え方で、肥満をきっかけにさまざまな生活習慣病を連鎖的に発症するさまをドミノ倒しにたとえたものです。生活習慣の乱れにより肥満になると、食後高血糖、高血圧、脂質代謝異常などのメタボリックシンドロームを引き起こし、その結果として糖尿病を発症、さらに、心不全や脳卒中、認知症につながっていく、という一連の流れを指します。
できるだけ早い段階で対処をすれば、ドミノの駒が倒れるのを食い止めることができますが、駒がどんどん倒れてしまうと、その流れを止めることは難しくなってしまいます。ですから、糖尿病と診断されるもっと手前のところで、いかに自分の生活を改善できるかがカギとなります。その指標のひとつとなるのが、「血糖スパイク」です。
「血糖スパイク」がさまざまな病気を引き起こす
――「血糖スパイク」はよく耳にする言葉です。
渥美先生 私たちは食事をすると、一時的に血糖値が上がります。血糖値の上昇はインスリンというホルモンの働きによって抑えられ、元の値へと下がっていきます。インスリンの分泌量が少なかったり、働きが悪くなったりして、空腹時でも血糖値が高い状態が慢性的に続くのが糖尿病です。
そして、糖尿病に進行するリスクが高いといわれているのが、「血糖スパイク」。普段の血糖値は正常なのに、食後だけ血糖値が急上昇、急降下する状態のことを指します。血糖スパイクの何が悪いのかというと、血管にダメージを与えてしまうことです。血管内皮が傷つき、酸化ストレスが生じ、放っておくと動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中のリスクが高くなります。
――「血糖スパイク」と聞いて真っ先に頭に浮かんだのは、「ベジファースト」でした。「血糖値の急上昇は肥満を招くので、食事の際はいきなり炭水化物を食べるのではなく、最初に野菜を食べて食後血糖値の上昇をゆるやかにするのがよい」という考え方です。ですが、「血糖スパイク」は肥満だけでなく、さまざまな病気のリスクに直結するものでもあるんですね。どのように予防すればよいでしょうか。
渥美先生 やはり食生活の見直しは欠かせません。いちばん大事なのは、白砂糖の主成分であるショ糖を避けることです。そして、今おっしゃった「ベジファースト」もそのひとつ。食物繊維を含むものを最初に食べることで、炭水化物の消化吸収が緩やかになり、急激な血糖値の上昇を防ぐことができるといわれています。
自分の血糖値の変動がわかる「FreeStyleリブレ」
渥美先生 それから、「FreeStyleリブレ」(以下「リブレ」)という医療機器を健康管理に役立てるのもおすすめです。本来は糖尿病患者の血糖管理をサポートするための機器ですが、糖尿病ではない方にとっても、ご自身の血糖値の変動を知り、食事や運動のコントロールに活用するためにとても有効です。
――「リブレ」とはどのような仕組みなのですか?
渥美先生 センサーを二の腕などに貼り付けておき、血糖値を連続的にモニタリングするというものです。スマホをセンサーに近づけるだけで、最大2週間、何度でも測定・記録できます。
――血糖値は血液を採取しないと測定できないものだと思っていました!
渥美先生 「リブレ」は、上腕に装着したセンサーのフィラメント(細い針)が皮下の間質液中のグルコースと酵素反応を起こし、その反応により発生する微弱な電流を測定することで血糖値を算出するという仕組みになっています。センサーを貼りっぱなしの状態で2週間測定しますが、その間、運動や入浴も可能です。
自分の血糖が一日のなかでどんなふうに変化しているかが見える化されるので、自分の食事が血糖値に与える影響を知ることができ、いつ何をどのように食べるかといった食生活の改善に役立てることができます。
――血糖値が見える化されるというのはわかりやすいですね。「リブレ」はどこで処方してもらえるのでしょうか。
渥美先生 アマゾンや楽天などのオンラインストアでも買えますが、多くのクリニックで処方していますので、まずは一度、クリニックで相談するのが安心です。「リブレ」で血糖値や食生活を2週間計測したのち、担当医とその結果を振り返りながらアドバイスを受けることで、その後の生活改善にしっかりと役立てることができます。費用はインスリンの自己注射を行っている糖尿病患者の方は保険適用内、それ以外の人は保険適用外となります。
「血糖スパイク」を防げば、仕事の能率がアップ
――実は私、食後に猛烈に眠くなってしまうことが多くて……。これって「血糖スパイク」が原因なのでは?と気になっていました。
渥美先生 その可能性はありますね。食後に「血糖スパイク」が起こるとインスリンが過剰に分泌され、低血糖状態になります。すると、眠気や倦怠感、集中力の低下が起こりやすくなるんです。
――やはり……。糖尿病予備軍と言われたことがなくても、こうした症状を感じている人は「血糖スパイク」を疑ったほうがよさそうですね。
渥美先生 一般的に男性は45歳前後、女性は閉経後から、ホルモンバランスの変化による体調不良を感じやすくなるといわれています。ですが、予防という観点では、そのタイミングから対策を取るのでは遅いです。体質は遺伝などの影響もあり、人それぞれ異なりますから、こういう情報に触れたタイミングが自分のターニングポイントだと思っていただきたいです。
――病気の予防はもちろんですが、「血糖スパイク」を防ぐことができれば、お腹が空くと不機嫌になったり、食後にだるくなったりすることが減って、仕事の効率がアップしそうです。
渥美先生 おっしゃる通りです。アメリカには社員の仕事のパフォーマンスを向上させるために、社食で「血糖スパイク」を避けるメニューを提案している企業もありますし、五感を使って食べることに集中する「マインドフル・イーティング」という食べ方を推奨している病院もあります。瞑想やマインドフルネスには血糖値を改善するというエビデンスもあるので、ぜひ積極的に取り入れるといいと思います。
都内大学病院 代謝内科 医師
渥美志保氏
取材・文/志村香織 撮影/横田紋子1810906
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