世界大会で2位の実績を持つeスポーツ選手が関係したショッキングな事件が先頃ニュースになったが、プロゲーマーやゲーム実況者の言動はなぜか〝炎上〟しやすいともいわれている。ゲーマーには社会通念を欠いた〝変人〟が多いのだろうか?
プロゲーマーやゲーム実況者は“炎上”しやすい?
しかし特定の対象が起こした出来事について安易に「またか!」と感じて偏見を強めてしまうことは「ギャンブラーの誤謬(gambler’s fallacy)」として知られる認知バイアスである可能性も大いにあり得る。
〝炎上〟はあくまでも個別具体的な現象であり、類似の出来事が続いたとしても不思議なことではない。対象と出来事の強い関係を検証することなく安直に結びつけてしまうのは拙速に過ぎるのだ。
そして新たに発表された研究でもビデオゲームを常習的にプレイする者は、感情のコントロール、対人関係、防衛機制(defence mechanism)といった基本的な心理機能において、非ゲーマーと大きな差がないことが示唆されている。
トルコの健康科学大学(University of Health Sciences)の研究チームが今年8月に「Psychological Reports」で発表した研究では、ゲーマーと非ゲーマーの心理的特性において有意な違いはないことが報告されている。
頻繁なゲームプレイは性格を変えるのか?
ゲームに関する世の認識は、メンタルに有害であるとの見方と、脳にも良い有益な趣味であるとの見方の間で揺れ動くことが多い。ビデオゲームにまつわる懸念は、これまで主に依存、社会的孤立、感情制御の低下などのリスクが危惧されてきた。
同時に研究者たちはゲームプレイには認知的および社会的メリットがあることも指摘している。しかし常習的なゲームプレイが人格形成、防衛機制、そして対人交流での感情的な絆を形成し維持する方法など、心理機能のより深い側面に影響を与えるかどうかを検証した研究はこれまでほとんどなかった。
そこで研究チームはより精神分析的かつ臨床心理学的な枠組みを用いてこの問題を評価することを目指し、頻繁なゲームプレイが心理機能の違いを生み出すのかどうかの検証に取り組んだのだ。
調査に参加した18歳から44歳までの762人のうち345人がゲーマー、407人が非ゲーマーであった(10人は分類不可)。ゲーマーとはMMORPGやFPSといった長期に関わるゲームに週に8時間以上ゲームをし、ゲームを有意義な活動だと認識している者で、非ゲーマーはゲームをまったくしないか、しても週に8時間未満でゲームを人生においてそれほど重要視していない者である。
参加者は心理的特性を評価するための自己申告課題を行い、人格障害、感情制御障害、防衛機制(ストレスや内的葛藤を無意識に管理する方法)、対象関係(感情レベルで他者をどのように認識し、どのように相互作用するか)のスコアが測定された。
ゲーマーと非ゲーマーに本質的な違いはない
研究チームは年齢なども考慮に入れて分析した結果、ゲーマーは反社会性および統合失調型特性のスコアがわずかに高かったのに対し、非ゲーマーは回避性および依存型特性のスコアがわずかに高かった。
疎外感、不安定な愛着、自己中心性、社会的不適格といった概念を含む対象関係(object relations)に関しては、両グループ間に有意な差は見られなかった。
葛藤や苦痛に対処するために用いる無意識の戦略である防衛機制については、ゲーマーは非ゲーマーよりも成熟した防衛手段をより頻繁に用いることが判明した。一方で非ゲーマーは神経症的な防衛手段をより多く用いる傾向が見られた。つまりゲーマーは非ゲーマーよりも適応的な対処戦略を採用する可能性が高いことになる。
感情制御に関しては、年齢を考慮するとほとんど違いがないことが示された。
研究チームの結論は、総じてゲーマーと非ゲーマーの性格特性に本質的な違いはないと説明している。対象関係といった中核的なエゴ機能(ego functioning)において、ゲーマーは非ゲーマーと顕著な差がないことが示唆される結果となった。
ゲームは文学、映画、スポーツと同様の文化活動
研究にはいくつかの限界があり、最も顕著なのはグループ間の男女比の不均衡で、ゲーマーのグループは男性の割合が高かった。
また参加者をゲーマーと非ゲーマーのグループに分類する際、自己申告によるゲーム時間と主観的な重要性に基づいていたため、ゲーム時間は少ないもののゲームに高い感情的価値を置いている者はヘビーゲーマーに近い可能性がある。
因果関係についても限界があり、ゲームが特定の心理特性の発達を促進するのか、あるいは特定の特性を持つ者がゲームに惹かれやすいのかは依然として不明である。
これらの限界はあるものの、本研究はゲーマーと非ゲーマーを比較した際のエゴ機能と性格特性に関するより包括的な評価を提供し、ゲームが心理的発達を本質的に阻害するものではなく、場合によっては適応的特性と関連している可能性さえ示唆するものにもなっている。
研究チームは今やビデオゲームは文学、映画、スポーツと同様に、個人がスキルを試し、人間関係を築き、アイデンティティを探求する文化的な活動となっており、そうした理解によって「善か悪か」という単純な枠組みから脱却し、ゲーマーの心理をより繊細に理解できるようになるということだ。
ゲーマーにも変人はいるかもしれないが、それは世間一般の“変人率”と変わらないということになりそうだ。悪評がいくつか続いたとしても「ギャンブラーの誤謬」に陥る愚を避けなければならない。
※研究論文
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/00332941251370255
※参考記事
https://www.psypost.org/gamers-show-no-major-psychological-disadvantages-compared-to-non-gamers/
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取材・文/仲田しんじ







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