選挙における買収は、なかなかなくならない
今年の夏は、政治が大きく変動するきっかけになった。
7月の参院選。選挙権を有する多くの方々が、暑い中での投票を行ったわけだが、この選挙の折に過去最大規模の公職選挙法違反があったことが確認されている。
朝日新聞が9月26日に報じた「パチンコ店公選法違反事件、捜査終結 摘発236人は平成以降で最大」という記事によると、この参院選で自社の従業員に対して、金銭を見返りとしてパチンコ店運営会社社長らが特定の候補への投票を呼び掛けていた。
このことが発覚し、社長以下複数名の幹部は公職選挙法に違反した容疑で摘発を受け、見返りとして現金を受けとった従業員らも書類送検されている。
その数、なんと236人。
これは平成以降の国政選挙では最大数の買収ということになる。
従業員らが投票の見返りで受け取った額は1人4,000円程度だったとのことだが、そんな少額で応じたばかりに被買収約束で送検されるというのは、全く割に合わない。
これほどまでの大規模な公職選挙法違反は稀に見るものだが、しかしこういったことは小規模であればいつわが身に降りかかるものか分からない。
そこで今回は、選挙において特定の候補に投票を呼びかけられた際に気をつけたい自身の対応。
これについての話をしていきたい。
抵触すると犯罪者に…代表的な選挙犯罪4例
選挙における違反行為。つまり選挙犯罪は、複数存在している。
総務省の公開している選挙違反についてのウェブページによると、大まかには4つ挙げられており、まずは冒頭でも触れた「買収罪」。
琴線だけでなく物品や接待などもアウトとなっており、その場での現金の授受がなくても、約束をしただけ違反となる。
買収を持ち掛ける側も、応じる側も選挙犯罪の当事者となるので要注意だ。
次に「利害誘導罪」。
こちらは特定の有権者に対して、寄付などの利害誘導を行った場合に成立する犯罪。
たとえば学校や組合、寺社仏閣などに対して寄付を行った上で「今度の選挙はどこそこに投票して」と要求するような行為。これを利害誘導罪として選挙犯罪の一つに数えている。
少し毛色は異なり、あまり通常の選挙では見受けることもない事例ではあるが、特定の有権者や、候補者への脅迫を行ったり、演説を妨害する形の言動も「選挙妨害罪」という犯罪になる。
選挙は妨害や買収などに影響されない、フェアなものなので、当然これも咎められる。
また、投票所で他人に成りすましたり、投票を寄贈したり、他者への勧誘を行うなども「投票に関する罪」として大まかに括られている。
あまり見ない事例ではあるが、他者に対して故意に投票先を変更させるという行為自体がご法度とおぼえておけばいい。
一方で選挙の際に、「〇〇さんに投票よろしく」と呼びかけられた経験は、恐らく多くの方が経験しているはず。
これは投票所での呼びかけや扇動とは異なり、あくまでも一般人が行う選挙活動であるため、問題視されない。
規定に則った形でのビラの配布もまた問題ではなく、正常な選挙活動の一環と見なされている。
基本的には相手に利益誘導をしたり、脅迫を以て投票させるといった行為が問題なのであり、それ以外の方法であれば特段問題はないということになる。
実際問題、自分より上の立場の者からお金を対価に見返りを要求された場合、どうすればカドが立たず授受を断れる?
しかしながら、投票先を誘導されるというのは金銭を提示されたり、半ば強制される形であったりなど、色々と断りにくいケースも考えられる。
冒頭で触れた大規模な違反行為の場合は、そもそも依頼してきたのがその会社の社長らであったので、従業員は断りにくい。
その上で金銭の授受もあったわけで、まさに「断りたくても断れなかった」というような事態だろう。
が、応じてしまえば同じように選挙犯罪の当事者になってしまう。
ここではどういった身の振り方をしていればよかったのか。
一番良いのは「最初からその候補に投票するつもりでした」とでも言って、金銭の授受も断ることだろう。
あるいは既に期日前投票期間に突入していた場合は「もう期日前で他の候補への投票を済ませてきました」と言っても良い。
そもそも投票とは他人に指示されて行うものではなく、公約や候補者のこれまでの歩みを見た上で個々人が判断することなのだから、仮に金銭をチラつかされても、応じては自分が損をするだけ。
それに、たった数千円程度で自分の意志表示を放棄するなんて、そんなのは勿体ない。せっかくの選挙権なのだから、自分の好きに行使しなければ。
もしもあなたが報酬を見返りとした投票を持ち掛けられたら…
選挙権を有する者が、特定の候補への投票を呼びかけられた場合、何が良くて何が悪いのか。
判断に苦しむ、ややこしいケースも考えられる。
金銭だけでなく、物品の授受も違反にあたると覚えておくことが、自分が選挙犯罪に巻き込まれるどころか、その当事者になってしまわないために大切なことだ。
金銭、物品を引き換えに特定の候補への投票を呼びかけられた際には、それが選挙犯罪であることを指摘して断るのが一番。
しかし立場的にそれが難しいのであれば、どうにかして金銭や物品を受け取らないように苦心するしかない。
ただ、現実問題としてそれができないから冒頭で紹介した事例のように大勢が書類送検される大規模な選挙犯罪が発生してしまうのだが、警察はそのような犯罪を決して許さない。
ああいった大規模な事例が自由な選挙参加への気風に影響を及ぼすことを懸念しているので、応じたら絶対に発覚する。だから断るぐらいの気持ちでいたい。
会社ぐるみの選挙犯罪の場合は、どのみち発覚したら会社の社会的な評価は地に落ちるため、こういったことがあった時点で割り切って転職を視野に動くのもいい。
そんな会社は、どのみち未来はない。
【参考】
朝日新聞 パチンコ店公選法違反事件、捜査終結 摘発236人は平成以降で最大
総務省 選挙違反と罰則
文/松本ミゾレ







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