
キャデラックの電気自動車のファーストモデル、ラグジュアリーモデルがリリックだ。日本仕様はリリックスポーツというグレードであり、キャデラックとして久しぶりの右ハンドル仕様となるのも大きな特徴となる。
堂々としたボディサイズと加速力
時代にフィットしたクロスオーバースタイルは伸びやかでスタイリッシュ。縦長のLEDヘッドライト、これまた縦長のリヤコンビランプあたりはキャデラックの伝統が受け継がれているが、通風孔なしのフロントグリル(本国仕様ではイルミネーションが付くらしい)は、リリックが電気自動車であることの証となる。堂々としたボディのサイズは全長4995×全幅1985×全高1640mm。ホイールベース3088mm。車重は2650kg。駆動方式は4WDで、フロントモーター最高出力170Kw(231ps)、最大トルク309Nm。リヤモーター最高出力241kW(327ps)、最大トルク415Nm。システム最大出力384kW 約522PS、システム最大トルク610Nm、62.2kg-mに達する。システム最大トルク610NmはメルセデスベンツG500、トヨタ・センチュリーSUVと同じ。0-100km/h加速はこの巨体にしてかなり速い5.5秒とされている。
リリックの足元を支えるタイヤは前後275/45R21サイズ。前後重量配分は理想に近い51:49とのこと。かんじんの一充電走行距離はバッテリー容量95.7kWhから最大510km。充電は自宅などでの100/200V、そしてCHAdeMOの急速充電に対応する。50Kwの急速充電の場合、30分で約120km、90kWであれば30分で約150km走行分の電気が入るとのことだから心強い。
床下にバッテリーを積載するためやや高めのフロアとなるリリックスポーツの先進感とセンスの良さがある室内に乗り込めば、まずはメーターとインフォテイメントが合体した33インチもの日本語表記ディスプレイ、大面積のガラスルーフに目を奪われる。そして、インタラックスと呼ばれる合皮の表皮が奢られた、分厚いソファのような、しかし適度に心地よくホールドしてくれるシートのかけ心地の良さにも感動である。
「軽快」と言っていいほどの加速力
さて、ステアリングコラム右側から生えたシフターを操作して走り出せば、出足の一瞬はいかにも2650kgの重量級の巨体を動かし始める「重さ」を感じるものの、そこからは「軽快」と言っていいほどの加速力を、強大なトルクによって発揮してくれた。とにかくウルトラスムーズで静かで、アクセルペダルを深く踏み込めば、血の気が引くほどの加速力を披露してくれる動力性能の持ち主だった。
乗り心地は21インチの大径タイヤを履いていながら、フラットで、ときにうねり路面ではキャデラックらしいフワリとした、しかし抑えの効いたタッチを示し、シートのかけ心地の良さもあって快適感は文句なし、いやクルマとして最上の部類に入ると言っていい。電気自動車は動力源=エンジンからのノイズがないため、静かで当たり前というイメージがあるが、ロードノイズや風切音が難敵。が、リリックの場合、2重のフロント&サイドガラス、5mm厚の強化リヤガラス、そして新世代のアクティブノイズキャンセリングシステムによって、外界と遮断された車内の静謐さを実現しているのである。つまり、キャデラックと言えばのAKGのプレミアムサウンドシステムを最高のリスニング環境で聴かせてくれるということでもある。
今回の試乗はゼネラルモーターズ・ジャパン本社のある天王洲アイル付近を起点に、混雑した一般道から首都高に乗り、湾岸線を経由して横須賀に降り立ち、市街地を走行するルートだったのだが、公園の駐車場ゲートの通過、マルチビューモニターが活躍する駐車を含め、全長4995×全幅1985mmの巨大をことさら意識することはなかった(試乗前には多少、緊張していたのだが)。自宅の駐車場に余裕があり、極端に狭い道を通らなければ、意外にも、すぐに慣れる運転感覚であると言っていいのではないだろうか。
重めの操舵感を示すパワーステアリングによる手応えある操縦性は、電気自動車ならではの重心の低さ、理想的な前後重量配分、強力なリヤモーターの恩恵もあって、これまた意外なほどスポーティ。キビキビとは言わないものの、実に自然なドライブフィールを味わせてくれたのだった。とくに中間加速のウルトラスムーズぶりは、高級高額な電気自動車の中でもトップクラスに入るほどで、ツーリング、スポーツ、スノー/アイス、マイモードが選べるドライブモードセレクターをスポーツにセットしようものなら、車重を感じさせない怒涛の加速力を伸びやかに発揮してくれるのだから、走りは痛快・爽快でもある。
ステアリング右側の回生ブレーキシステムを活用したバリアブル回生オンデマンドシステム=ワンペダルモード(オフ/オン/高に設定可)のパドルスイッチを操作すれば、ブレーキを踏まなくても確実な減速から完全停止までを行ってくれるため、ブレーキ操作の代わりにもなり、山道や混雑した道での走りやすさはもちろん、運転のストレス軽減が図れること請け合いである(ブレーキバッドの減りも低減できるはず)。
ところで、リリックのエアコン吹き出し口、USB-C、ACコンセントを備える後席スペースだが、身長172cmの筆者のドライビングポジション基準で後席頭上に150mm(ガラスルーフ部分)、膝周りに230mmの余裕があった。外から見ると天井が低そうだが、身長185cmの乗員が座っても、ややひざが立つ姿勢にはなるものの、頭上方向に窮屈さなど感じなかったそうだ。
ラゲッジルームは後席使用時で792L、後席をラゲッジルーム側のスイッチで倒せば1722Lに達する。開口部に段差がなく、重い荷物の出し入れもしやすい、床下収納もしっかりとある使い勝手抜群のラゲッジルームと言えるだろう。ちなみに、リヤ側からをパワーでバックドアを開けるには、リヤのキャデラックエンブレムを押せばいい。
横須賀からの帰路は、初秋とはいえ気温28度の夏日。強力なエアーコンディショナー、シートベンチレーションの装備で車内は快適至極。静かで居心地のいいプレミアムな空間でAKGの19スピーカー(キャデラック初のダクト付きサブウーファー含む)、14チャンネルアンプによるプレミアムサウンドシステムの音楽を堪能することもできた。
もちろん、先進運転支援機能も充実。アダプティブクルーズコントロールによる悠々としたキャデラックならではの上質でラグジュアリーを極めたクルージングを楽しむ余裕も生まれるというわけだ。1100万円のプライスは決して安くはないが、それに見合うキャデラックブランドのラグジュアリーSUVの世界がそこにあった。
文・写真/青山尚暉