
2025年7月18日に公開が始まった『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』。日本国内では公開73日間で興行収入350億6433万円を超え、すでに歴代興行収入ランキング2位を達成しています。1位は前作『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年)でしたが、それを超えるのも時間の問題ではと言われています。
とどまることを知らない鬼滅人気ですが、実はこの人気、日本国内だけではありません。全世界でも大ヒットとなり、驚くべき記録をどんどんたたき出しています。なんと全世界での興行収入は823億円を突破。これは前作「無限列車編」を抜き、すでに日本映画としての歴代興行収入1位を達成。各地域で見てもアメリカでは日本のアニメ史上初の2週連続1位を記録したり、公開されていない中国本土ではわざわざ香港まで見に行くファンがいるなど、世界中で大きな話題となっています。
各国での上映ですが、アジア地域では日本公開約1か月後の8月中旬から、ヨーロッパやアメリカでは約8週間遅れの9月11日前後から公開が始まりました。筆者の住むオランダでは当初9月12日公開開始とされていましたが、一日前倒しの11日から上映が始まることに。公開初日のチケットの売れ行きを見ているとほぼ満席の会場が多く見られました。また当初は2週間の上映予定しか出ていませんでしたが、公開後1カ月を過ぎても上映が続くロングランとなっています。
子どもがいない?観客はほとんど大人、その理由とは?
私は公開後初の週末にIMAXを事前予約していきました。アムステルダム郊外の大型シネコンでは、通常版の他に4DXとIMAXも上映。開場前にIMAXの残席状況を見ると、定員486席がほぼ満席でした。

映画館入口の掲示板にも鬼滅の刃が
客層は20~30代前後が最も多いようでした。男性同士のグループが多かったですが、カップルや1人で見に来ている人や50代以上の方も。日本人も何組か見ましたが、ほとんどがオランダ現地の方たちです。登場人物と同じ柄の羽織を着たり、キャラクターのキーホルダーをたくさんかばんにつけたりと、作品のファンだと一目でわかる観客もいました。
しかし気になったのは、日本人以外に子どもを見かけないということ。ほとんどが大人の観客です。本作はPG12指定がついていましたが、それは日本でも同様です。
実は本作、オランダ語の上映ではありませんでした。オランダ語の字幕も吹き替えもなく、どの映画館でも「日本語音声・英語字幕版」。また当地でも原作コミックが売られていますが、これもオランダ語版はなく英語版だけ。そういったこともあり「鬼滅の刃を知っている」という小中学生はかなり少ないのではと思います。
しかし母国語ではない上映にも関わらず場内が満員になっているという、その人気ぶりに改めて驚きました。

オランダの書店に並ぶ日本の漫画。英語版かドイツ語版で、オランダ語版は無い。
オランダで何度も映画を見ている筆者が初めて見た光景とは
筆者はこれまで何度かオランダの映画館で映画を見たことがありますが、途中で携帯を取り出してチェックしたり、おしゃべりをしたりという光景を何度か見てきました。でも今回はそのような様子は全く見られません。上映時間が2時間35分と長いので途中でトイレに立つ人はいましたが、非常にマナー良く見ているという印象でした。というよりも、セリフ量が多く母国語ではないということや、日本の大正時代という文化的な背景の違いなどもあり、字幕も集中して追いながら見ていたのかもしれません。ちなみに映画館によっては、途中休憩ありで上映したところもありました。
最も驚いたのが、上映終了時。通常はエンドロールの時点で席を立つ人が多いのですが、今回は全員が最後まで着席して見ていました。そして本当に上映終了となった時、会場から大きな拍手が沸き起こったのです。こんな光景は初めて見ました。海外の多くの人が作品への思いや賞賛を表していることに胸が熱くなりました。後日、息子が友人と4DX版で見に行った時には、隣の席の20代男性は嗚咽するほど号泣していたそうです。

映画館外に集まる鬼殺隊の羽織を着た海外ファンたち
それでも日本での鑑賞がうらやましい、ただ一つの理由
そんな日本の文化や作品作りに改めて感動できる海外での鑑賞体験でしたが、唯一日本の映画館がうらやましいものが。それがグッズの販売や入場者特典です。これらはオランダの映画館では一切ありません。というよりも、もともと飲食以外の物販がほとんどなく、映画のパンフレットやグッズというのは映画館で販売されていないのです。ましてや入場者特典など夢のまた夢・・・。こればかりは海外では得られないものです。一方アメリカでは、日本では販売されていないデザインのドリンクカップやポップコーンバケットが売られていました。海外でも地域によってグッズ状況は異なるようです。
なぜここまで人気となっているのか?
筆者は2021年6月に前作「無限列車編」も同じ映画館で観たのですが、その時は観客はここまで多くなく、ゆったり広々と鑑賞した記憶があります。しかしコロナ禍を経て日本のアニメ作品がオンラインで世界各国で視聴される機会が増えたり、日本だけではなく全世界を対象とした作品のプロモーション活動などの結果、世界的に作品の人気が高まっていったのでしょう。そして本作については、プロモーション映像で見る圧倒的な映像美や迫力の戦闘シーンなどが海外のSNSでも拡散され、多くの人が期待を寄せていました。海外ではアニメというと、広く一般的には「子どもが見る幼いコンテンツ」と思われがちです。しかしここまでのクオリティの映像、ストーリー、声優の演技が揃った本作はアニメーションの概念を覆すものだったのではないでしょうか。本作は最終章の第1部であり、この後第2部、3部が控えています。今後ますます、海外での鬼滅ファンが増えることは想像に難くなく、例えば海外でのグッズ販売や公式イベントなど、どのように波及していくか楽しみです。
文・写真/福成海央
オランダ在住、ミュージアム好きの科学コミュニケーター。気になったらとりあえずなんでも調べるし、なんでも書く。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員