
耐震診断をきっかけにリフォームがスタート
両親が亡くなって10年以上が経つ、一人っ子で未婚の筆者。実家を売るという決断がなかなかできず、1~2か月に1回、実家を掃除しに東京、京都間を往復していた。しかしコロナ禍となり、その間大病を経験した私は、50歳を機にこれからを考えるようになっていた。昨秋、「そうだ、京都に帰ろう」と東京生活にピリオドを打ち、四半世紀ぶりに京都に戻った。
我が家は京都の市街地にある。小さな庭を囲んで、2階建ての母屋に平屋の離れがあるという造りだ。家屋は阪神淡路大震災前の1994年に竣工した中古住宅を両親が2001年に購入したもので、築30年以上の建物。一人で住むには広すぎるのでマンションへの引っ越しも考えたが、近所の人は皆穏やかで、京都駅まで地下鉄で15分、バスターミナルもあるのでバスの便もよい。住みやすさ、利便性を考えると手放すには惜しい。近くには賀茂川が流れ、植物園もある。大徳寺や今宮神社も近く、イオンモールもある。住むには最高の環境だった。
オーバーツーリズムで京都のホテル代は高いし部屋は空いていないし、と嘆く友人たちがたくさんいる。それなら離れを客室にしてみてはどうか。そうすれば、一軒家に一人で暮らすのも寂しくないかもしれない。リフォームして実家に住もう、と決意した。
しかし家は両親が亡くなってから空き家状態。屋根の劣化は激しく、30年来のトイレもとっくに寿命を迎えている気がする。客間にしたい離れは物置小屋になって久しい。どの部分をどうリフォームしたらいいのか。ハウスメーカーに依頼することも考えたが、あまり大袈裟にはしたくない……そう思い悩んでいたとき、京町家に住んでいる知人が一級建築士のMさんを紹介してくれた。Mさんは戸建て住宅を設計する傍ら、京都市から依頼を受け、町家など耐震診断をしているという。まずは耐震診断を基準にリフォームを考えようと思い、離れの診断をMさんに依頼することにした。
阪神淡路大震災を受けて行われた2000年の建築基準法改正では、それまでの耐震性に対する認識が大きく変わり、特に木造住宅の耐震基準が見直された。しかし、離れを含めた私の家が建てられたのは改正以前。耐震診断は「倒壊する可能性がある」という結果になった。とくに問題となったのは、屋根材の劣化である。耐震補強として有効な構造用合板を下地に、屋根を葺き替えたほうがいいとのことだった。
耐震診断に真摯に取り組む様子や、家の現状もきちんと把握してもらったことから、リフォームはMさんに任せることに決めた。思い立って3か月、Mさんと耐震診断でよく一緒になるという工務店のSさんが二人三脚で我が家のリフォームを進めることになった。Mさんが工事内容を図面にし、Sさんはそれを元に現場調査したあとで、屋根、左官、サッシ、ペンキ、畳、クロス、電気、ガス、水道など職人さんたちに仕事を依頼、スケジュール調整や作業の指示を行う。
物置状態の「離れ」から長期滞在可能な「客間」に変身
離れはバス・トイレ付き、8畳の和室とキッチンスペースのある1Kである。家が建った当初、離れには前の持ち主のお母様が住んでいたという。
さてどこをリフォームすればいいのか?まず、耐震診断でも問題となっていた屋根。かなり費用はかかるだろうが、葺き替えることに決めた。そして家の中は玄関、風呂を除く、キッチン、和室、洗面所、トイレをリフォームすることにした。
補助金を利用して二重窓を設置、長期滞在も可能なコンパクトキッチン
まず、寒々しいキッチンの窓を「先進窓リノベ事業の補助金」を活用して、YKK apの内窓を付けて二重窓にした。これで夏は遮熱、冬は断熱効果が期待できる。母屋のキッチンの窓にも内窓をつけたため、あわせて97,000円の補助金の交付を受けた。
キッチンに面する壁はタイル張り、壁全体は木目調の壁紙が張ってあったが、全体を白い壁紙にし、キッチン周りは白いキッチンパネルで覆った。
リフォーム前の大きめのキッチンは30年もので劣化が激しかったので、LIXILのショールームに行き担当者と相談し、IHヒーター付きのコンパクトキッチン「ティオ」を選んだ。
全面琉球畳に張り替え、くつろぎの和室に
洋間仕様のためタイルカーペットが敷き詰められていた8畳間は、本来の和室に戻した。リラックスして過ごしてもらえるよう、畳は琉球畳を敷いた。雪見障子、襖紙も張り替えた。
洗面所、トイレは壁紙、床を張り替え、機器も一新
洗面化粧台とトイレはTOTOのショールームにて、実際に商品を見て選んだ。洗面化粧台は鏡と手洗い台だけのシンプルな、TOTOモデアシリーズ。洗面所は壁紙、床を新しくした。
トイレのタンクは手洗いありのピュアレストEXで、便座はアプリコットF1A。フチ裏がなく掃除がしやすくなった。ガス給湯器を新しくし、節水型トイレにしたことで、2024年度の「子育てエコホーム支援事業補助金」を申請することができた(当時)。壁紙と床も張り替え、床を上げてもらったため、扉の敷居との段差が解消された。
耐震性に有効な構造用合板を下地に使用し、屋根を葺き替え
リフォームのクライマックスは屋根。まずは既存の屋根材を取っ払っていく。
屋根の下地に取り掛かる。まず断熱材、その上に耐震性を高める構造用合板を敷く。そしてその上に下葺き材とも呼ばれる防水シートのルーフィングを敷いて、屋根の下地が完了。
地震時の揺れを小さくする軽量なスレート屋根「カラーベスト」を敷き、屋根の施工が完了し、5日間の作業が終了(ちなみにリフォーム前の屋根材もカラーベストだった)。京都は普通の住宅でも景観ガイドラインを守らねばならず、私が住んでいる地区は山並み背景型で、屋根の色は黒か濃いグレー、濃い茶色に限られる。屋根の色は以前と同じ、黒を選んだ。
一人親方が多いため断続的に行われた工事は3か月かかったが、オール京都の職人さんたちがわいわい集う、楽しいリフォームとなった。夏は酷暑でなかなか招待できなかったが、晩秋には東京から友人が泊まりにくる予定だ。
文・写真/国松薫