
■連載/阿部純子のトレンド探検隊
2020年に創業した国内唯一のスタートアップ系クレジットカード発行事業者「ナッジ」はサービス開始4周年における発表会を開催し、ナッジ株式会社 代表取締役 沖田貴史氏が、国内初となるステーブルコイン「JPYC」払いの受付を開始したと発表した。
VISA加盟店において円建てステーブルコイン「JPYC」での買い物が可能に
次世代クレジットカード「Nudge(ナッジ)」を展開している同社は、「認定包括信用購入あっせん業者」として勤務先や勤続年数などの属性情報に依存しない独自の審査モデルを活用した提携クレジットカードを推進しており、これまでに累計約50億円を調達している。
「日本のキャッシュレス比率は42.8%に達したものの、依然として現金派が多く、とりわけ若年層のクレジットカード利用率は20代で73%、10代では24%にとどまっています。ナッジはこの未開拓市場に着目し、Z世代を主要ターゲットに据えたサービスを提供してきました。その結果、現在ユーザーの約7割を10~20代が占め、ファーストカードとして日常的に利用されるまでに浸透しています。
Nudgeの最大の特徴は、若年層の価値観に即したサービス設計にあります。従来の『毎月一度の口座引き落とし』に縛られず、アルバイト収入や給料日に合わせて『いつでも好きなだけ返済』できる、柔軟な仕組みを提供しています。
申し込みから利用管理まで全てをスマートフォンアプリで完結させ、心理的、手続き的ハードルを下げています。また、170以上の提携先と300種類を超えるカードデザインを用意し、利用額の一部を応援対象に還元することで、カードを“金融ツール”から“推し活の公式グッズ”へと昇華させてきました」(以下「」内、沖田氏)
Nudgeカードは10月をめどに、円建てステーブルコイン「JPYC」での返済受付を開始する。これにより、世界中のVISA加盟店においてステーブルコインでの買い物が可能となる。
ステーブルコインは、現実資産と価値が連動するように設計された仮想通貨(暗号資産)の一種。世界的に市場が急拡大しており、発行総額は2,500億ドル(約42兆円)を超え、オンチェーン上での取引量はVisaやマスターカードを上回っていると報告されている。
日本では、JPYC社が今年8月に「資金移動業者」の登録を得て、今秋に国内初となる円建てステーブルコインの発行が予定されている。
ステーブルコインは金融機関や事業者での幅広い活用が期待される一方、日常生活で広く利用するためには、「利用可能店舗の拡大」と「身近なインターフェースの整備」が不可欠となる。
サービス開始時点で店舗がJPYC決済を受け付けるには、JPYC社との加盟店契約は不要な一方で、「アンホステッドウォレット」(管理機関を介さず、利用者自らが秘密鍵を管理する暗号資産用デジタルウォレット)の開設や管理など、店舗経営者側に一定の専門知識が求められ、大型店・チェーン店では、POSシステムの改修を必要とする場合もある。
「クレジットカードという既存インフラを活用し、オンチェーン経済と実体経済を繋ぐことで、ステーブルコイン利用者の活用の幅を広げたいと考え、ナッジの柔軟な決済システム基盤を活かし、国内で初めてステーブルコイン『JPYC』によるクレジットカード返済を標準機能として実装しました。
これにより、世界1.5億以上のVisa加盟店での利用額をJPYCで支払えるようになり、加盟店側には一切の追加対応が不要です。
豊富な加盟店ネットワークを持つクレジットカードは、ステーブルコインの活用を後押しする有力な手段となり得ます。
日本初となる、クレジットカードの支払いをステーブルコインで行える仕組みが実現し、コンビニやレストラン、ネット上のサブスクリプションサービス、公共料金など、VISA加盟店であれば日本国内外を問わずあらゆる買い物をJPYCで決済できる環境が整います。
暗号資産を『投資や実験』から『生活のインフラ』へと進化させる現実解として、ステーブルコインを日常に組み込む事例となります」
日本のクレジットカードは、商品などを購入した翌月に銀行口座から購入代金を一括で引き落とす方式が一般的だが、「認定包括信用購入あっせん業者」であるナッジは、マイクロサービス基盤を活かし多様な返済手段を提供している。
クラウドネイティブ基盤とアジャイル開発体制を強みに持つナッジは、「JPYC払い」の仕組みをわずか3日間で開発。JPYC社の業登録完了から約1ヶ月という短期間で「JPYC払い」を実現した。
Nudgeカードの返済は、月1回の銀行口座からの自動引き落としのほか、任意のタイミング、金額で返済できる「いつでも好きなだけ返済」がある。従来の「セブン銀行ATM払い」、「銀行振込」に、新たな返済方法として「ステーブルコイン払い」が加わる。
「将来的には、幅広いステーブルコインや、トークン化預金、CBDCにも対象を広げる一方で、オンチェーン完結できる技術面での可能性にも挑戦し、将来のデジタル通貨にも対応可能な基盤を整え、金融DXのプラットフォーマーとしての役割を果たしていきたいと考えています」
【AJの読み】金融サービス×推し活でキャッシュレス社会の普及を推進するナッジの施策
アーティストやタレント、スポーツチーム向けに1 枚から発行できる提携クレジットカードの発行を支援し、170以上の提携先と300種類を超える以上のカードデザインを展開、Z世代を中心に支持を得てきたNudgeカード。
今回の会見では「JPYC払い」のほか、昨年12月にリリースされた、世界に1 枚だけのカードデザインを作成できる新機能「カスタムクレカ」の体験会も行われた。
「カスタムクレカ」は、ペットやイベント等ユーザーのオリジナル画像や思い出の写真などを使って、自分だけのオリジナルカードデザインを作成することができる機能。あらゆるシーンでフィンテック(Fintech/金融×技術)を活用したファンエンゲージメントの強化を支援したいと同社は話す。
今後の展望として、自社で培ったカード発行ノウハウを外部企業に提供する「クレカ as a Service」をTIS社との提携を通じて拡大し、流通やエンタメ業界での導入も予定しているという。
「国内初のJPYCへの迅速な対応は、ステーブルコインを日常的な金融サービスに活用するための第一歩であり、キャッシュレス社会の普及を推進する取り組みです。本施策をエンタメ大国・日本の成長を後押しする“ファンダム金融”実現への基盤と位置付け、ステーブルコイン払いの導入にとどまらず、エンタメ事業者の価値創造を支える施策を強化していきたいと考えています」
取材・文/阿部純子