日本の伝統芸能の一つである歌舞伎。初心者には難しいと思われがちですが、音声ガイドや一幕のみの席もあり、気軽に観ることができます。初めての人におすすめの歌舞伎の楽しみ方をまとめました。
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映画『国宝』のヒットをきっかけに歌舞伎に興味を持つ方が増えています。歌舞伎はユネスコ無形文化遺産にも登録されている日本の伝統芸能の一つ。しかし、実際に観にいくとなると、「難しそう」「何を言ってるかわからないかも」と二の足を踏んでしまう方も多いのではないでしょうか。
実は、歌舞伎の公演は、初心者でも気軽に楽しめるよう様々な工夫やサービスが提供されています。
本記事では、歌舞伎を初めて観る方向けの基本情報や席の取り方、おすすめの演目などを解説します。
歌舞伎初心者が知っておきたい歌舞伎の基礎知識
歌舞伎は400年以上の歴史を持つ日本発祥の伝統芸能――そう聞くと、尻込みしてしまいそうですが、現代まで親しまれてきた民衆向けのエンターテイメントでもあります。
まずは、ざっくりした歌舞伎の歴史と観劇時のポイントをチェックしてみましょう。
■歌舞伎の魅力は?
歌舞伎は、出雲(いずも)の阿国(おくに)を起源として1603年頃に始まったとされます。舞踏をベースとした独特の演技に、華やかな衣装、役者を引き立てる音楽などが一体となった総合芸術であり、江戸時代の様々な階級の人たちに親しまれました。
愛憎や義理人情といった普遍的なテーマを扱い、現代人の心にも響く演目が多いのが特徴です。特に女形(おんながた:男性が演じる女性役)の優美な演技は、歌舞伎ならではの魅力と言えるでしょう。
舞台装置も見どころの一つ。回り舞台(まわりぶたい:舞台が回転して場面転換する仕掛け)や花道(はなみち:客席を通る舞台への通路)などの仕掛けによってダイナミックな場面転換や役者の登場シーンを楽しむことができます。
■初めてでも大丈夫!歌舞伎観劇前の心構え
歌舞伎を初めて観る時に多くの方が感じるのが、「内容がわからないのでは?」という不安。しかし、一つ一つの台詞や場面の内容を完璧に理解する必要はありません。視覚的な美しさ、音楽、役者の演技などをピンポイントで楽しむのも立派な歌舞伎の楽しみ方です。
もちろん、内容をしっかり聞き取りたい・理解したい人のための音声ガイドや字幕サービスも充実しています。
■歌舞伎の「何言ってるかわからない」への対処法~音声ガイドと字幕サービス~
歌舞伎の台詞は独特の発声法や古語で語られるため、初めての方には聞き取りにくいことがあります。
舞台を見ながら台詞や物語も追いかけたい場合は、イヤホン式の音声ガイドがおすすめ。歌舞伎座や国立劇場では当日有料(500〜800円程度)で貸し出されており、あらすじや見どころをリアルタイムで解説してくれます。
歌舞伎座では字幕サービス(有料1,000~1,500円程度)も提供。タブレット型の表示機器に台詞の文字が表示されるので、役者の声を聞きつつ内容を理解できます。公演によっては英語字幕にも対応しています。
歌舞伎初心者におすすめの演目5選
初めての歌舞伎は、どの演目を選ぶかも悩ましいもの。400以上ある歌舞伎の演目の中から初心者におすすめの演目をご紹介します。
■歌舞伎初心者におすすめの演目1:ストーリーがわかりやすい
・勧進帳
源義経と弁慶の主従愛を描いた物語。シンプルでわかりやすいストーリーが特徴です。一幕物として上演されることが多く、60〜90分程度と比較的コンパクトな上映時間中に、見得(みえ:決めポーズで動きを止める演技)などの見どころが凝縮されています。
・義経千本桜
源義経にまつわる伝説を題材にした物語で、源平合戦後の義経を平家の残党との対立などを絡めて描きます。有名な場面が多く、視覚的な華やかさも楽しめる歌舞伎三大名作のひとつです。
■歌舞伎初心者におすすめの演目2:華やかさを楽しめる
・藤娘
藤の精が娘の姿で現れる優雅な舞踊です。女形の美しい所作と豪華な衣装が見どころの演目。台詞が少ないため、劇中の言葉がわからなくても十分に楽しむことができます。
・連獅子
親子獅子の絆を描いた舞踊で、最大の見どころは長い髪を振り回す毛振りの演技です。ダイナミックで迫力満点の舞台は、歌舞伎の身体表現の素晴らしさを実感できるでしょう。
■歌舞伎初心者におすすめの演目3:ドラマチックな展開を楽しめる
・仮名手本忠臣蔵
忠臣蔵として日本人になじみ深い物語です。全11段の大作ですが、初めての方は代表的な段を選んで観るのがおすすめ。人気なのは「大序」や「七段目(祇園一力茶屋の場)」で、緊張感のある展開を楽しめます。
このような長時間の演目を名場面だけ観たい場合は、後述の「一幕見席」を活用すると良いでしょう。お手頃価格で見どころをピンポイントに楽しむことができます。
歌舞伎の席選びのポイントと劇場での楽しみ方
初めての歌舞伎では迷いがちな席選び。初心者におすすめの座席とおおよその価格帯をチェックしましょう。
■初めての歌舞伎、どの席を選ぶ?
・1階席
舞台と花道が近いため、役者の表情や衣装の細部まで楽しめます。価格は1万5,000円〜2万円程度が相場。
・2階席・3階席
舞台全体を俯瞰で見られます。回り舞台の動きなど舞台装置がよく見えるのもポイント。価格は4,000円〜1万円程度とリーズナブルで初めての歌舞伎におすすめです。
・一幕見席
特定の段(幕)だけを観る席で、歌舞伎座の4階に設置されています。料金は1,000〜2,000円程度で、当日販売が基本(前日Web予約可)です。少ない予算で本格的な歌舞伎を体験できます。
■歌舞伎を観るときの持ち物や服装は?
歌舞伎にドレスコードはなく、普段着や外出着で大丈夫。長時間座っていても疲れにくい服装を選ぶと良いでしょう。
持ち物ではオペラグラスがあると役者の表情をアップで見ることができます。
■歌舞伎座以外でも歌舞伎を観られる?
歌舞伎を観られる場所としては歌舞伎座が最も有名ですが、他にも新橋演舞場、明治座などで歌舞伎公演が行われています。また、大阪の松竹座、京都の南座など地方でも定期的に歌舞伎を楽しめます。
初心者が歌舞伎を10倍楽しむための事前準備と当日のコツ

歌舞伎を楽しむために詳しい知識は必要ありませんが、知っておくと楽しめる観劇前の準備と当日の過ごし方をご紹介します。
■観劇前にやっておくと良いこと
演目のあらすじを公式サイトや劇場のパンフレットでチェックしておくと、登場人物の関係性や物語の背景がわかるため理解度が深まります。
また、出演する歌舞伎役者には代々続く屋号(やごう:役者の家名)があります。ざっとでも調べておくと、当日をより深く楽しめるはず。
■観劇中の楽しみ方のポイント
歌舞伎では、客席から役者に「屋号」のかけ声が飛びます。役者が見得を切る瞬間などに「成田屋!」「音羽屋!」といった声が響くのは、歌舞伎ならではの醍醐味。回り舞台や花道からの登場シーンなど独特の演出も楽しめます。
場面を盛り上げる三味線や太鼓、笛などの生演奏も歌舞伎の重要な要素。台詞や内容がわからなくても、舞台の仕掛けや音楽、役者の立ち振る舞いなど、感覚的に楽しめるでしょう。
また、幕間(まくあい)と呼ばれる休憩時間には、劇場内のお弁当を楽しんだり、お土産ショップで記念品を探したりするのも歌舞伎の楽しみ方のひとつです。
■歌舞伎初心者がつまずきやすいポイントと対策
歌舞伎の公演は3〜4時間に及ぶこともあり、長時間の観劇に慣れていない方は疲れを感じるかもしれません。幕間の休憩時間は、席を立って軽く体を動かしたり、お茶を飲んだりすることで、後半も集中して楽しめます。
もし途中で眠くなってしまっても自分を責める必要はありません。歌舞伎は長い歴史の中で観客が自由なスタイルで楽しんできた芸能です。観劇後は印象に残った場面をメモしておくと、次の観劇に活かせるでしょう。
文/長尾尚子







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