
デジタルイノベーションの総合展『CEATEC 2025』が、10月14日~17日まで幕張メッセで開催された。国内外810の企業・団体が出展した展示会場で体験した、最新技術の一部をレポートする。
NTTドコモはネットワークを通じて痛みを共有する技術を公開
NTTドコモが出展したのは、同社が研究開発に取り組んでいる『FEEL TECH』の最新技術。『FEEL TECH』とは、人間の感覚をネットワークで拡張する『人間拡張基盤』を用いて、これまでは伝えられなかった様々な“感覚”をネットワーク経由で伝える試みだ。これまで「動作」や「触覚」、「味覚」の共有に取り組んできたが、今回の『CEATEC 2025』では「痛み」を伝える技術が披露された。
現在、医療現場などでは「10段階でどれくらいか」などの表現を使って、痛みを表すといったことがされているが、痛みの耐性には個人差があり、客観的に数値化するのは難しい。ドコモでは大阪大学発のスタートアップPaMeLaが開発した、痛みを脳波から測定する技術を『人間拡張基盤』と連携。センシングデバイスで計測した痛みを解析し、個人差による感じ方の違いを推定した上で、相手の感じ方に合わせた痛覚刺激(温度刺激)を再現するアクチュエーションデバイスを用いて、共有するしくみを開発した。
担当者によれば、直接的な体験以外にも、視覚的なインターフェース(グラフや数値、色、アバターの表情など)を用いて、わかりやすい形で痛みを共有することを想定。具体的に痛みを伝える必要のある医療や福祉、スポーツのほか、ゲーム、エンタメ、教育分野への活用も視野に入れているとのこと。また辛味や冷たさといった刺激は痛みと近いため、食の分野でも応用できる可能性があるという。フィジカルな痛みだけでなく「心の痛み」へも広げることができれば、「孤独の問題やカスハラ対策、誹謗中傷といった社会課題の解決にもつなげられるのではないか」と、話していた。
ドコモの「“痛み”の共有による相互理解の深化を実現するプラットフォーム」は、CEATEC AWARD 2025で「経済産業大臣賞」を受賞。同じCEATEC AWARD 2025で「総務大臣賞」を受賞したのが、シャープが開発中の「5G NTN通信対応 LEO衛星通信ユーザー端末」だ。
Starlinkなどのサービスで注目されるLEO衛星通信だが、シャープが開発しているのは、広く普及している5G技術を用いるもの。スマートフォンの開発で培ったノウハウを応用し、既存のものに比べて大幅に小型化、軽量化を実現している。2025年3月には、LEO衛星との5G NTN( 非地上系ネットワーク)通信の実証実験にも世界初成功。ブースには、自動車やドローンにも実装できるような、さらに小型化した端末のプロトタイプも展示されていた。
TDKのブースで注目を集めていたのは、勝ち続けるじゃんけんAI。「エッジ向けアナログリザバーAIチップを用いたリアルタイム学習機能付きセンサシステム」というもので、TDKと北海道大学が研究開発を進める、アナログ電子回路によるリザバーコンピューティングが用いられている。リザバーコンピューティングとは、時系列データを高速かつ効率的に処理できる機械学習技術のこと。このデモでは、ユーザーがじゃんけんを出し終わる前に、指の動きをセンサーから判断して勝つ手を出している。高速に処理されているため、ごく自然なスピードだが、要するに後出しなのだ。最初は勝てることもあるが、その人の指の動きを学習すればするほど、負けないようになると言う。
繊細な指先の動きを高精度に収集・計測できる「センサー付きグローブ」(手袋型ウェアラブルセンサー)を展示していたのは、日立製作所のブース。グローブに配置された、圧力や加速度、ジャイロ、地磁気、マイクなど複数のセンサーからの情報と、米子会社GlobalLogicのソフトウェア技術を組み合わせることで、熟練者の精緻な動きをデータ化して解析。製造不良の防止や技術の伝承に役立てることができる。デモでは、プロバーテンダーがシェイカーを振る動きのデータをもとに、ユーザーがどれくらい同じ動きができているかを評価するしくみが紹介されていた。
富士通のブースに用意されていたのは、高低差約1.6mのバンカー。実際のゴルフコースにある、難攻不落のバンカーを再現したものだという。カメラ映像から人の動きをデータ化する骨格認識AI技術と、ゴルフコーチングシステムを提供するAIGIAのスイング解析アプリケーションを組み合わせ、ユーザーのバンカーショットを解析。AIコーチから、解析結果をもとにしたアドバイスが受けられるしくみ。同社の骨格認識AIは体操競技の採点支援システムで培った、高精度な骨格分析技術をベースにしたもので、ゴルフのほかにも様々なスポーツで活用されているという。スポーツ、ヘルスケア分野だけでなく、たとえばセルフレジでの不正行為検知などにも応用可能とのことだ。
ヘッドフォンにカメラを搭載し、映像解析結果を音声で伝えるソリューションを出展していたのは、JVCケンウッド。「お久しぶりです」と話しかけられたのに、誰だかわからないといったよくあるシチュエーションで、ユーザーをサポートするといった使い方が想定されている。この場合は「久しぶり」などのキーワードがトリガーとなってカメラが起動。撮影された相手の顔をAIが解析して、データベースと照合し、誰なのか教えてくれるという。同じデバイスを使って、あらかじめ登録したNGワードをトリガーに自動的に撮影を開始。データを上司に送信する、カスハラ対策用のソリューションも紹介されていた。
このほか独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、大阪・関西万博に期間限定出展し、約7万人が来場した「LIFE 2050 パビリオン」の一部を、CEATECに移設。Apple Vision Proを用いて空間コンピューティング環境の未来の学び舎を、五感を使って体験できる『Live Anywhere / 星の島の学び舎』は、当日の予約分が即満員になるなど注目を集めていた。
また三菱電機では、裸眼でのXR体験を可能にする「CielVision(シエルビジョン)」を展示。高輝度かつ高精細でゆがみのない立体映像を空中に投影するもので、自由曲面ミラーを用いた独自の空中プロジェクション光学技術に、歪曲を補正する映像処理技術を組み合わせて実現している。明るい屋外かつ、壁などではなくユーザーの視界により近い空間へ、映像を表示することが可能。高速道路の進入禁止標識などを、ドライバーの目の前にわかりやすく表示することで、逆走の原因となる侵入を防ぐといった活用方法を紹介していた。
取材・文/太田百合子