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東京都心で家賃8万円台!想像以上に狭い「狭小ワンルーム」が若者に刺さる理由

2025.10.19

「家を買いたくても手が届かない」。いまの東京の住宅事情だ。目的を持って上京した若者が最初にぶつかる壁も、結局は住まいの問題かもしれない。

そんな中、近頃人気を集めているのが、激狭のワンルーム賃貸。都心に住むZ 世代を中心に、高い入居率を維持する物件が目立つ。

こうした「狭小物件」はなぜ人気を集めるのか。今回は、LIFULL HOME’S総研チーフアナリスト中山登志朗氏に、その実態を聞いた。

さらに後半では、首都圏で狭小ワンルーム賃貸物件を展開するブランド「QUQURI(ククリ)」の実例も紹介する。

地価が上がるいま、〝激狭〟に向き合う人たちの工夫を見てほしい。

「狭小ワンルーム」とは?

まず用語をそろえておきたい。厳密な業界定義はないため、ここでは専有10~15平方メートル前後のワンルーム賃貸を「狭小ワンルーム」と呼ぶ。

目安で言えば約6~9畳の空間に、ミニキッチン・トイレ・シャワーまでを収めたサイズ感だ。狭さは否めないが、短所だけではない。

何よりコスト面の利点が大きい。中山氏によれば、「同じエリア・同築年帯のワンルーム比で家賃が約2/3に収まるケースが多い」のだそう。面積が小さい分、光熱費も低く抑えられ、掃除は短時間で済む。モノを増やしにくい制約を身軽さと捉える層もいる。

入居者の中心は20歳代。2~3年程度の短期回転が目立ち、学校や職場に近い、「タイパ」「コスパ」を実現できる住まいとして機能しているのが実態だ。

なぜ「狭小ワンルーム」が人気なのか

「狭小ワンルーム」が人気となった理由について、中山氏は「コロナ明け以降、若年の単身者が都心回帰し、都心周辺の賃貸需要が再び厚くなった」と指摘する。

一方で、立地に対する要望はこの5年でほぼ変わっていない。下のLIFULL HOME’Sにおける問い合わせ物件の条件推移データでも、賃料・築年・面積に対する条件の理想は上下しているが、駅徒歩分数は安定している。つまり、「駅近で都心寄り」という条件の人気は相変わらず根強い。

問い合わせ物件の条件推移(2021–2025年、各年1–3月/東京23区・ワンルーム/1K)
出所:https://lifull.com/news/42735/

同期間にLIFULL HOME’Sへ掲載された物件のうち、問い合わせに至った物件の賃料・築年・専有面積・駅徒歩分数を集計。賃料・築年・面積は変動がある一方、駅徒歩数はほぼ横ばい。

しかし、需要増に供給が追いつかない。賃料は着実に上昇し、新規供給は地価の上昇に加え、資材や建材、人件費の高騰でハードルが上がった。結果、需給ギャップは解消されないまま、需要だけが増えていった。

そんな状況を打破したのが「狭小ワンルーム」である。

これまで集合住宅の新築が難しいとされた狭小地・角地・路地裏などの〝使いにくい土地〟を活用し、専有10~15平方メートル前後の小面積で駅近を確保しつつ賃料を抑えることを実現できた。

中山氏は「広さ」、つまり「スペパ」さえ折り合いがつけば、「狭小ワンルーム」でも快適に暮らせると述べる。

こうして、立地ニーズは守りながら家賃総額を下げるフォーマットが成立した。

〝手狭〟が魅力の賃貸物件「QUQURI」に潜入!

3階建て。外装もシンプルだ。

ここからは「狭小ワンルーム」の実例としてSPILYTUSが提供する賃貸住宅ブランド「QUQURI」を見ていく。

「QUQURI」は駅近で低家賃総額を狙ったシリーズで、恵比寿・中目黒・新宿など若年層に人気のエリアを中心に、東京23区で約1500室を展開している。

居室は10~15平方メートル前後。天井高やロフト、収納計画で使い勝手を高め、設計はモジュール化している。

2階の通路。広さはドア1枚分ながら、向かい合わない配慮がされている。

さらに、狭小地や角地を的確に押さえ、設計から建築、入退去やごみ・配送などの運用ルールまでを一貫して整えることで、駅近の立地を確保しながら賃料水準を保っているという。

端的に言えば、仕入れた狭小地を「QUQURI」建設用の用地として投資家に売却して資本を回しつつ、建物は標準化設計でコストと工期を平準化し、運用は共通ルールで安定させる。これがブランドの骨格である。

やっぱり想像以上に狭い!でも、それがいい!

これがモデルルームの間取り図。9平方メートルといえば、5.5~6畳くらいのイメージ。

まずはこの間取り図を見てほしい。ひと目で狭いと感じるはずだ。玄関を開けると正面に窓があり、室内はほぼ一望できる。

見せてもらったのはモデルルーム。テーブルと椅子が置かれ、両側の壁に棚が並ぶ。残る床はおよそ2メートル四方弱。ひとり暮らしなら身支度や家事は回るが、床に寝転がる余地はない。

必要なものが手の届く範囲に収まるのは便利だが、第一印象はやはり「狭い」。ただ、この先が面白い。奥へ進むある地点で、部屋の表情ががらりと変わる。

秘密基地を思わせる空間活用

天井が高く、エアコンは上部に設置されている。

ロフト下を抜けた地点で天井が一気に開く。ほぼ2層分の吹き抜けが生まれ、床から1メートルほど高い位置より始まる大窓から光が落ちる。視線の抜けと採光で、面積以上の広がりを感じるつくりだ。

はしごでロフトへ。壁の左側にははしごを収納するためのポールが見える。

右奥のはしごを上がるとロフト。ダブルマットレスと小さな棚が置ける程度の面積で、睡眠と収納に機能を絞った〝寝台〟として割り切っている。

リモコン、スイッチ、モニターを1箇所にまとめることで設備の設置コストも抑えられるという。

室内は設備と操作を壁面に集約している。コンセントとテレビ端子は部屋の右下1か所にまとめ、エアコンのリモコン、照明スイッチ、来客モニターも部屋の右側の壁にまとまって配置。鏡は姿見サイズを壁に埋め込み、物干しは室内物干しワイヤーで可動式にするなど、床を塞がない工夫が目立つ。

水回りはシャワーとトイレを分離。トイレはタンクレスタイプで奥行きを確保している。キッチンは一口コンロだが、下部に小型冷蔵庫スペース、その横に並ぶ棚は食品庫や食器棚として使える。シンク上には四段の棚が設けられ、縦方向でも収納の不足を補っている。

要するに、垂直方向の空間を使って、操作系のスイッチやリモコンは一所にまとめて、居住者が移動しやすい余白を作る。感覚的には〝秘密基地〟だが、やっていることは生活の動きを短くまとめ、余計なスペースを使わない工夫だ。

物件が建つエリアは住宅地で建物の高さ制限があるため、1階部分は半地下になっている。

実際、居住者はどのように生活しているのか?

居住者の実態について、SPILYTUSの森萌乃華氏と伊勢田梨歌氏に聞いた。

伊勢田氏によると「入居者は10、20代が約80%。内訳は、学生、転勤で上京した会社員、IT系、外資系、医療関係、士業の方などさまざま」だという。

寝室としてのほか、納屋として活用している人もいる。

暮らし方にはそれぞれ工夫がある。たとえば玄関にのれんを掛けて視線を遮る、突っ張り棒で壁面収納を増やすなど、手軽なアイテムで「見せない」「積まない」環境をつくる。テレビを置かない人も比較的多く、スマホで配信を視聴するスタイルも少なくない。

「物件の稼働率はおおむね99%。そのため内見なしで契約に至るケースも珍しくない」と森氏はいう。

立地と価格、そして手狭であるがゆえの意外な〝住みやすさ〟が、若い単身者の判断を後押ししている。

東京で頑張っている若者を応援したい

「QUQURI」はギリシャ語で、繭を意味する。名前どおり、羽ばたく前の準備を整える小さな拠点として、東京で頑張る若者を支えるブランドだ。

取材したエリアの相場は家賃10~13万円前後だが、今回の事例では管理費等込みで月8万2000円。さらに敷金・礼金なしの設定で、初期負担を抑えやすい。都心立地を維持しながら月額と初期費用を下げる設計は、上京直後の単身者にとって現実的な選択肢になる。

暮らし方にも変化が出る。部屋が小さいからむやみに買わない、という入居者が大半だ。結果として、タイパ、コスパ、スペパを重視し、ムダな出費を抑えたライフスタイルに自然と寄っていく。

建物内はシンプルな階段のみで、エレベーターはない。また、建物の入り口はオートロックとなっているものの、自動扉ではない。

必要最小限に絞り、移動しやすく、支出を抑える。そんな都市の生き方に、「狭小ワンルーム」はフィットしている。

小さな間取りが支える大きな挑戦

実は「狭小ワンルーム」は、ここ数年に突如生まれたわけではない。1980年代にも「狭小ワンルーム」の新築が増加した時期があり、都市で暮らす若者の選択肢となっていた。だが、1990年代半ばの景気後退や、2011年改定の「住生活基本計画・住生活基本法」に基づく25平方メートル基準(※)によって、一旦、「狭小ワンルーム」が新築されることは少なくなったという経緯がある。

(※)国土交通省が定める「健康で文化的な住生活を送るための最低限の広さ。

それが再び注目を集めるのは、都市の地価高騰や働き方の多様化といった時代背景があるからだ。広さの不利を補う工夫と、使い勝手を追求する設計によって、「狭小ワンルーム」は若者の暮らしを支える現実的な解となりつつある。

時代ごとにその姿は変われど、「狭さ」を受け入れても都市で挑戦したい人々のニーズは途切れない。「狭小ワンルーム」はこれからも、東京で頑張る人を応援し続ける住まいであり続けるだろう。

取材・文/内山郁恵

1967年生まれ。有明海の潮の満ち引きとともに育ち、大学では西洋史を専攻。なぜか秘書室で2年間を過ごしたのち、建築関係雑誌で記者デビュー。その後はインターネット関連企業で企画を経験し、現在はフリーライターとして歴史・建築・美術・地図を中心に執筆している。運動音痴であるにもかかわらず、ラグビー観戦に夢中で、年間20試合以上をスタジアムで応援するのがライフワーク。

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