
近年では、夫婦の形は多様であるという認識が社会的に広まっているように思います。その中でも、最近賛否を呼んでいるのが「オープンマリッジ」です。
オープンマリッジは、伝統的な一夫一妻制の結婚観とは異なる部分があるため、日本の法律上さまざまな問題点を含んでいます。特に、実際に配偶者以外の人と性的関係を持った場合に、離婚請求や慰謝料請求が認められるかどうかは大きな問題と言えるでしょう。
本記事では、オープンマリッジに関する法律上の問題点を弁護士が解説します。
1. オープンマリッジとは?
「オープンマリッジ(open marriage)」とは、夫婦双方が合意して、相手が自分以外の人と性的関係を持つことを認めることを意味します。1970年代にアメリカの社会学者によって提唱されました。
日本のような一夫一妻制の国では、配偶者以外の人と性的関係を持つことは通常認められません。しかしオープンマリッジでは、このような結婚観を前提とせず、自由な性交渉を夫婦双方が相互に承認し合います。
2. オープンマリッジ下で他人と性的関係を持った場合、離婚請求は認められるか?
オープンマリッジを選択した後、実際に夫婦の一方が、配偶者以外の人と性的関係を持ったとします。この場合、夫婦のもう一方による離婚請求は認められるのでしょうか?
2-1. 不貞行為に当たるか?
夫婦が合意すればどのような理由でも離婚できますが、どちらか一方が離婚を拒否した場合は、裁判所に離婚を認める判決を出してもらわなければなりません。
裁判所が離婚判決を言い渡すのは、「法定離婚事由」が存在する場合に限られています(民法770条1項)。
法定離婚事由の一つに「不貞行為」があります。不貞行為とは、配偶者以外の人と性的関係を持つことを意味します。
オープンマリッジを選択した夫婦の一方が、配偶者以外の人と性的関係を持った場合、形式的には不貞行為に該当するように思われます。
また、オープンマリッジが不貞行為を相互に認めるものだとすれば、そのような合意は公序良俗(民法90条)に反し無効だという考え方もあります。
他方で、オープンマリッジで夫婦双方が合意しているなら、配偶者以外の人と性的関係を持っても不貞行為に当たらないという考え方も、あながち不合理とは言えません。
現在のところ、実務上確立された取り扱いは存在しないと思われます。
2-2. 仮に不貞行為に当たるとして、離婚判決は得られるか?
オープンマリッジ下で配偶者以外の人と性的関係を持つことが(仮に)不貞行為に当たるとしても、裁判所が一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚請求を棄却できるものとされています(民法770条2項)。
オープンマリッジの合意を証明できれば、裁判所が離婚請求を認容すべきか、それとも棄却すべきかを判断する際に、その合意を全く無視することは考えにくいです。
ただし、「オープンマリッジの合意があるなら離婚請求は認めない」と単純に判断するとも思えません。裁判所はあくまでも「夫婦関係を続けさせるべきか否か」という観点から、総合的に判断すると思われます。
たとえば夫婦の協力関係の状態、子どもの有無、性的関係を持った相手方との関係性、オープンマリッジ状態が続いていた期間などが考慮されることになるでしょう。
3. オープンマリッジ下で他人と性的関係を持った場合、慰謝料請求は認められるか?
通常の夫婦であれば、一方が配偶者以外の人と性的関係を持った場合、もう一方は不法行為に基づく慰謝料を請求できます。
ただし不法行為が成立するためには、被害者の権利や法律上保護される利益を侵害するものであることが必要です。
オープンマリッジの合意をした場合、「配偶者が自分以外の人と性的関係を持たない」という利益を自ら放棄しているように思われます。この考え方に立てば、慰謝料請求は認められないことになります。
なお、オープンマリッジの合意が公序良俗違反により無効と判断される余地もあるなど、実際の結論は具体的な状況によって左右され得る点にご留意ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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