10万円超のヘッドセット、SteelSeries「Arctis Nova Elite」がもたらす極上のサウンドを体験してみた
2025.10.24
ワイヤレスヘッドセットは、年々進化が目覚ましい分野の製品である。
かつてのワイヤレス音響機器といえば、「音ズレが酷い」「音質は及第点以下」「バッテリーの持ちが悪い」という代物だった。有線式に比べて、無線式はロクでもないほど低性能。少なくとも2010年代まではそんな具合だったはずだ。
今は違う。Bluetoothの通信速度も格段に改善され、バッテリー容量も大きくなった。動画視聴をする分なら音ズレも殆ど気にならなくなり、中にはゲームプレイでも使えるワイヤレスヘッドセットというものもある。
そしてついに、ワイヤレスでありながらハイレゾに対応するヘッドセットが登場した。それがSteelSeriesの『Arctis Nova Elite』である。
二子玉川で製品体験会
10月9日の午後、筆者は二子玉川 蔦屋家電にいた。SteelSeriesの製品体験会に参加するためだ。
この前日、筆者は別のメディアでの取材があり、都内で一泊してから二子玉川に向かった次第である。正直、だいぶ疲れている。今から始まる体験会も、早く切り上げてとっとと静岡に帰ってしまおう……という考えが頭を支配していた。
ところが、そんな考えは『Arctis Nova Elite』を見てから一気に吹き飛んだ。この体験会の案内が来た当初は新製品の詳細は伏せられていて、前日にやっと商品名を含めた具体的な情報が公開されたという経緯だったのだ。その上で、実際に製品を目の当たりにして、ある種の安堵感が全身に浸透した。「これは記事にするべき製品だな」と。
この日にPR TIMESで配信された『Arctis Nova Elite』のプレスリリースには、こうある。
『「Arctis Nova Elite」は単なる新製品ではなく、プレミアムゲーミングオーディオを再定義し、ゲーミングのあらゆる瞬間を特別なものへと変えるイノベーションです。「Arctis Nova Elite」は次世代LC3+コーデックを採用し、2.4GHzとBluetoothによる24bit/96kHz伝送で、より高音質なオーディオ音源を実現。
再現性の高いクリアな音質は、真鍮製フレームを施した特注の2ピース40mmカーボンファイバードライバーによって実現され、10Hzから40kHzまでの周波数を再生可能です。真鍮製フレームが剛性を高めることでドライバーを固定し、Pistonic(ピストニック)ドライバーが固定面上での正確な動きを提供することで、完璧な音の再現性を実現しました。』
(引用元:~いまだかつてない、サウンドの頂点~世界初Hi-Resワイヤレスゲーミングヘッドセット「Arctis Nove Elite」発表2025年10月17日(金)より日本全国順次発売-PR TIMES)※タイトルママ、正式には「Arctis Nova Elite」
正直、オーディオに詳しくない人は「次世代LC3+コーデックを採用」だの「2.4GHzとBluetoothによる24bit/96kHz伝送」だのはチンプンカンプンだろう。このあたりで、オーディオ機器のパフォーマンスを活字にする際の難しさがはっきり露呈している。
だからこそ、筆者が実際の製品に触れる必要がある。こうしたことは、AIにはできないはずだ。
「宇多田の曲」をハイレゾで
『Arctis Nova Elite』と接続した展示機に表示されていたのは、米津玄師/宇多田ヒカルの『JANE DOE』。画面には「ハイレゾ/48kHz」とある。今回はこれを聴いてみよう。
とはいっても、その感想は至って単純。「他のヘッドセットとは全然違う!」。
宇多田ヒカルは、筆者が中学生の頃に社会現象を起こした人である。それまでのJ-POPとはまったく異質の曲調で、「宇多田以前の曲」はみんな陳腐化してしまったほどだ。筆者も含めて、クラスの誰もが宇多田ヒカルのCDを購入していた。四半世紀以上前の話である。
しかし、この日ほど宇多田ヒカルの声を高音質で聴いた経験はない。
この曲の最中に宇多田ヒカルが息を吹きかける場面があるのだが、『Arctis Nova Elite』で聴くとそれが全身の肉……いや、骨まで震え上がるほどの臨場感なのだ。
そして忘れてはいけないのが、この『Arctis Nova Elite』がワイヤレスヘッドセットという点である。
ゲームをしながら別の音楽を聴くことも
『Arctis Nova Elite』にはオーディオミックス機器『GameHub』が付属している。
この『GameHub』は最大4つの入力(USB-C×3、Aux×1)に対応している。ということはどういうことかというと、ボイスチャットを利用しながらゲームをし、一方でゲームのBGMをOFFにして自分の好きな音楽を聴く……という離れ業ができるのだ。
たとえば、Steamで配信されている『Verdun』というFPSゲームがある。これは「世界一残酷なFPS」として名高い作品で、舞台は第一次世界大戦の西部戦線。不潔な塹壕の中、或いはその外側で血みどろの銃撃戦を繰り広げるのだ。
操作キャラにはHPという概念がなく、基本的には1発撃たれたら戦死。スポーンして早々、砲撃に巻き込まれて四肢が吹っ飛ぶということも珍しくない。1試合につき両軍合わせて3,000人ほどの戦死者を出すのが常であるが、何とそれだけの犠牲を出しても「引き分け」という展開がよくある。第一次世界大戦の理不尽な戦場を容赦なく再現したゲームなのだ。
そんな残酷極まりないFPSをプレイしながら、加古隆作曲の『パリは燃えているか』(NHKの『映像の世紀』のテーマ曲)を聞くことも、『Arctis Nova Elite』を使えば当然可能である。
そんな特殊な組み合わせで楽しむのは筆者だけかもしれないが、それでも「このゲームにはこの音楽」と考えている人は少なくないはずだ。
価格は堂々の10万円越え!
ただし、これだけの製品だから値段もそれに合わせた設定だということを断っておかなければならない。
参考価格は税込みで11万1,080円。この点を鑑みても、『Arctis Nova Elite』は外出時に携帯するようなものではないということが理解できるだろう。自室の中で趣味に没頭するためのガジェットなのだ。
言い換えれば、現代における「趣味」とはもはや「道楽」ではなく、可処分所得の大部分を割いても後悔することのない「文化活動」ということである。無謀な借金をしてまで趣味に打ち込む必要はないが、それでも大金を趣味に投じることで「希少性のある経験」をすることができるはずだ。
取材・文/澤田真一
【参照】
Arctis Nova Elite-SteelSeries
~いまだかつてない、サウンドの頂点~世界初Hi-Resワイヤレスゲーミングヘッドセット「Arctis Nove Elite」発表2025年10月17日(金)より日本全国順次発売-PR TIMES
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