
会社や学校のビルで快適に過ごせる……それって当たり前のようで、実は当たり前のコトではないのです。
ビルのメンテナンスには、何かと人手が要ります。安全対策のための見回り点検や、空調や照明設備の管理、もちろん、清掃も欠かせません。
しかし、そのビルメンテナンス業務がピンチなのです。急速な人口不足はビル管理にも大きな負担を生んでいます。
そのような環境下で、ビルはビルじゃなくなります。そうです「スマートビル」に進化するのです。
デジタル技術やデータを活用して建物の機能や価値を高め、利用するみなが快適&安全に過ごせ、仕事や勉強もはかどっちゃう……そんな素晴らしい建物が活躍しようとしています。
そこで、スマートビルへの進化に応えるため、パナソニックは警備・点検ソリューションを手がけるugo社とタッグを組み、サービスロボットの運用効率を高める技術検証を2025年9月に開始しました。
建物内を自走するサービスロボットの最新技術とはどのようなものか? ビジネスパーソンなら気になりますよね?
情報に敏感なみなさんのために、両社の実証実験をチェックしてきました。
「こりゃ、スマートビルにはロボットが必要だなぁ……」と実感したので、ご紹介します。
ロボットとビルOSが力を合わせてビルをスマート化する
みなさんはもちろん、パナソニックの社名をご存じだと思います。
一方、ugoの社名は、ほとんどの方が知らないはず。同社は2018年2月に設立されたスタートアップです。
代表の松井さんをはじめ71名の精鋭が、人とロボティクスを融合させて新しい社会システムを構築しようと、日々精進する気鋭の企業です。
そんなパナソニックとugoの出会いは、2023年にさかのぼります。
パナソニック エレクトリックワークスでは、スタートアップとの新たな事業の協業を目指す、アクセラレータープログラムを毎年行っています。
ugoは2023年度のアクセラレータープログラムに参加。パナソニック エレクトリックワークスと「業務DXロボットugoと設備システム連携による建物DXの実現」という未来の事業育成に取り組みました。
具体的には、ビルのフロア内のロボット稼働エリアの95%以上でロボット単独での運用ができるよう、天井に設置されたビーコン付き照明設備の情報をugoの自走式ロボットが感知して自動制御する、最先端技術の実用化を目指すものです。
協業の役割として、パナソニック エレクトリックワークスはビーコン付き照明設備の技術を提供し、ugoは自走式ロボットで自己位置推定や自動復帰の技術開発を行います。
そもそもパナソニック エレクトリックワークスには、「LiBecoM(リベコム)」と呼ばれる新無線照明制御システムがあります。
LiBecoMを活用する照明には、明るさや人感センサのオプション設定があり、人やモノ、外光などを検知して点灯・調光が自動でできます。
また、LiBecoMにはビーコンが搭載されており、天井立地を活用した位置情報に関するサービスが展開されています。
そんなパナソニック エレクトリックワークスの照明が発するビーコンの位置情報を、ugoのロボットが活用して自動制御運用を実現するのです。
ロボットがたくさん居ると〝わちゃわちゃ〟しちゃう
もし、フロアにテーブルや椅子などの什器、人などがなくてロボットが単独で動くなら、位置情報を採り入れた既存のマップに沿えば自動運転は容易です。
しかし、実際のオフィスや学校などのビルのフロアには様々な什器があり、荷物なども散在します。また、フリーアドレス化が進み、人の働く位置が日々変わることもしばしばです。
さらに、複数のロボットが稼働する運用も想定されます。
そんな複雑な環境で稼働エリアの95%を自動化するロボット制御は、想像以上に困難が伴います。
ugoのロボット「ugo mini」は、小型・軽量で静かな走行を実現しつつ、伸縮+チルト機構に4Kカメラを備えた、見回り点検専門モデルです。
そして「ugo mini」は、ビーコンによりゾーニングされた環境を共通MAPとして各ロボット間で共有し、〝わちゃわちゃ〟と鉢合わせするのを予防。スムーズな自動制御を実現します。
共通MAPの作成には、Wi-Fiやビーコンで人とロボットの位置情報を吸い上げてビルOS(Faccible)にアップ。そのMAP情報を、「ugo mini」はugo Platformを介して入手して、自動制御します。
また、他社のロボットとの相互稼働でも、ビルOSから共通MAPの位置情報を入手する仕組みを他社ロボットに持たせれば、協業が可能になります。
自己位置ロストからの復帰、異常対応、人の位置検出もスムーズ
2025年9月からの実証検証を受けて行われた、報道向けのデモンストレーションでは、3種類の検証が行われました。
1.自己位置ロスト時の自動復帰
2.照明制御による異常対応
3.共通MAPと人位置検出の連携
以上の3種です。
まず、1.のロスト時の自動復帰について。
従来は自己位置をロストしたロボットの場合、遠隔からリセットはできても、自動復帰は困難でした。
デモでは「ugo mini」を人間が持ち上げて移動させて、そこからの復帰を目指しました。
復帰への動きは滑らかで、Wi-Fiやビーコンなど無線による見回りロボットの自己位置ロストからの自動復帰は、すでに現実的だと実感させるものでした。
2.の異常対応では、以下のように「異常」と書かれた目標物を床面に設置。
そこに「ugo mini」が接近すると……
異常箇所で停止して、天井の照明を点灯。周囲への「異常」告知に成功しました。
最後に、3.の人位置検出のデモについて。
こちらは、フリーアドレスでの勤務が日常となり、MAP上に人物の現在位置を特定しづらい環境を想定。そこで、人が使うスマートフォンで照明が発するビーコンを感知&本人の位置特定をして、モノを届けるという実証です。
テレスコピックポールの上に取り付けられた台に、本人に渡すモノが置かれた「ugo mini」は、低騒音モーター(ダイレクトドライブモーター)により静かな移動を行い、目的の人物へ届けることに成功しました。
何となく、ファミリーレストランなどの配膳ロボットを想起させる動きですが、番地(テーブル)やルートが固定されている配膳ロボットとは異なり、ターゲットとなる人物の特定や目的地の探索などを、すべて自動制御していると考えると、複雑な制御を自動化する技術に驚かされます。
まずは照明制御の検証から。やがてはビル管理会社やメンテナンス会社のサポートが可能なロボット制御を目指す
パナソニック エレクトリックワークスとugoは、今後もロボットによる照明制御の実証検証を重ねる予定です。
そして、2027年をめどに、位置精度の向上やビル設備×ロボット連携の効率的な運用を可能とする、スマートビルでの標準化を提案する予定です。
さらに、2028年にはサービス提供開始を目指し、いずれはビル管理会社やメンテナンス会社の本格的なサポートに動き出す目標です。
さて、2020年代後半から30年代に向けて、ビルのスマート化は待ったなしの状況です。
高度にインテリジェンス化されたビルでは、AIを活用したロボットの活躍が当たり前になるのでしょう。
その礎(いしずえ)となるであろう、パナソニック エレクトリックワークスとugoのロボット開発の伸展が注目されます。
取材・文/中馬幹弘