
■連載/阿部純子のトレンド探検隊
紳士服の「AOKI」は、現行事業モデルからの転換・刷新を図るべく2024 年から「LIFE&WORK STYLE」をビジョンに掲げ、新たな商品開発やプロトタイプ店舗の構想に取り組んでいる。
新生AOKIを体現する場として、「街の総合洋品店」をキーコンセプトに大型旗艦店のAOKI銀座本店をフルリニューアル。ビジネスのみならずカジュアルやレディースの売場面積を拡大した。
メンズコーナーは、コーディネートテーブルとインナー、シャツを中央に配置することで、ビジネス、カジュアルともにアイテムが選びやすく、会話を通じて買い物ができる環境を整備。AOKI店舗では初めて全身のスタイリングが確認できる三面鏡をフィッティングルーム前に設置した。
銀座という場所柄インバウンドも意識した銀座店独自のロイヤルスーツコーナーを新設。2025年秋冬においては REDA 社とのコラボレーションによりウール100%のロイヤルスーツの展開を強化していく。また、落ち着いた雰囲気で商品選びができるよう、レジカウンター横には重厚感のあるインテリアのヘリテージラウンジを新たに配置している。
ビジネス紳士服メインからビジネス、カジュアル、レディースの割合をほぼ均等に
AOKIは今年9月に「ビジネスウェアに関する実態調査」を実施。市場全体の変化、オン・オフニーズ、スーツ・ジャケットの価値観と役割など、ビジネスウェアを取り巻く環境についてユーザーへの調査を行った。
「2020年以降、私たちの会社は劇的な変化を遂げました。働く環境においてオンライン会議が浸透し、服装の自由化も一気に加速。服のカジュアル化が進み、かつてのスーツ一択という常識は過去のものとなりました。しかし、この服装の自由化は、皮肉にも服選びのストレスという新たな不自由を生み出しています。
『出社日は楽な格好がいいが、だらしなくは見られたくない』『数少ない面談の機会にきちんとした自分を見せなくてはならない』『TPOに悩み、朝の服装選びに時間がかかる』『スーツ以外のスマートスタイルで着てくださいと言われると困る』、今回の調査や私たちの店舗には、お客様からこのような切実な声が数多く寄せられています。
大切な場面でかた過ぎず、それでいてゆるすぎない、ほどよいきちんと感を持つスタイルを求めていく。お客様の切実な課題を解決するべく、私たちがたどり着いた答えが『SUITing(スーティング)』です」(株式会社AOKI 代表取締役会長兼社長 青木彰宏氏)
AOKIが提唱するスーティングとは、従来のスーツ商品、1着のスーツにボトム3本を合わせる「着回しクロススーツ」、ストレッチ性があり動きやすく、洗濯機で丸洗いできる「パジャマスーツ」まで、スーツが持つ信頼感、品格、仕立ての良さというDNAを受け継ぎながら、素材を変えて現在の多様な働き方やライフスタイルに合わせて、自由自在に組み合わせすることができるビジネスウェアの新概念。
セットアップとして着こなすことはもちろん、ジャケットやパンツをそれぞれ単品で使うこともでき、さらにインナーや他のパンツと組み合わせることで着回しの可能性は無限に広がる。
「スーティングをスタイルの軸に据えることで、いつでも誰でも迷うことなく、ほどよい“きちんと感”が手に入り、お客様の悩みを解決する最大の価値であると確信しています。スーティングの概念は、AOKIの成長戦略の背骨となるものです。
一方で、スーツやフォーマルウェアは、創業67年を迎えるAOKIの揺るぎない強みでもあります。スーティングの考えをしっかりと作りながらも、スーツを作る力と販売する力、この2つは我々の強みだと認識しています。
ビジネスもカジュアルもレディースも掛け合わせて、ほどよいきちんと感のあるスタイルを提案できる売り場構成や接客ができるよう、郊外の実験店でしっかりと検証し、検証の結果を銀座店に落とし込んでいます。
今後の展望として、2028年度までにフラッグシップ型、標準型、駅前型、SC型の類型に分けて全国200店舗の改装を目指していきます。また、従来はメンズビジネス、メンズカジュアル、レディースの7:1:2だった売上構成比を4:3:3を目標に取り組み、スーツ作りで培った技術を、カジュアルとレディースの領域に注ぎ込むことで、売上を現状の3倍以上に拡大させたいと考えています」(青木社長)
今回の調査で、コロナ前、コロナ後における、ビジネスウェアに求める要素の変化について尋ねたところ、スーツにかける費用を抑えたい、多様なシーンで着用したいという「カジュアル化による汎用性、経済性」と、従来のスーツを求める「フォーマル性」の2つのニーズが浮かび上がった。
「一つ目のニーズである経済的で使える商品については、スーティングを軸に商品開発を進めてきました。軽量ストレッチ、汎用性を備えた着回し黒スーツとパジャマスーツを組み合わせ、オン・オフ問わず様々なシーンで一着のスーツを着回すことを可能にしました。
二つ目のニーズはフォーマル性ですが、堅い職種である金融機関に至るまで服装規定が柔軟になり、オフィスカジュアルが浸透、脱スーツが進んでいる一方で、約30%の方は依然としてスーツを求めている現状がありました。また、フォーマルな装いとしてスーツを身にまとうことで、人前に出た際に自信が持てる、堂々と振る舞える、言論に責任感が生まれるなどといったお声も頂戴しています。
対面の場が貴重な今だからこそ、スーツを着ることで生まれる価値は多分にあると考えており、私たちは専門店としてスーツの価値を高めていくために、上質素材の『金のスーツ』や、REDA社とのコラボレーションなど、ものづくりをスーティングの技術でつないでいく取り組みを今後も進めていきます」((株式会社AOKI 取締役副社長執行役員 小出大二朗氏)
発表会には、文化服装学院で2017年から学院長を務めている相原幸子氏が登壇。スーティングは非常に面白い取り組みだと語った。
「一着のジャケットで何通りも楽しめるのは、着物の世界で言われている“着物1枚に帯三本”という感覚で、ビジネスでも、オフのときでも、改まった席でも、ジャケットをひとつ持っていれば着回しができるのは、今の時代にとてもぴったりだと思いました。
スーツへ対するニーズは時代によって変化しており、最近は軽くて着やすいジャケットが大変多くなっています。腕など自由に動かせる機能性も大事な要素のひとつ。なおかつシワになりにくく、洗濯できるといった手入れが楽なことも、服選びには大事なポイントでしょう。
スーツでも個性やセンスを表現したいという方は、最近のトレンドになっているビッグサイズのジャケットを取り入れるのはいかがでしょうか。例えばレディースでいつも9号を着用しているならば、11号や13号を着装してみては。自分は意外に13号の方が似合うということも発見できるかもしれません。
AOKI銀座本店は広い試着スペースがあるので、いろいろなサイズを試してみて、自分に合うジャケットを探していただけたらと思います」(相原氏)
【AJの読み】郊外型紳士服店を脱却し街の総合洋品店へ
2010年頃から、洗えるストレッチなど機能性スーツが登場し、2020年のコロナ禍以降、スーツは仕事着だけではなく、着心地の良い日常着の要素も求められるようになった。ファストファッションから機能性の高いジャケットやパンツが続々と誕生し、AOKIも「パジャマスーツ」のような、着やすくて着回しの効く商品を打ち出している。
「パジャマスーツ」は今年で発売から5周年を迎え、累計販売数は75万着を突破。2025年秋冬シーズンは、よりビジネスに適したスタイルを要望する声に応えて、上質素材を採用したプレミアムシリーズが登場。ワンラック上の素材を使用しながらもジャージならではの動きやすさと着心地の良さに加え、別カラーの上着を組み替えることで様々な着こなしができる汎用性と快適性を兼ね備えている。
新生AOKIはスーティングの概念のもと、オフィシャルとカジュアルをシームレスにつなぐ、より自由なスタイルへと進化させる店舗づくりにシフト。新生AOKIを象徴する店舗がフルリニューアルしたAOKI銀座本店となる。
今後は、メンズビジネス、メンズカジュアル、レディースの売り上げ構成比を40%、30%、30%を目標に設定し、「郊外型紳士服店」から「街の総合洋品店」へ転換を図る。
取材・文/阿部純子